「天候の見極めがわれわれ、天屋(テンヤ)の腕のみせどころ」と話すのは、茅野市米沢で寒天づくりを行なう土橋宏行さん。天屋とは、昔から寒天づくりを生業としている生産者のみなさんのこと。伝統食としてだけでなく、近年は健康食品、さらにはダイエットにも有効な食材として注目を集めている寒天は、じつをいえば「心太=トコロテン」をカチンコチンに凍らせて、それを脱水、乾燥させたもの。
信州諏訪地方で、寒さが最も厳しいこの時期にだけ見ることの出来るこの「天然乾燥寒天」は、自然と人の手が生み出す冬の風物詩であり、信州が誇る「スローフード」のひとつなのです。
寒天づくりの作業は、毎年12月半ばから翌年の2月半ばまでの厳寒期にのみ行なわれます。稲を刈り取ったあとの広い水田を利用するため、古くから農家の冬場の作業として定着しました。
ではさっそく、角寒天をつくる凍乾場(とうかんじょう)と呼ばれる干し場へご案内しましょう。
自然と人間の共同作業
寒天づくりが行なわれている茅野市一帯は諏訪湖の東側の、県内でもとりわけ寒さが厳しい地域です。諏訪湖が氷結するぐらいですから、ときには、氷点下20度前後まで下がるときもあります。さらに、日中晴天の日が多くて湿度が低いという天然の寒天づくりにふさわしい条件をそなえているのがこの地方。現在も昔とかわらない製法の凍乾法を行なっている土橋さんの作業をご覧あれ。
製造の順序は、天草(テングサ)、オゴノリなどの海藻の配合、水漬(みずづけ)を行い、洗滌(せんじょう)し、煮熟(しゃじゅく)、濾過(ろか)、凝固、切断をします。2、3日かけて完全凍結、乾燥を行ないます。最後に、仕上げの乾燥をし、品質検査をして出荷されます。これらの工程を10日から2週間ぐらいかけて、約4センチ角、長さ30センチほどの角寒天にしていきます。
雨は困るが雪は
「昔から『天屋殺すににゃ刃物はいらぬ。雨の十日も降ればいい』という言葉があってね。それだけ、われわれは雨が一番困るんだ。雨に当たると、外に干してある生天(なまてん=トコロテンのこと)が腐ってしまう」土橋さんはつづけます。「凍結1日目の天候で、製品の出来に大きくかかわる。山間から、急に天気が悪くなることもあるから、すべての生天をまとめて『総積み(上写真)』にしなくちゃならない。こりゃ、お天道様との勝負だな」
しかし、そうはいっても、ただ雪が全く降らないというのも、それはそれで問題のようで「雪が一面にうっすら覆うと、砂じんが生天に付着するのを防いでくれる。すると、八ヶ岳連邦や蓼科高原地帯特有の寒気が、光沢ある良質な寒天を恵んでくれるんだよ」と土橋さんは微笑みます。
美容と健康に寒天は毎日食べましょう
現在、信濃寒天農業協同組合の組合長も務める土橋さんは「最近の消費傾向は、美容を意識した女性の方はもちろん、お腹周りのメタボを気にするお父さん世代から問い合わせが増えています」と語ります。「寒天は、伝統ある健康食材。毎日少しずつ食べてもらうのが一番いい。信州の角寒天は自然とわたしたち天屋が責任を持って作っています」
寒天は美味しいだけでなく、右図のように、われわれが健康を保つために大変重要な食物繊維を多く含んでいます。その含有量は、レタスの約100倍とも言われ、角寒天は約81.29パーセントが食物繊維です。これは、体内の新陳代謝を促し、肥満防止、便秘予防、動脈硬化、大腸ガンの予防につながる食品として多くの医師たちが注目しています。しかも寒天はノンカロリーで、いくら食べてもカロリーは気にする必要がありません。実際に、夕食前の寒天食を続けて、糖尿病患者の血糖値やコレステロール値が低下したしたという研究も発表されています。
カンタン寒天料理レシピ
■寒天入り味噌汁
材料(4人分)
角寒天 1本
味噌汁 4人分
(1)寒天1本を水で押し洗いしておく。
(2)味噌汁を作る。(ご家庭の味で)
(3)お椀などに盛ってから、(1)をよく絞り、細くちぎり入れる。
◇ポイント 日本人の心のスープ味噌汁だけでなく、お吸い物、ホットミルクにも同様にお楽しみできます。
■牛乳かん
材料(4人分)
角寒天 1本
水 200CC
牛乳 250CC
砂糖 50グラム
(1)寒天1本を水250CCで、煮溶かします。
(2)牛乳250CC、砂糖50グラムを加え煮立て裏ごします。
(3)型に流し込み固めます。
◇ポイント 少し上のほうが固まったところで、みかん、サクランボなどを乗せるとさらにおいしくなります。天よせの固さは水の量でお好みで調節を。トマト寒天も同様にできます。目安は、トマトジュース450CCに対し、角寒天1本、水50CCです。
■かぼちゃ寒天(ちょっと手を加えて)
材料(6人分)
角寒天 1/2本
かぼちゃ 200グラム
水 300CC
牛乳 300CC
砂糖 150グラム
ラム酒大さじ 2
シナモンパウダー 少々
生クリーム 100CC
チャービル 少々
(1)かぼちゃは皮をむいて200グラムにして、一口大に切り、ラップに包んで6〜7分電子レンジにかけ熱いうちによくつぶし、牛乳100CCを加えてよく混ぜる。(2)寒天は水に5分つけ、水気を絞ってからちぎり、水300CCとあわせて鍋に入れ中火にかける。煮立つまでよく混ぜ、煮立ったら2分ぐらい煮立たせ、砂糖を加える(3)かぼちゃに(2)を加え、牛乳を加え混ぜ、万能こしでこす(4)シナモン、ラム酒を加え、お好みのグラスに流し、冷蔵庫で冷やし固める(5)軽くあわ立てた生クリームを乗せ、シナモン、チャービルを飾る
◇◎Tips さらに、お米を炊飯器で炊く場合、炊くスイッチを押す前に水で戻した角寒天を約半分くちぎって加えると、ツヤが出て、しかもおいしく食べれますよ。
あわせて読みたい過去の記事:
厳寒期の信州の風物詩寒天づくりを見てきた(2007年2月)
海のない信州でなぜ寒天なのか?(2005年1月)
関連サイト:
信濃寒天農業協同組合
長野県寒天水産加工業協同組合
*当記事を作成するにあたり、『信州寒天業発達史』矢崎孟伯著(銀河グラフィック選書5)1993.3.10刊 を参考にしました。