野菜

春いちばんを感じさせてくれる「おこぎ」

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雪解けも始まり梅の花もほころぶ頃、次第に顔を覗かせる信州の山菜。その存在とほろ苦い味わいは、寒かった冬の終わりと春の訪れを私たちに教えてくれているかのようです。
フキノトウにタラの芽、コシアブラ、ワラビにコゴミ、ウド、行者ニンニク等々、県内各地で味わえる山菜はいろいろありますが、そんな山菜のなかで「おこぎ」と呼ぶものはご存知でしょうか? 
わがメルマガ編集局がある県北部の長野市では、その存在を知っている人はごくわずか。というのもこのおこぎが食べられているのは、県内でも南部の飯田・下伊那地方だけなのだそうです。南北に220キロと長い長野県、長年暮らしていてもまだまだ知らないことがあることに驚かされるわけですが――。
さてさて、そんなおこぎが先週からいよいよ直売所に並び始めたという話を聞きつけ、まだ見ぬ幻の山菜をひと目見ようと飯田市へ向かったのです。


春の訪れを告げる山菜「おこぎ」
露地ものより収穫を少し早く始めるため、ハウスでおこぎの栽培を行うのは、飯田市伊賀良の椎名葉子(ようこ)さん。ハウス栽培といっても、ハウスの天井に溜まった雪を融かすために年に数回、暖房をたく程度で、今年は、例年より10日ばかり生長が遅れているというものの、案内していただいたハウスの中には、スラリと長くしなやかに伸びる白い幹、それは天井にぶつかってはしなり、その長さは3メートルはあるでしょうか。幹から広がる青葉は目に眩しいほどで、おこぎは、その若い葉を摘んで食べるのだそうです。

20130320okogi05.jpg人々が親しんで呼ぶ「おこぎ」は、長野県南部(南信)地方特有の呼び名で、正式には「うこぎ」または「五加(木)」といいます。ウコギ科に属する植物で、他にはコシアブラ、タラノキ、ウドなどがあります。
おこぎの歴史は古く、すでに平安時代には日本に存在していたという記述もあり、一部は中国から薬用として持ち込まれたようです。また、江戸時代には出羽国米沢藩第9代藩主・上杉鷹山公が、飢饉に備えて生垣に植えるよう奨励したものであったという話も、一本の長い幹にたくさんの芽をつける様子を見れば頷けます。さらに、幹にはトゲがあるのが特徴で、農家では作業がしやすいよう、冬、葉をつける前にそのトゲを取り除く作業を行うのだそうです。うっかりそのトゲが残っていては、手はもちろんのこと、顔や洋服も傷つけてしまいます。そんなことから、戦国時代には家の生垣に植えて泥棒避けとされていたのだとも。食べるだけでなく防犯の役割としても、人々の暮らしに溶け込んでいたのが、おこぎなのです。

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芽吹きそむ おこぎのハウスの小宇宙......
県内でもごく一部、暖かい地域の飯田・下伊那地方で、それより緯度の高い山形県米沢地方のおこぎが存在しているという事実には、不思議な縁を感じずにはいられません。しかし現在、椎名さんのお宅の周辺では、おこぎを生垣などに用いている人はほとんど見られなくなってしまいました。とはいえ、この地域では今でも家の庭や土手などの近所にあり、食べたい時に採ってきては食べる、親しみある山菜なのです。

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椎名さんのお宅では、おこぎの栽培を行ってかれこれ50年ほどになります。この地方特産の市田柿の出荷がひと段落ついた頃、ちょうど収穫が始まるものだそうで、その頃になると白木に一斉に生命力溢れる葉を広げ、「春いちばんを感じさせてくれるものなんです。ビタミン豊富で体にいいと思って食べています」と、椎名さんは嬉しそうな表情で話してくれました。

また、一緒におこぎの栽培を行う葉子さんのお母さんは、自身が詠んだ短歌のなかで印象に残っているものを紹介してくださいました。

 芽吹きそむ おこぎのハウスの小宇宙
 天井の露 煌めき止まず

 ――芽吹き始めた緑眩しいおこぎの周りでは、草花や小さな虫たちが一斉に活動を始め、まるでここは小宇宙のよう。そして、見上げればハウスの天井についた露が七色にいつまでも美しく煌めいている――


数多くの詩を詠むなかでも、葉子さんのお母さんは、このおこぎを題材にすることが一番多いのだそうです。

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色鮮やかに茹で上げて目でも楽しむ
おこぎの味わいの特徴は、ほろ苦さにあります。歯触りはシャキシャキとしており意外にも肉厚を感じます。葉子さんに、もっともポピュラーに食べられる「お浸し」の作り方を教えていただきました。
まず、沸騰した湯におこぎを入れて箸でゆっくり数回掻き混ぜます。頃合いを見て湯から引き揚げたら水にさらします。水をよく切ってから鰹節と醤油をかけてお召し上がりください。手軽に作れておつまみにもピッタリです! さらに、白いご飯にのせれば、鮮やかな緑色が映えて食欲が増すこと間違いなし。お吸い物や天ぷらにしても美味しいそうで、固めに茹でて冷凍しておけば、緑が欲しい時に重宝するそうです。

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春に芽吹く山菜は、冬に溜まった脂肪や老廃物を排出してくれるデトックス効果があり、冬の間に鈍っていた体を目覚めさせてくれるといいますから、早春の味覚・おこぎを食べて春を感じ、体調を整えてください。
椎名さんのお宅では、4月上旬までおこぎの栽培が行われ、露地物はゴールデンウィーク頃まで、飯田市内の直売所「りんごの里」や「およりてふぁーむ」で販売される予定です。

◇関連リンク
りんごの里農産物直売所
〒395-0152 飯田市育良町1-2-1
(中央自動車道飯田インター前)
TEL:0265-28-2770
およりてふぁーむ農産物直売所
〒395-0817 飯田市鼎東鼎281
TEL:0265-56-2822

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農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。

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