中川さんの農事録
[中川さんの農事録]

おいしいブドウができるまでの農事録 第4回

連載※長野県松本市の東部高原で各種のブドウを生産する果実農家の中川 敦さん(47歳)が、月々の農事を綴ります。

sumire_.gif月です。みなさんこんにちは。

3月終わりの1週間は、待ちに待った春休みでした。幼稚園に通っている子供は春休みだったし、ぶどうもとりあえずは農閑期なので、まとまって休みがとれる期間でした。

兵庫県の海辺から引っ越してきたからだと思うのですが、信州のような内陸高地で暮らしていると、なにか時々息苦しくなることがあって、空気の動かない閉所に閉じ込められているような感覚に、襲われることがあります。

そのようなときには無性に海が見たくなるのですが、ちょうどよかった今年は両親が金婚式だったもので、そのお祝いにということで、親兄弟甥っ子姪っ子が伊豆の温泉に大集合しました。

どどーんとまぶしい太平洋の空気を吸って、温泉にたっぷり浸かって、宴会で騒いで大満足。その後、妻の実家の岐阜に少し滞在してから31日に松本に戻ってきました。

おかげですっかりリフレッシュして、充電も完了し、テンションもあがってきました。

4月になって、さっそくぶどう園にでかけてみると、ほら!

grape1.gif第2巨峰園ではスミレが可憐な花を咲かせていましたよ。

さて、今月の農事録――


pione_field.jpg

ちらピオーネ園。4年がかりで「ピオーネ」からわたしの所属するJA松本ハイランドのオリジナル新品種の「黄華(オウカ)」へ全面改植する予定の、今年が2年目。

土壌の排水性が良くないので、草を植えてみました。草生栽培にチャレンジです。去年の秋に種をまいたライ麦が10センチくらいに伸びてきました。目的はズバリ土中の硬盤破砕です。

70センチ以上伸びる根が硬盤を貫通して、透水性通気性を向上させることがねらいです。でも思うとおりに行くかなぁと、少々不安は不安。それに木が水分が欲しいときに草と競合してしまうとか、いろいろ課題があるのですが、まぁ今年1年、試しにやってみます。何事もチャレンジ、チャレンジ。

mekizu_ire.jpg

れはピオーネの枝。今、根が水を吸って木の内部の水圧が高まっているところです。ところが剪定で10以上の芽を残したというような長い枝の場合、枝の基部から中央にかけての部分が萌芽しにくいことがあります。全ての芽がきれいに揃って出るように、芽の先1センチくらいのところを、専用のハサミで傷をつけてあげます。芽傷入れというテクニックです。

this_is_mekizu.jpg

るとほーら、少し水が出てきました。
この芽傷入れ、まだタイミングがよくつかめなくて、
時期が早いと乾燥してしまうし、
遅いとカビが生えたりするらしいので
けっこう気を使います。
うまくいってくれるといいんだけれど・・・

planting_ohka.jpg

月はじめは苗木の定植シーズン。

これは「黄華(オウカ)」というぶどう。苗木の定植というのは、ぶどう園の将来を左右する大切なことなので、安易な妥協はせずに、ていねいにていねいにやります。

棚の上に他の木の枝が伸びて日陰を作ると、せっかくの苗木が光線不足になってしまって、生育不良をおこしやすいので、冬の剪定のときに、あらかじめ苗木を植える位置の周辺には他の木の枝をおかないようにしておきます。

わたしもこれまでに何十本の苗木を植えてきましたが、日陰になってしまうとどうしても生育がよくありません。そんな反省を踏まえて、今年は剪定の段階で苗木を植える位置の周辺は思い切って古い木の枝を切り、棚上を明るくしています。

さて、あらかじめ(3月下旬に)地面に直径1メートル以上深さ30センチくらいの穴を掘っておきました。その際、苗木の直下は山高にしておきます。つまり苗木の直下は深さ10センチくらいということです。

掘り出した土には完熟堆肥と少量のリン酸肥料と石灰肥料を混ぜて、よくなじませておきます。

そして4月、いよいよ定植です。

あらかじめたっぷり水を含ませた苗木の根の先端を切りそろえて新鮮な切り口にしてから、植え穴に放射状に根をまっすぐ広げて伸ばし、少し土をかけて固定します。

それから盛り土状になるまで土を埋め戻して、支柱を立てて、たっぷり水をやります。次に保温と乾燥防止と雑草防止のためにマルチでガード。最後に苗木を4〜5芽だけ残して上をチョキンと切ります。

切り口に癒合剤を塗布して完成!

うまく芽が出て生育してくれるといいのですが・・・

new_takasumi.jpg

ちらは「高墨(タカスミ)」という早生巨峰。こちらはシルバーマルチではなく、ヤシ殻マットを利用します。ハンギングバスケットで使う素材です。けっこう気に入って使ってます。

shimerah.jpg

て、これは何の器具でしょうか?

棚面に張り巡らせた線は年とともにゆるんできます。そのゆるんだ線をこの器具で締め直します。張線器またはその名の通りシメラーって言うんですよ。ご近所さんから借りて使ったのですが、買うと4万円くらいするシロモノだそうです。

線の両サイドを引っ張ると効果的なので2つ必要です。ちなみにぶどう棚用の線には素材として2種類があって、ひとつは半鋼線、もうひとつはステンレス線です。半鋼線は長い年月が経つと錆びてくるという欠点はありますが、まあ安価です。ステンレス線は耐久性は抜群ですが、ややゆるみ易いことと、高価なのが欠点です。ところが今年は北京オリンピック特需で、ステンレスが日本に入ってこないらしく、運よくステンレス線を手に入れても、価格が平時の3倍もするそうです。ふーん、オリンピックはこんなところにまで影響を及ぼしているんだ・・

speed_sprayer.jpg

れはスピードスプレヤーという防除(農薬散布)マシーン。去年の春に中古を手に入れてシーズンを通してフル稼働しました。実は昨年の12月中旬のことですが、これからの寒い冬に備えるため水抜きをして不凍液を入れてしっかり手入れをしようとして、圧力のスイッチを入れたとたん、パキーンと音がして水が吹き出てしまいました。配管内の一部がもうすでに凍っていて、その氷の力で管と管のジョイント部分が破損してしまったのです。氷の力はたいしたもんです。先日修理に来られたメーカーの方から「手入れが12月じゃあ遅いですよぉ〜」と諭された次第。修理代も数万円かかったし、高い授業料を払ってしまいました。反省。

dera_no2.jpg

2デラウェア園です。ここは、枝のしばりつけ、皮むきも終わって準備完了! 発芽直前に石灰硫黄合剤という農薬を散布します。年間通して最も重要な防除作業です。

dera_bud.jpg

もふくらみかけてきました。
あとは今月下旬の発芽を待つのみ。
楽しみ楽しみ。
いよいよシーズンがはじまります。

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