え? キノコの仲間かって? 違いますよ。稲を大きくしたような葉で、沼や川などに生える東アジア原産のイネ科の多年草にマコモという植物があり、このマコモの茎が肥大化したもののことです。マコモという植物は水のあるところで生育しますので、栽培は水田でおこなわれます。はじめは稲苗と同じように一本の苗ですが、田植え後水稲のように分割し、茎が20〜30本ほどになり、丈は約2mまで成長します。夏を過ぎると、マコモに寄生した黒穂菌の影響で根元の部分の茎が横に肥大してきます。その部分(下写真)を『マコモタケ』と呼び、この肥大したところ=外皮をむいた白い部分(長さ15〜25cm、直径3〜5cm、重さ50〜250gに育ったもの)を食すのです。
植えるところによって当然差がありますが5月ごろ植えて9月中旬〜11月にかけて収穫されます。マコモは漢字で書くと「真菰」と書きます。地球の主のような植物で、今から6千万年から1億万年前も現在と同じ姿で存在していたことが化石によって確認されているとか。マコモタケは中華料理などに使われ、中国や台湾など東アジアではポピュラーな食材のひとつですが、長野県内でも休耕田を利用して栽培している地域があります。マコモサミットが開かれたという長野市豊野町に、峯村すみ子さんの圃場を訪ねました。
圃場に着いて度肝を抜かれた
本当に背が高いのです! 写真を見てください。こんなに大きいんですよ! 高さ2.5メートルはあるでしょうか? 迫力満点ですね! 出荷されるものしか見たことがなかったのですが、やはりイネ科の植物です。イネの葉にそっくり。大きすぎてススキ畑にいるかのような錯覚を受けました。ひとつの株から5〜6本のマコモタケが収穫できるのだそうです。さっそくとれたてのマコモを生でかじらせてもらいました。渋い? かと思いきや、しゃりっとした歯ざわりで味は淡白、ほんのり甘く、うーん、思ったよりおいしい。もっとエグミがあるのかと思っていたのですが。
もともと豊野町は果樹を主体とした地区ですが、高齢化と、水田転作として遊休農地も目立ち、簡単に栽培できるものはないかと試行錯誤を繰り返してきました。そして「まこもたけ」に目をつけ、平成12年、当時農業委員だった峯村さんと坂爪英子さんの二人が栽培をはじめました。峯村さん宅は、リンゴを1.8ha耕作、そして水田の一部5aにマコモを栽培しています。
今年は1週間から10日ほど収穫が遅れているらしいですが、豊野町はリンゴや梨を栽培している農家が多くて、マコモタケの収穫作業と果樹栽培の作業が時期的に重なってしまうため、なかなか量的に増えていかないのが悩みの種。現在豊野町では16人の栽培者がいます。マコモは栽培管理が比較的楽で高齢者にも勧められる作物なのです。
峯村さんは栽培だけにとどまらず、マコモタケの消費拡大を目指して料理研究会も発足(会員4人)し、料理法も紹介しています。生でサラダにも利用できますが、加熱した方が甘味や香りが増すとか。峯村さんのおすすめは、『マコモのから揚げスティック』スティック状に切ってそのままつまんで食べれます。おつまみにもいけます。
マコモのから揚げスティック
材料
マコモ200g、だし汁100cc
しょうゆ大1/2、砂糖小1、塩小1/2、片栗粉大3、揚げ油適量
作り方
- マコモの皮をむき、6cmの長さに切り、縦に8〜10等分に割る。
- だし汁、調味料の煮立った中で、2〜3分煮て味を含ませ、水分をきっておく。
- 片栗粉をまぶし、180℃の油で周りがカラッとするまで揚げる。
*注意事項 加熱しすぎるとやわらかくなって歯ごたえがなくなってしまいますので気をつけること。
マコモタケは他にも、塩・こしょうで炒めても美味しくいただけます。
マコモには特別な力がある
たとえばマコモには水質浄化の働きがあり、霞ヶ浦や琵琶湖をはじめ、マコモを使った水質浄化事業が行われています。
また、マコモの柔らかい芽や茎の回りは餌場として、産卵場所として、そして隠れ場所としていろいろな水棲生物が集まります。冬になれば白鳥などの水鳥がマコモの肥大した根をえさとしてついばみます。マコモはこのように優れた浄化植物の一つであると同時に、多くの生物に対して優れた生息環境を作ってくれ、生態系の潤滑油のような役割も果たしているのです。
マコモの根を粉末状にして風呂の入れると、水が腐らないと言われています。一説には水を腐らせる湯垢や体から出る老廃物を、マコモの耐熱菌が分解してしまうからとも。すぐれた体内浄化作用を持ち、アトピーや切り傷などにいいのではともいわれてさまざまに商品化もされています。
さらにはお釈迦様が葉を編んでマコモでムシロを作り、その上で病人を治療したという話が残っているそうです。また、お釈迦様がとてもかわいがっていた象に、マコモの葉を食べさせたという話もあります。
マコモは、米よりもはるかに古い穀物で、古代ではマコモも含めて「六穀」だったとか。また北米大陸の先住民のなかには、英語名で「ワイルドライス」と呼ばれるマコモの実(菰米)を、いのちをつなぐ最も大切な食べものとして伝統的に食べ続けている人たちもいます。ワイルドライスは現在欧米では健康によい高級食材として利用されています。ワイルドライスをほんの少しお米に混ぜて焚いてもおいしくいただけます。
また、神社で使うしめ縄や茅の輪などの道具や祭事にも多く利用されたり、敷物としてのこもやムシロなどに欠かせない材料としてもマコモを利用しています。写真はマコモを利用してつくられるねこつぐら(左)、宝船(右)で、いずれも豊野町で作られたものです。
マコモタケをめしあがれ
マコモタケは食物繊維やたんぱく質、ビタミン、ミネラル、カリウムを含む健康食品です。特に食物繊維が豊富で、腸内の老廃物を取り除く効果が期待できます。またカリウムを多く含んでいますので血圧を下げる効果があると言われています。
気温が下がると、黒穂菌の黒い色素により、マコモの乳白色部分にまれに黒い斑点ができることがあります。この斑点は古くから眉墨、お歯黒などの染料として使用され、食べるには無害で食感にも変化がありませんので、安心してご賞味ください。
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