長野県内には、地域固有の食文化とともに育まれてきた「信州伝統野菜」があります。現在は認定されているのは75種類。限られた地域で今日まで脈々と伝えられてきた貴重な品種の野菜たちが、時代の流れとともに淘汰されていく中で、長野県では、平成19年度に信州伝統野菜認定制度が創設されました。今回ご紹介する小森茄子(こもりなす)は、昨年(2015年)10月に認定されたばかりのニューフェイスです。
小森茄子の畑は、長野南オリンピックスタジアムの周辺に点在
「小森茄子」は、長野市篠ノ井東福寺小森原産の丸茄子です。夏野菜の代表ともいえる茄子は、日本での栽培の歴史は1000年以上、その種類は世界で3000もあるといわれています。長円形の長茄子、巾着形の丸茄子、短卵形の小茄子など形はさまざま、色は紫紺色ですが、めずらしいところでは緑や白の品種もあります。小森茄子は黒味が強い紫紺色が特徴です。 長野県内でも地域によって好む(作る)茄子はバラバラ。今回紹介します丸茄子がよく作られるのは、県北部です。ちなみに信州伝統野菜に認定されている茄子は5種類。その中に丸茄子の認定は、栗が全国的に有名な小布施町山王島原産の「小布施丸なす」と「小森茄子」の2種類。2つの産地は、ともに千曲川の沿岸にあり、明治時代から栽培されてきました。
小森茄子の畑
小森茄子栽培の最盛期は、昭和10年代から昭和50年代頃。その当時、小森地区の農家(120軒)の庭先は、蔬菜苗(野菜の苗)を育てる温床で埋めつくされていたといいます。苗の温床に用いる土には肥沃な河川敷の土を使うなど、丸茄子苗を育てていた農家も多くありましたが、現在、小森地区で蔬菜苗を育てる農家はたった1軒となってしまいました。その背景には、大手種苗会社の新品種開発の影響が大きいようです。
5年前、同地区の区長だった滝澤知寛さん(66)が、地域再生のための「東福寺のいいもの探し」を企画し、そこで見つけた地域のいいものが「小森茄子」です。明治時代から栽培され、昭和50年代まで地域の多くの農家が苗を育て、その苗は周辺地域に販売されていました。「地域の食文化とともに育んできた小森茄子を復活させたい」と思いたった滝澤さんは、長年小森茄子苗を育ててきた蔬菜苗農家の久保詔幸さん(72)の協力をもらい、知人や親せき3、4人で200本の苗を植え育てたのが復活の始まり。手ごたえを掴んだ滝澤さんは、2年目に「風土リンク」を立ち上げ、小森茄子復活促進セミナーを開催。長野市篠ノ井東福寺地区を中心に、小森茄子栽培者を募ったほか、家庭菜園での復活栽培も奨励した結果、現在、生産農家は10人に増え、28年度の苗供給は1000本となりました。
「小森茄子が地元の人たちの誇りになり、これからも食べ続けられる環境をつくりたい」と、夢を語ってくれた滝澤さん
茄子の枝が折れないように支柱で支える
不要な葉を間引く
滝澤さんの小森茄子の畑に足を踏み入れてびっくりしたのは、茄子の樹の大きいこと。小森茄子の樹は大きく成長するので、株と株の間は3尺(90cm)、畝と畝の間は4~5尺(120~150cm)離して植え、枝が折れないように支柱を立てます。枝吊りや不要な葉摘みなどの手入れを行えば、付いた花はすべて実になり、1本の樹から30~40個収穫できるそうです。1個の重さは約250~350gにもなるので、1本の樹の収穫量は、約10kgといったところでしょうか。 小森茄子は、他の茄子と比べ、棘が大きく鋭いので、収穫時には細心の注意が必要です。また、果肉が厚く、密度が高いので、手に持つとずっしりと重みを感じます。
調理用途は広く、蒸す、茹でる、焼く、漬けるなど、いろいろな料理に使われています。信州名物の丸茄子の「おやき」もそのひとつ。輪切りにした丸茄子に砂糖味噌をはさんで、小麦粉の皮で包み、蒸す、というのが、県北部での一般的な作り方です。昔からこの地域では、お盆のお供えとして、どこの家庭でも手作りされていました。小森茄子は、肉厚でジューシーなので、おやきはもちろん、天ぷらにしても絶品です。
小森茄子の鴫(しぎ)焼き
滝澤さんのおすすめの一品は、鴫(しぎ)焼き。フライパンにオリーブ油をひき、厚め(3、4cm)に輪切りした丸茄子の表面を焼き、しょう油をかけて食べます。「シンプルがゆえに、おいしさがストレートに伝わる一品」(滝澤さん)です。
「風土リンク」が出荷する「小森茄子」の呼び名は「こもりまるこ」。写真↑のようにへたを長く残すのが風土リンクの小森茄子の特徴です。 滝澤さんは、「自分の人脈をリンクさせたら何かができるのではないか。リンクさせることで、地域貢献と自らの楽しみができ、農家・地域の活性化につながるのではないか」と考え、「風土リンク」という名前にしました。主な出荷先は東京や長野市内の市場で、今年から金沢や京都の市場にも販路を拡大しています。それ以外に、デパートなどでの直接販売も行い、小森茄子をデザインした紙袋やチラシを手づくりしてアピール。「世界に一つだけ、手づくり感たっぷりの紙袋は大変好評で、第二弾としてトートバックを只今制作中」。バックは販売も考えていて、小森茄子(こもりまるこ)の認知度向上にもつなげることを狙っているようです。
小森茄子と手づくり袋
これからの時期、長野県北部にいらっしゃる機会がありましたら、農産物直売所などを覘いてみてください。もしかしたら「信州伝統野菜」の丸茄子に出会えるかもしれませんよ。
こちらは 2016.07.26 の記事です。農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。
さくら
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