野菜

雪の下から収穫される熟成したキャベツの味

cabbage_in_snow_top.jpg


1階の玄関まですっぽりと埋まってしまうほどの雪深い土地に暮らす人々。それは外からではただ、大変とだけしか思えない生活です。確かにとても不便なこともあるでしょう。しかしそれほどの雪に閉ざされた環境の中でも、集落の人々と力を合わせ助けあい、この環境を上手く活かしながら楽しみをもって、日々の暮らし営む笑顔がありました。

長野県の最西北部に位置するする北安曇郡小谷(おたり)村。北アルプスからの豊富な水が流れる姫川が村の中心部を流れて日本海へと注がれ、その西側にある栂池(つがいけ)高原は、冬は良質な雪の降るスキー場として、また夏場は高山植物の宝庫として、豊かな自然が育まれています。そしてまたこの小谷村は、日本でも最も降雪量の多い地域、17日現在で長野気象台発表によれば最深積雪は150㎝を超えています。

この小谷村のなかでも南にあり、姫川の東側に位置するところの伊折(いおり)の集落はJR南小谷駅近くの山道を登ったところにありました。そして集落の全戸参加の12戸で結成されているのが伊折農業生産組合です。おおむね70〜80代の長老たちが組織の中心ですが、そこでこの時期行われているのが"雪中甘藍(せっちゅうかんらん)"の収穫と出荷でした。甘藍とは「キャベツ」のことですから、つまり雪の中に植わるキャベツを収穫し、直売所や地元のホテルなどに出荷するのです。

otarimura.jpg


雪中甘藍の収穫作業
注文に応じて行われるというその収穫、待ち合わせ場所に集まった人たちは、長靴にスキーウェア、そして手にはスコップと長い刃の包丁といういでたちで、畑までの狭い道を歩いていきます。しかし、畑に着いたといっても、そこの何処にキャベツが植わっているというのでしょう? 一面に雪が海のように広がっているだけなのです。しかも「この時期にしては今年は積雪が多い」というように、持ってきたスコップがすっぽりと埋まってしまう程の豪雪で、雪の深さはざっと1メートル近く。なんだか収穫どころではありません。

cabbage_in_snow_1.jpg

この雪の下、5アールの畑に2,000株のキャベツが植えられているのですが、それはまさに宝探し状態。しかしそこには竹の竿が高く飛び出ていて、じつはこの竿がキャベツが植わっている場所がわかるようにと畑に目印をしておいたものだそうで、深い雪に圧倒され、また脚を取られて思うように前に進めないでいるのを尻目に、お母さんたちは脚がすっぽりと入ってしまうほどの雪の中へとズンズン入っていき、そしてザブザブとスコップで雪を掻き出し、作業は速いスペースで進み、想像以上の速さで雪の中からキャベツが掘り出されました。1日に平均して30玉ぐらい掘り出すそうです。

cabbage_in_snow_2a.jpg cabbage_in_snow_2b.jpg
cabbage_in_snow_2c.jpg cabbage_in_snow_2d.jpg

そうして次々と掘り出されたキャベツは、バケツリレーのように1玉ずつ隣の人へと手渡され、そのキャベツはスキー板を左右につけた手製の"ソリ"に乗せられて、キャベツを積む軽トラックが停まる場所まで運ばれるのでした。

cabbage_in_snow_3.jpg

雪で熟成されて甘味が増す
小谷の特産として知られる雪中甘藍。これは最低でも2週間、雪の中という0度以下にならない一定の温度に置かれることによって、熟成して甘味の増したキャベツが出来あがるのだそうで、村内では2つのグループでこの雪中甘藍が作られています。

キャベツ作りは夏場のうちからはじめられ、7月下旬〜8月上旬に種蒔き。そして8月下旬に定植。その間、水やりなどの作業を行いながら秋までに収穫時と同じ大きさに成長させます。そして根をつけたまま収穫せずに雪が積もるのを待って、雪の中で数週間、キャベツはただもうじっとこの状態に耐えているのですが、この雪がキャベツの味に変化をもたらし、雪中甘藍は出来あがります。

