みなさん! 信州から可愛いりんごの「ピンクレディー」がデビューです。
「ピンクレディー」とは、信州では11月に収穫され、翌年まで販売される、ほどよい酸味と甘味のバランスのよいりんごの品種。オーストラリア西オーストラリア州のマンジマップという町の州立の試験場で「レディーウイリアムス」と「ゴールデンデリシャス」というりんごを交配して生まれ、正規の品種名は「クリプスピンク」といい「ピンクレディー」は世界共通の商標名です。
シャンパンのような風味と表現されることもある、きゅつとしまったまるかじりにふさわしいりんごで、アメリカでは子供たちが給食のひとつとして毎日ひとつ学校に持っていくのにぴったりのりんごとされたり、イギリスではロンドンマラソンの公式りんごとして競技の参加者に提供されています。日本では2006年3月に設立された「日本ピンクレディー協会」の会員である生産農家が栽培を続けています。
ピンクレディーの栽培に対する権利は、オーストラリアの西オーストラリア州から委託を受けた組織APAL(Apple and Pear Australia Limited)が管理をしていて、日本で生産する場合は生産農家がAPALと栽培契約を結び、日本ピンクレディー協会の会員になる必要があり、APALに対し苗木生産と商標使用に対し一定の使用料を支払うシステムになっています。当然個人で苗を作ったり、生産販売することは一切できない国際ルールにもとづき生産されているりんごです。
そのりんごを、JAタウンでおなじみの有限会社 マルヒ農場さんが生産されていると聞き、噂に聞くピンクレディーとはどんなりんごなのかを探るべく、さっそく長野市の北部にある赤沼地区浅川沿いの圃場に出かけました。
りんご全体の収穫ペースが1週間から10日程度遅れている忙しい合間をぬって、取材にご対応いただいたのは、りんご一筋約80年も続く農家の3代目社長の前島満さん(写真)です。ちなみにマルヒ農場の由来をお聴きしたところ、おじいさんの名前の頭文字からとっているそうです。農場では、夏から秋にかけて約10種類のりんごが、飯綱町牟礼地区、長野市赤沼地区で栽培されています。このうちピンクレディーは35アールに150本を栽培しているそうです。りんご園には目にも鮮やかな朱色に近い色が映えていました。収穫に奔走する満さんに、あわただしい中、笑顔をまじえながら答えていただきました。
ピンクレディーを栽培することになったきっかけは何ですか?
日本ピンクレディー協会の事務局をやっている安曇野市の中村さんに誘われたこともあるけど、名前が良かったんだよ。そういうと年代がばれてしまうけれど(笑)。初めて見たときは、ショッキングピンクの作り物かと思った。でもあまり知られていないから、まだまだ世間に根づくまでには時間がかかる品種だよ。
どのくらい栽培されているのですか?また栽培にあたって注意している点は何ですか?
昨年は花が霜にあたってしまい300kgしか収穫できなかったが、今年はもっと多く収穫できそう。本来は小さめのりんごなんだけど、今年は大きめの玉が多い。大体ふじ5kg13〜14玉だけど、ピンクレディーは20〜23玉が普通だよ。ふじは栽培が難しいんだけど、ピンクレディーは栽培が楽。ただし病気には弱い。販売先がもっとあれば増やせるけど、収穫時期が重なるし、ふじがメインだから増やす予定は今のところないです。
収穫と販売はいつ頃までですか?
ふじを収穫し、本来は最後に収穫を2回くらいに分けて行うんだけど、今年は生育の遅れもあり、ふじも収穫が残っている。ピンクレディーは作業日程的に今日(取材日:11月25日)一日で暗くなるまで全部収穫してしまう。矮化(わいか)栽培にしては通路が開いているでしょう。車を入れて作業効率をアップさせるためだよ。カゴで収穫してから、車に積んで運び、夜になってから、出荷用に箱詰めを行っているんだ。販売はモノさえあれば、貯蔵性が高い(日持ちする)ので3〜4月までは売りたいりんごです。年が明けるとほとんど「ふじ」だけになってしまうので、新しい味、変わったりんごとして期待しています。
このりんごの食べ方は?
海外では丸かじりで食べられているので生食がいいと思う。2月頃になると酸味も抜けるのでより食べやすくなるし、果汁も少なめで長野県の人が気にする「ボケ」もほとんどなく食べられるよ。今まで27から28年間りんご栽培をやってきて、生食で良いりんごを作ろうという気持ちしかなかったけれど、酸味がやや強いのでアップルパイなど加工にも向いていると思う。当然、収穫期には農薬を使用していないし、JAで定めた防除暦にしたがって安全に生産しているので、安心して食べてもらいたいですね。
わたしたちも買うことができますか?
デパートやフルーツ店に出荷していますが、一般販売も行っています。長野周辺の方なら農産物直売所の「アグリながぬま」にも出荷しますし、JAタウンでも販売しますので、ぜひ購入して食べてみてください。
スイーツならぬあまーい果物が好まれているというご時勢ですが、酸味のあるりんごが好みで、皮が薄いりんごを丸かじりでがぶっと食べたい方にはおすすめの品種。欧米では恋人たちのりんごとしても愛されています。今から間に合う世界標準のハートのロゴマークのついたりんご「ピンクレディー」を探して求めてみてください。
「ピンクレディー」と聞いて、かつて「サウスポー」や「UFO」などのヒット曲をとばした往年のアイドルデュオを思いおこす人は、アラサーもしくはアラフォーの方たちでしょうか。しかしいずれここ数年で、信州の地に根づいた新たな「ピンクレディー」の名が、世に知れ渡るのも近いかもしれません。