ひとたびハウスの中に入ると、23℃前後に保たれた暖かい空間に「これは本当にイチゴハウスなの?」と疑うほどの近未来的空間が広がっていました。 県北部の長野市、千曲川(信濃川)流域にある、長野ベリーファーム株式会社のイチゴ園です。こちらのイチゴ園は、JAながのの直売所「アグリながぬま」に併設されており、いちご狩りのついでに農産物の買い物ができるだけでなく、国道沿いでアクセスが良いことや、毎年1月1日から開園しているため、お正月で遊びに来ている親戚と一緒に行ける、という点でも人気のイチゴ園です。
長野ベリーファームでイチゴやトマトを栽培する岡田敬司さん。以前は野菜や果実の栽培を振興する仕事をしていましたが、野菜や果物に関わる中で、自分で一から栽培し、販路の確保等をしたいと考え、11年前に脱サラし就農しました。また、岡田さんは人材育成にも積極的に取り組み、これまでに5人を独立させてきました。
まず驚かされるのは、イチゴを育てる棚です。上下に吊り下げられていて、すぐ目の前にも、見上げても、赤いイチゴが目に飛び込んでくる幸せな空間が広がっています。興奮気味でしばらく眺めていると、「これは上下移動式ベンチといって、韓国製の最先端モデル。日本ではじめて導入したんだよ」と岡田さんが説明してくれました。イチゴ栽培の先進国であるヨーロッパでは露地栽培が主流ですが、韓国は日本と同じくハウス栽培が主流です。日本ではじめて上下移動式ベンチを採用した長野ベリーファームには、国内外から視察が訪れるなどしており、日本での導入が徐々に広がりつつあるそうです。
イチゴ棚はハウスの天井から交互に吊り下げられています。一般的にイチゴの棚と棚の間は90cm以上の幅がないと人が通れず、農作業も行えないため、作付けできる株数は限られてしまいますが、空間を立体的に使うことによって十分な作業スペースを確保できるだけでなく、10a(約一反歩)で作付けした場合、通常の1.7倍の株数を育てることができるため、その分収穫量も上がります。約10aあるこのハウスには、12,300株のイチゴを植えているそうです。
イチゴは9月に株を植え替えると、11月中旬頃から収穫が始まります。2019年10月中旬、ちょうどイチゴの花が咲き始め、収穫の目途が立った矢先でした。台風19号で増水した千曲川が決壊。千曲川流域にある岡田さんのハウスも災害に見舞われました。水は150cmほどの高さまで押し寄せ、水が引いた後のハウス内には、水分を含んだ重い泥が10cm積もっていました。農業ボランティア(畑や田んぼ等の圃場の復旧作業を行うボランティア)の募集もまだ始まっていないときだったので、知り合いや親戚総出で泥の掻き出し作業が始まりました。水分を含んだ重たい泥を一輪車で運び出すのは容易ではなく、皆で作業しても膨大な作業時間がかかった、といいます。心が沈んでしまうような状況でしたが、「飛び込みのボランティアが『何か手伝えることありますか』と来てくれたのは、とてもありがたかった」と振り返ります。
岡田さんが所有するハウス全棟の作業が終わったのは11月の末。本来であればイチゴの収穫が始まる時期ですが、水に浸かってしまった株もありました。水に浸かってしまった株に関しては、実の収穫はおろか株自体も交換しなければなりません。しかし、イチゴの植え替え時期は9月。植え替えようにもイチゴの株も手に入りにくい時期になっていました。困っていたところに、野菜苗を生産販売している山梨県の会社から、試作段階でまだ品種名も付いていないイチゴの株でよければ無償で分けられる、と声を掛けてもらい、全部で2,400株を植え替えました。「名前も付けていいと言われたので、復旧してこれからうまくいくよう願いを込めて『のぞみ』と名前を付けました」と話してくれました。 岡田さんの思いを受け取るように、「のぞみ」はおいしく育っているといいます。
多くの人々に支えられて、長野ベリーファームのいちご狩りは2020年2月8日に開園することができました。岡田さんは「今年は台風の影響で多くは収穫できず残念ですが、たくさんの人にいっぱい食べてほしいですね。ぜひ食べに来てください!」と抱負を語りました。
長野ベリーファームでは、2020年5月31日(日)までいちご狩りができます。時間無制限で食べ放題。料金は期間によって異なりますので、詳しくは長野ベリーファームのウェブサイトをご覧ください。
イチゴは長野ベリーファームのショッピングサイトのほか、農産物直売所アグリながぬま(JAファームながの中部店内 仮設店舗)、うえまつ農産物直売所、A・コープ、長野東急百貨店等で販売しています(店頭にない場合もございます)。
こちらは 2020.04.07 の記事です。農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。
ジャスミン
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