岩垂さんの農事録
[岩垂さんの農事録]

オレさまの安曇野 風雲 農事録 連載第10回

連載※長野県安曇野市三郷(みさと)地区で、農家家業をついでリンゴを作りはじめて5年目になる岩垂和明さん(40歳)が、幾多の押し寄せる誘惑や困難を乗り越えて時として風雲急を告げる月々の農事を綴ります。



れは11月のとある朝のこと。

11月にもなると、春夏のように
早朝からガンガン働くということもなくなり、
布団の中でまどろみつつ
幸せな時間を過ごしていたときでありました。

突然、
お袋に叩き起こされた。(−−〆)

「っんだよ」

聞けば、
昨晩お袋がむいた「柿を吊るせ!」と言う。

ということで、

吊るしました。(^_^;)

hoshigaki_1.jpg

今年は柿が裏年。

ウチも例年よりは少ないながらも、
自分の家で使う分ぐらいは十分に採れました。

hoshigaki_2.jpg

これぞ、The 日本の秋!?。

autumn_azumino.jpg

さて、

畑の近くにある桜の古木も紅葉してくるこの季節、、、

ウチでは10月末から、いよいよ
りんごの王様「サンふじ」
収穫に入ります。

sunfuji_2009.jpg

これが今年最後の品種ながら、わが家の畑の半分以上を占める「サンふじ」。

収穫は、11月後半まで続きます。

ところで、、、

「サンふじ」と「ふじ」は、品種が違うわけではありません。実際は、どちらも「ふじ」という同じ品種ですが、育て方に違いがあります。一般的に言われている「ふじ」とは、りんごに着色を促すための袋かけを行いますが、「サンふじ」はこの袋かけを行いません。つまり「サンふじ」とは、太陽の日をいっぱい浴びて育てた「ふじ」という意味なのです。

さてさて、この「ふじ」という品種。味は糖酸度のバランスが良く人気があるのに加えて日持ち性も良く、とても優秀な品種なのですが、同時に農家泣かせのとても作りにくい品種なのです。(TT)

値段も、高いものは10K箱で10,000円以上、(@_@)

都内の高級デパートでは1個800円もするものがあるにもかかわらず、

農家は、まっっっったく、儲からない。(+_+)


ふじが儲からない理由 その1

なぜならば、、、

まず1つ目の理由:収穫時期が遅い(10月末〜11月末)。

例えば「つがる」などの早生品種は、8月末に採れはじめ、遅くとも9月中旬には終わります。

しかし、「ふじ」はそれに遅れること約2ヶ月。

この2ヶ月がかなりの曲者(くせもの)。

まず、管理のための費用が余分にかかります。

まぁ人件費は自分が我慢して働けばいいだけの話ですが(-_-;)、

草刈りや、病害虫防除など、余分にやらければならないわけで、その分のコストがかさむのです。

また、収穫が遅くなることで、リスクも大きくなります。

台風にあう可能性が大きくなるし、台風以外でも、

秋になると必ず吹いてくる
台風並みの季節風の被害や、

sunfuji_a.jpg

渡り鳥による食害など、

sunfuji_b.jpg

この2ヶ月間にりんごが受ける被害は相当なもの。

しかも11月にもなると、山に雪は降るし、

november_snow.jpg

とってもさむ〜〜〜ぃ。((+_+))

sunfuji_c.jpg

りんごも凍ります。

sunfuji_d.jpg

マジで寒い中、鼻水垂らしながら仕事をせにゃならんのです。


ふじが儲からない理由 その2

2つ目の理由:製品化率が悪い

この「ふじ」という品種、とても性質が悪く、、、

例えば、、

形が悪かったり、

sunfuji_e.jpg

サビ(表面がザラザラしたような感じ)になったり、

sunfuji_f.jpg

なっている状態で割れたり、

sunfuji_g.jpg

と、規格外品や加工品、捨てちゃうものが山ほど出るのですよ。

中にはこんなものも、

sunfuji_h.jpg

一見ふつーの「ふじ」のように見えるのだけれども、

良く見ると、なんかちょっと窪みの部分が浅いような、、、

で、切ってみると、

sunfuji_i.jpg

ほーら、窪みの下の部分が空洞化しているでしょ。

特に今年のように収穫時期に雨が多いと、この部分に水が溜まり腐りはじめてしまうのです。

乾いていれば安く売れるのだけど、、、

今年は加工用に出すか、捨てるしかないね。(TT)

sunfuji_j.jpg

でも↑の空洞化したりんご、蜜も多くてウマそうでしょ? 今食ったらきっと、冒頭の1個800円「ふじ」にも負けないぜ!

そんなこんなで、最初に出てきた高級ふじのレベルのものは、ウチの畑の中でもほんの数パーセントにも満たないほどしかできません。

半数以上は小売に安く買い叩かれてしまうのです。(TT)

それでもなぜふじを作るのか?
しかし、そうまでして、なんで「ふじ」を作るのか?

なんだかんだ言っても、「ふじ」はウマいですからね。

ここまで育ててきた作り手の苦労と、それ以上に、厳しい安曇野の自然環境で育ってきたりんご自身の苦労が、ウマさとして詰まっているのだと思うのです。

いや、もしかすると、中にはそれほどウマくないものもあるかもしれないけど(^_^;)、

そいつらだって、厳しい暑さ寒さ、風雨に耐えここまでやってきている。

そう考えると、一個だって無駄にはしたくないのですけどね。

ここ安曇野には、カリスマと呼ばれる農家はいないし、ましてや奇跡と呼ばれるりんごはないかもしれません。でも、ひとつひとつのりんごに気持ちを込める農家と、自分なりに1年間一生懸命耐え抜いて実になったりんごたちがいます

そんなりんごを、たくさんの人に食ってみてもらいたいですね。


さ・て・と、

収穫終了まであともう少し。

残り、気合い入れていきますよ!

ということで、今月はこの辺で。

I'll see you around!(@^^)/~~~


あわせて読みたい

● I'm a farmer!(岩垂和明さんの個人ブログ)

この記事を書いた人

長野県安曇野市三郷(みさと)地区で、農家家業をついでリンゴを作りはじめて8年目となる岩垂和明さん(44歳)が、幾多の押し寄せる誘惑や困難を乗り越えて時として風雲急を告げる月々の農事を綴ります。

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