長野県は今年度から信州の伝統野菜認証・支援事業をはじめています。この事業は、県内各地で栽培されている「地域固有で文化的価値の高い伝統野菜」を認定し、風土や歴史を大切にする生産を推進して、地域に根付いた味覚や食文化を提供発信するもの。信州伝統野菜認定委員会では、30年以上前から栽培され、生産者の努力によって今日まで種が守られてきた特徴ある野菜を、現在26種類認定しました。今回はそのひとつ、三岳黒瀬蕪(みたけくろせかぶ)を紹介します。
幻の蕪「三岳黒瀬蕪」とは
山の連なる木曽地方では谷あいごとに特徴ある赤蕪が栽培されています。開田蕪、王滝蕪などが有名ですが、三岳黒瀬蕪もそのひとつ。木曽町三岳、県道20号線(開田三岳福島線)沿いにあるみたけグルメ工房に、代表の西尾礼子さんを訪ねました。
「結婚してこの地に来た頃、三岳では王滝蕪を作っていたんですよ。不思議に思って調べたら、あったんですよ三岳黒瀬蕪が。」
西尾さんはそのように当時を振り返ります。旧黒瀬地区には在来種の黒瀬蕪が昔から栽培されていましたが、昭和33年に同地区に牧尾ダムが建設されて全戸が移住したため、絶滅したとされていました。
ところが、村内に移住した1戸の農家、井向美千代さんが40年にわたって他の蕪と交配しないよう、脈々と黒瀬蕪の種を守っていたことがわかったのです!
13年間守り続けて
そこで、この貴重な黒瀬蕪を復活させ、地域の活性化に役立てようと、生産者と農村女性グループ「こまくさの会」が協力して、生産拡大の取り組みが今から13年前の平成6年にはじまりました。現在ではみたけグルメ工房だけで年に4トンを漬けるまでになりました。
三岳黒瀬蕪は、円錐形で肉質は緻密でやや硬いのが特徴です。漬け物にすると歯ごたえが良く、蕪が持つ辛味が漬けた後も残ります。蕪は甘酢漬け、葉や茎の部分は塩ではなく乳酸のみで作る木曽地方独特のすんき漬けになります。
信州の伝統野菜認証・支援事業では、加工品にも認証マークの使用を認めており、みたけグルメ工房で作る「赤かぶ漬け」「すんき漬け」にもこのほどマークの使用が認められました。
みたけグルメ工房では、この三岳黒瀬蕪以外にも地域の農産物を活かした加工品を、なんと64種類も開発して販売しています。「夢はグリーンツーリズムですね」と西尾さん。梅のもぎとりやジャガイモ掘り、三岳黒瀬蕪の収穫・漬け物体験をさらに発展させたいと思案中だとか。農村の女性パワーが伝統野菜を守り、発展させてくことでしょう。
信州の伝統野菜に認定された野菜は、伝承地栽培認定野菜の表示に使用できる認証マーク(証票デザイン)を使用しています。長野県内の直売所などで出会うことがあったら、ぜひお試しください。
みたけグルメ工房のWebサイト
信州の伝統野菜Webサイト(長野県提供)
★信州の伝統野菜の魅力を探る信州伝統野菜ネットワークフォーラムが長野県の主催で12月4日(火)に松本市で開かれます。基調講演 「歴史的文化財としての信州伝統野菜」信州大学農学部 教授 大井美知男氏
信州伝統野菜ネットワークフォーラム