そば打ち名人の関綾子さん(左)とそば料理名人の下田行子さん
「十割」「二八」といえば、そば粉とつなぎである小麦粉の割合を表す「そば」用語ですが、今回はつなぎに特徴のある「須賀川そば」を紹介します。須賀川地区の人々に愛されてきたその独特の食感はクセになったらやみつき! とか。クリスマスですが、気持ちはすでに「年越しそば」なのであります。
ここは、長野県の北東部に位置する下高井郡山ノ内町。北志賀高原の入口であり、北信五岳(斑尾山・妙高山・黒姫山・戸隠山・飯綱山)をはじめ、天気が良ければ遠く北アルプス、そして眼下には善光寺平を一望でき、「信州サンセットポイント百選」にも選ばれたオススメ景観スポットでもあります。
そば畑 山ノ内町須賀川・9月上旬撮影(写真提供:JA志賀高原)
「山の上から町を望むと、一面、白波のようにそばの花が揺れている」「そば畑が多くそれは壮観です」と夏のそば畑について話してくれたのは、そば打ち・そば料理の先生、JA志賀高原女性部の下田行子さんと関綾子さん。「600~700mという標高の高さと朝晩の寒暖差、それと朝霧の発生によっておいしいそばが育つのよ」と笑うお二人は、ともにそば打ち歴20年以上の大ベテランです。
オヤマボクチ(写真提供:JA志賀高原)
オヤマボクチの繊維
では、早速そば打ちを・・・と、その前に。「須賀川そば」最大の特徴である「つなぎ」について。つなぎとして使われるのは「オヤマボクチ」という山ごぼうの葉の繊維。米や麦の栽培が難しかった須賀川地区では、昔からそばの栽培が行われ、オヤマボクチのつなぎも身近な素材の組み合せとして考え出されたものです。「繊維」と簡単に言いますが、オヤマボクチの葉を大鍋で煮たあと、流水でよく揉んで葉を洗い流して繊維を残すのだそう。手間暇かかる手仕事で「初めて」試した人はよくやったなぁと、つくづく思います。
材料そば粉 1kgオヤマボクチ(つなぎ)5g水・湯 適量
作り方(1) つなぎのオヤマボクチをお湯で洗い(ほこりなどを落とし)、湯切りする。(2) (1)をお湯に浸して、柔らかくほぐす。※丁寧にきちんと行うことがポイント。(3) こね鉢にそば粉を入れ、中心を丸くあけてオヤマボクチを入れる。(4) お椀でお湯2:水1を(3)のつなぎに少しずつ回し入れ、そば粉とよく混ぜる。※お湯によってつなぎの繊維がとけてとろみ(粘り気)が出るのだが、お湯だけではそば粉が煮えてしまうのでぬるま湯にする。お湯2:水1は、そば粉の風味を生かす量。(5) 生地を回し、手前から押し出すようにまとめる(丸める)。※生地がかたいので、こね鉢のヘリを上手く使って! (6) 手水で水分を調節しながら、30分以上こね続ける。※つなぎの繊維を全体によく練り込み馴染ませる。天候によって水分量が変わるので注意する(晴天の日は多め)。(7) 生地の伸びがよくなり、艶が出てきたら丸く整形する。※目安は赤ちゃん肌のようなモチモチツヤツヤ。広げた両手ほどにのびる。(8) そば粉でまき粉をして、中心から外側へ厚みを均一に丸くのばす。(9) 麺棒に巻き付け向きを変えながら、"麺棒を力強く打ち付け叩いてのばす!"を繰り返す。※「たたき」と呼ばれる作業。「おいしいおそばを打ってますよ~」と言う合図。【ここまで、開始から1時間】(10) 1mm以下にのばしたら、新聞紙の上に広げ10~15分ほど寝かせる。※須賀川そばの特徴である熟成乾燥(水分調整)の工程。絶妙な水分量にするために新聞紙が便利。【そばのフチが白くなったら切り頃の合図】(11) 4つに折りたたみ、2mm幅で切りそろえる。※折り山の丸みをつぶさないように左手は軽く添えるだけに。切れてしまうのを防ぐため、普通のそばきりの板は使わない。(12) サッとほぐして、大量の熱湯で3~5分ゆがき、色艶が変わったらすぐに引き上げ、冷水でしめてざるに盛り、完成。
ベテランのそば切りと初体験者のそば切り。出来栄えは一目瞭然
一般的には、最初の水分量が肝心のそば打ちですが、須賀川そばはこねながら水分を徐々に追加していくほうが美味しくなります。思いのほかたくさん水を入れますが、どんどん生地に吸われていくのでびっくりしました。また、そばは「三たて(挽きたて、打ちたて、茹でたて)」がおいしいと言われますが、須賀川そばは打った後に少し寝かせて熟成乾燥(水分調整)するのも大きな特徴です。そば打ちは、ベテランの関さんでも息切れするほどの体力勝負。「いい運動になるわ~」と、真っ赤な顔で笑いながらも手は休めません。この日は取材のため、いろいろお話を伺いながらのそば打ちでしたが、通常は集中して無言無心で打つのだそうです。
まな板に収まり切らないほどの大きさまで薄く伸ばす関さん
つやつやの須賀川そば
艶やかなそばをまずひと口たぐれば、何よりそのコシの強さに驚きますが、ちゅるるん、としたのどごしもたまりません☆ もちろん、あとにはそばの風味が広がり、いつまでも楽しむことができます。また忘れてならないのは、その腹持ちの良さ! つなぎの繊維のおかげでしょうか? お腹で膨らむ感覚があり、ダイエット効果もありそうな気がします。
「ハレ」の日や人が集まる日には、大抵そばを打つという須賀川地区の皆さんは、「このコシがないとそばを食べた気がしない」と口をそろえます。須賀川そばが、この地域に生きる人々の知恵と工夫の真骨頂と言えることは間違いありません。地元にはお蕎麦屋さんも多くありますので、今年の年越しそばには新感覚な須賀川そばはいかがでしょうか?
ほかにも、地元ならではのそばを使った郷土料理をご紹介いただきました。手軽でおいしい初めての食感に大感激。すぐ作って食べたくなる味ですよ。
はやそば(左)とそばせんべい
そば粉を水で良く溶く
もっちりなめらかな仕上がりに
千切り大根とそば粉を熱湯で素早くかき混ぜ、お椀にはっただしつゆに入れて完成。簡単で、早くて旨い「はやそば」は忙しい日の食事はもちろん、おもてなし料理としても人気。麺に見立てた千切り大根とモチモチ食感のそばは相性抜群♪ 長野県の「食の文化財」選定。
■関連リンクJA志賀高原
こちらは 2015.12.23 の記事です。農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。
まちゃ
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