収穫はその年々の積雪状況により変わりますが、毎年雪が積もる12月下旬から1月下旬まで行なわれます。

cabbage_in_snow_4.jpg

ただのキャベツではなかった
このキャベツ、特に中心部の黄色いところの甘味が強く、思わず「甘い〜!」と叫びたくなるほどの美味しさで、さらに普段捨ててしまう芯の部分だって、瑞々しくて、これまた美味しいのです。熟成されたキャベツは、キャベツを超えたキャベツとしか言いようがありません。

それはまた加熱によってもその甘さが一層引き立ち、キャベツ自体も調味料となって、料理に天然の甘味をもたせてくれます。そして地元ではこれが学校給食にも出されているのだとか。でも、収穫直後はさらに甘味が強くて格別なのです...。

「雪が深いから収穫は大変だけど、みんなでやるから作業は楽しんでやっている」とお母さんたち。また「この手間を秤に掛けたら、採算は全然合わないけれど、"おたりのキャベツ"ということで、ぼちぼちやっていければいい」と組合長の藤原信夫さんは話します。

伊折農業生産組合は考えている
伊折農業生産組合では、春から秋にかけて、山菜の出荷から、育苗、米、麦、ソバ、ミニトマトなどを栽培、また棚田オーナー制度や保育園との交流なども行っていますが、深い雪に閉ざされる冬は、会員が拠り所として集まる公民館でお茶を飲んだり漬け物を作ったり、また草履やネコつぐら、お正月用の飾りを作ったりして人々は交流の場を持ち楽しんでいて、この雪中甘藍もまたその楽しみのひとつ。でもこれは以前、自家用としてだけ作られていたものでしたが「この美味しさならば、みんなに喜んでもらえるのでは」と考え、会員が協力して6年前より生産・販売がはじめられたのでした。

さらに伊折農業生産組合では今後、都会の人たちとふるさと体験を通じて交流したり、昔ながらのおばあちゃんの手料理でゆっくりと食事をしながら語ってもらう場所づくり、また孤立をしていたり食生活が偏りがちな高齢者と食事をしながら1日1回顔が見れ、誰もが安心して生活できる地域づくり、さらに新規農業従事者の受入れを通じて、山間地の田舎の生活の可能性を探るなど、誰もが心穏やかに暮らしていける地域づくりを目指しています。

食べられるのはわずかの間
小谷村伊折産のこの1玉300円前後というキャベツは、通常のものと比べれば高く感じるかもしれませんが、深い雪のなかから掘り出されたその手間、そして段違いの美味しさは、地元の人もよく知っていて、午前中にはほぼ売り切れるといいます。ただし販売は1月下旬まで。JA大北おたり生活店舗や、白馬村のA・コープ白馬店「ハピア」直売所、または道の駅「小谷」で販売されています。ただし、収穫が行われない日もありますので、事前にお問合せください。

雪中甘藍が入手可能なショップ:

 ・JA大北おたり生活店舗
  〒399‐9422
  北安曇郡小谷村大字千国乙10351‐6
  電話 0261‐82‐2224
  地図

 ・A・コープ ハピア白馬店
  〒399−9301
  北安曇郡白馬村大字北城白馬町6398−1
  電話 0261−72−6000
  案内サイト

 ・信州 道の駅 小谷
  〒399−9601
  北安曇郡小谷村北小谷1861−1
  電話 0261−71−6000
  営業時間 午前10時〜夜9時
  ホームページ

こちらは の記事です。
農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。

1295362800000

関連記事

キャベツの収穫は、積雪150cmのその下から
野菜

キャベツの収穫は、積雪150cmのその下から

菅平高原4月生まれ、秀逸の「雪中埋蔵りんご」
果物

菅平高原4月生まれ、秀逸の「雪中埋蔵りんご」

南信州・天空の里で育つ「下栗いも」
野菜

南信州・天空の里で育つ「下栗いも」

野菜

"寒"を活用する食のプロたちが、いざ暖冬に挑む!

新着記事