「日本中で、塩尻にしかないものをつくろうと必死だった」と当時を振り返るのは、塩尻市広丘の保科郁夫(ほしな いくお)さん、85歳。保科さんが手がけたブドウは、手入れの行き届いた畑で、こがね色に見事に輝いています。この美しいブドウたちは「ゴールデンナイヤ」(商標登録)と言います。長い年月を掛けて保科さんが手がけたゴールデンナイヤのやさしい甘酸っぱい香りが、今日も園内いっぱいに広がっています。
塩尻市は、長野県内でもブドウの一大産地。場所は、松本盆地の南端に位置し、信州のほぼ中央にあって、本州の分水嶺があります。市内には信濃川水系の奈良井川と田川、天竜川水系の小野川の豊かな水が流れ、周囲をぐるっと北アルプス、鉢盛連峰、東山・高ボッチ山、さらには中央アルプスの山並みが取り囲み、田園風景が広がっています。気候は、降雨量は年間平均1200mmと比較的少なく、寒暖の差が大きいのが特徴で、美味しい農産物を育ててくれる土地柄です。
おそらく「ゴールデンナイヤ」という名前を聞いただけで、ブドウ好きな方であればピンときた方もいるかもしれません。そう、ゴールデンナイヤは、ブドウ品種のひとつ「ナイヤガラ」を、とりわけそのなかから優良系とされる良いものだけを選抜して創りだされたものです。もともと塩尻市はおいしいワインが醸造されるところとしても知られ、ナイヤガラは、品種「コンコード」同様に加工用ブドウとしてワインの需要も高く人気でした。
ナイヤガラの品質を高めよう
「ナイアガラは、もともと木によって個体差があり味・形にバラツキがある。昭和50年代は、ナイアガラの生食用はあまり人気がなくてね。元気のなくなった産地をなんとかしなくてはと強く思った」と保科さんは語ります。
そこで、まず品質の良いナイヤガラにするため、苗木の系統選抜にとりかかりました。畑は、ブドウの中でも手間をかける巨峰並みに、ひとつひとつ手入れをし、地道に高品質のナイアガラの生産に努めたのです。ブドウの房、粒、糖度の良い枝をさし木し、畑への光の量の調節など、理想に近づけるような木になるよう考え得るだけの試行錯誤が続けられました。
そして、昭和60年7月「ようやく理想のナイアガラ生産出来る目途がついた」と、特許庁に「ゴールデンナイヤ」の名前で商品登録を申請したのです。すでに、選抜をはじめて10年の歳月が過ぎていました。いいものをつくるために妥協をしない、という保科さんの想いがようやく形になった瞬間でした。(写真は、昭和60年当初からの木)
化学肥料は一切使わずに
畑の土には、とにかく最も気をつかい、化学肥料などは一切使わず、有機質の稲藁と菜種油の絞り滓(カス)のみを使った栽培を昔から変わらず続けています。「この土だと、『ゴールデンナイヤ』本来の甘さに、プラス『うまみ』がブドウにのるんだよ」と保科さんは語ります。
保科さんが自ら定めているゴールデンナイヤとは、
○1粒が最低4グラム以上
○1房が250〜300グラム以上
○糖度が16度以上
という具合に、とても条件が厳しいものです。しかし「この要件を満たせていれば、しっかり畑や木、土に手入れが行き届いている証拠で、このように黄色く完熟し、ナイヤガラとは断然違う品種になる」と保科さんは胸をはります。
一度食べれば毎年食べたくなる
現在では、保科さんの商標登録後、JA塩尻市や県JAでもゴールデンナイヤの産地化をすすめ、数量こそさほど多くないものの、各地のブドウ産地でこれが栽培されています。流通は主に関東・中京、関西方面で、特に贈答用として人気が高く、求められる方の多くの方がリピーターだとか。
「今年は、大きな病気もなく約2トンを見込んでいる」と保科さんは笑顔で教えてくれました。今後は「多くの方に、ゴールデンナイヤの味を知ってもらいたい」と嬉しそうに語ります。日本中で、塩尻にしかないものをつくるという保科さんの願いは、このようにして現実のものとなったのです。
売り切れの際はご容赦を
現在、保科さんや塩尻市のブドウ農家による「ゴールデンナイヤ」は、塩尻市のJAワイン農産物直売所で販売されています。すでにシーズンも終盤にあたり、ゴールデンナイヤは出荷数が少なく、午前中で完売してしまうことがあります。詳しくは下記の直売所までお問い合わせください。
JAワイン農産物直売所
〒399−0704
塩尻市広丘郷原1811−4
営業時間:8時30分〜18時
休業日:毎月第2火曜日
電話 :0263−52−1965
FAX:0263−53−7255
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