中川さんの農事録
[中川さんの農事録]

おいしいブドウができるまでの農事録 第6回

連載※長野県松本市の東部高原で各種のブドウを生産する果実農家の中川 敦さん(47歳)が、月々の農事を綴ります。

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月です。みなさんこんにちは。ぶどうの管理作業が最も忙しい季節に入りました。去年は梅雨入りが6月14日だったのですが、今年は6月2日に梅雨入りということで、いきなり連日雨や曇天の日が多く仕事ができない日もあります。

それでもぶどうは、日に日に生長していくので、作業がやや遅れ気味になってしまって少々あせり気味です。うーむ、6月のスタートダッシュに失敗か・・・

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これがわたしのぶどう園周辺の景色です。見渡す限りのぶどう畑がひろがっています。ここは絶景の地で、天気がよければ北アルプスもきれいに見渡せるのですが、この時期はなかなか難しいですね。

それでは今月の農事録。

先月から取りだめしておいた写真でご紹介します。

ずはデラウェアの1回目ジベレリン処理。デラウェア栽培のハイライトです。4センチくらいに伸びた花穂(カスイ)を、一房一房こうして浸漬処理していきます。ジベレリンは、植物ホルモンの一種なのですが、この薬液でぶどうを種なし化することが目的です。

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処理に適する日数が数日しかないし、処理後の気象条件によって効果がずいぶん変わってくるので天気予報とにらめっこです。処理後にジベレリン液が流されるような降雨があった場合や翌朝露が降りないなどの条件があった場合はもう一度同じ処理をしなければなりません。

わたしの場合、全部で23,000位の房があるので雇用さんを使ってけっこう大変な仕事です。3つのデラウェア園で5月21.22.23日に作業をやってきました。

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で、ジベレリン処理と同日にもうひとつの大切な作業が摘心(テキシン)です。左は房のついている新梢の先端。この先端の先を指でつまんでカットします。これで9枚程度の葉っぱが残りました(右)。

これまで葉っぱや枝に流れていった養分が、摘心をすることによって、一時的に房へと転流するようになります。力強い房を作るためにはかかせない作業です。

ベレリンの薬液にはあといくつかの薬液を添加するのですが、その微妙な調合の加減は人それぞれです。また摘心の加減も、全ての枝を摘心する、いくつかを摘心する、ほとんど摘心しない、また摘心をするのにも先端ではなくて途中をカットして残す葉っぱを7−8枚程度にするなど、強弱の加減があって、これまた人それぞれです。このあたりがそれぞれの農家のスタイルみたいなもので、なかなか人に教えたがらない部分なんです。

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理の3日後。房がぐわーんと大きくなりました。ジベ液の効果はまずまずのようです。長さ8センチくらいになりました。

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こちらは5月29日の巨峰園です。脚立(きゃたつ)に乗って棚面の上に顔を出して見渡すと、こんな景色です。葉っぱの海・・・。新梢の長さは50〜60センチくらいでしょうか。

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房はこんな状態(左)。数えたことはありませんが一房に1000くらいの粒(蕾=ツボミ)がついているのではないでしょうか。その蕾を指で軽くしごいて、とりあえず長さ5センチくらいに、右写真のようにしておきます。これを「摘蕾(テキライ)」といいます。この作業をやらないと、強樹勢の木の場合や土壌の乾燥状態が長く続く場合に、落蕾(ラクライ)といって蕾が落ちてしまって哀れな姿をさらす症状が出ることがあります。

わたしも3年前初めて巨峰に挑戦した年に、作業が間にあわなくて見事にこの落蕾症状に遭遇してしまった痛い経験があるので、この摘蕾作業、早め早めにやることを心がけています。

月31日。巨峰の誘引(ユウイン)作業です。新梢が斜め上を向いています。直立しているものもたくさんあります。「この向きに倒れてよ」という方向にテープで固定してやります。房と枝の重みでそのうちだんだん枝が倒れてきます。

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下左写真が翌6月1日のデラウェア。地面に寝転んで上を見るとこんな眺めです。一本の剪定枝から出した3〜4本の新梢は、斜め前を向いて伸びるので、左のように葉っぱがずいぶん重なりあっています。

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その新梢を前後左右に散らして棚面に固定します。棚面を有効に活用するために。どうですか、これでどの葉っぱも太陽光の恵みを存分に受けられるようになって、葉っぱもウレシソウ・・・。だんだんぶどう畑らしくなってきました。上右写真。

れから9日後の6月10日。デラウェアの軸長は、左のように15〜16センチくらいまでに生長してきました。そこでいよいよハサミの出番です。上と下を切り落として軸長7センチくらいにしました。右写真。

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こんなに小さくしても最後は200グラムに近い立派なデラウェアができるんですよ。デラウェアはもうすぐ2回目のジベレリン処理です。目的はズバリ、粒の肥大化をはかることです。いやぁそれにしてもデラウェアは本当に手数のかかるぶどうです。

写真は同じ6月10日の巨峰です。5月末に摘蕾しておいた房を今度は3.5センチくらいにします。この状態で来週1回目のジベレリン処理に入ります。今、こんな小さくても、数えると45くらいの粒がついています。これで最後には500グラム位の房にまで生長していくんですよ。

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まだまだ気の抜けない緊張の日々が続きます。でも毎年のことですが、立派なぶどうが畑一面にたわわに実ることと、そのぶどうを「オイシー!」と言って人に食べてもらえることができたら、それまでの苦労などはいっぺんに吹っ飛んでいきます。そんな何にも換えがたいヨロコビを獲得するためにあと2ヶ月、ガンバリまっせ。

月は、ほぼ形になったぶどうの姿をお見せできると思います。どうか楽しみにしていてください。

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長野県松本市の東部高原で各種のブドウを生産する果実農家の中川 敦さん(47歳)が、月々の農事を綴ります。

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