信州人に限りませんが、春の訪れを心待ちにする人は多いと思います。自分を例にとると、完全な春より、その兆しを見つける喜びが年々強くなる気がします。
頬に感じる風の冷たさの中にも少し和らぎを覚える朝とか、やわらかく大地を押し包むように降る雨の午後とか......。2月も半ばを過ぎると、そんな日が少しずつ増えてきます。
解けかけた雪の間から顔をのぞかせるフキノトウの黄緑も、冬景色を見なれた目には新鮮です。そして、その苦みこそが、春の到来を告げる「うれしい苦み」ではないでしょうか。
フキノトウ味噌にも地域色があるんです
フキノトウといえばフキノトウ味噌がおなじみですが、作り方が地域によって少しずつ違うのが興味深いです。
芽を出したやわらかいフキノトウを茹でて刻み、練り味噌と合わせる、という大まかな作り方は共通ですが、「油で炒める」という工程が入るかどうかが一番異なるところです。
信州では「油派」の多いことが分かりました。サラダ油のほかにゴマ油を使うこともあるようです。作り方は、2分ほど茹でたフキノトウを、水にさらしてあくを抜き(これは苦みの調整でもあります)、水気を絞って刻んで油で炒める。そこに味噌、砂糖・酒(またはみりん)を加えて練り、照りが出たら出来上がり――というのが一般的でしょう(上の写真は、「油工程」が入ったフキノトウ味噌です)。
一方、東京など関東地方では、ユズ味噌や練り味噌をまず作り、そこに茹でて刻んだフキノトウを混ぜ合わせひと煮立ちさせます。つまり「油工程」を入れないという家庭が多いようです。飯田市のあるお宅でも、刻んだフキノトウを味噌と合わせ、かつお節を加える、という例がありました。これは結構お酒に合うかも。
苦みを生かすのも抑えるのも
料理人の腕の見せどころ
各工程の違いは、苦みの調整をどうするか、ということに結びつくでしょう。苦みを香りの一部として生かしたければできるだけ手を加えない方が良い、ということです。
信州を含め採りたてのフキノトウを利用しやすい地域は、強い苦みを調整する必要があるのかもしれません。また、「油工程がある」場合はフキノトウを比較的大きめに切り、反対に「油工程がない」場合は細かく刻む、という傾向があるようです。
一般的にご飯のおかずの場合は苦み控えめ、酒の肴には苦みを生かした方がいい、と言えるのではないでしょうか(当方の勝手な感想ですが)。
都市部にお住まいの方は青果売り場などの街角で、農村地帯近隣にお住まいの方は身近なあぜ道や直売所で、かわいらしいフキノトウの姿を見つけ、さまざまな調理方法で味わっていることでしょう。
今回作ったフキノトウの天ぷらもこの時季ならではの味わいです。天ぷらにする時はつぼみを開いて揚げましょう。見た目も美しくなるのと、火の通りにくい花の部分が揚がりやすくなりますよ。