春先の天候不順を乗り越えて、暑いほどの晴天に恵まれたGW明けの今、ようやく長野県では威厳に満ちた高貴な野菜のアスパラが、地表の土を押しのけて、ぐんぐんと芽を出し、県内各地で最盛期を迎えています!
暖かくなると、ひと晩で10センチ近くも生長することがあるという、生命力にあふれた植物アスパラガス。ニョキニョキとまっすぐ上に伸びているものもあれば、斜めに傾きながら好き勝手な方向に伸びているものもあり、そんな畑での姿は、ちょっと愉快でもあります。
訪れたのは、お馴染みのグリーンアスパラだけに留まらず、ホワイトにムラサキといった3種類の色のアスパラを栽培する、信州のアスパラの主産地のひとつである県北部の中野市。そこは昼夜の気温の差が大きいために甘味が強い農産物が出来、また志賀高原からの雪解け水によって肥沃な土壌が形成されている大地です。
とことん白さにこだわるホワイトアスパラ
グリーンアスパラを栽培して13年になる小林隅男(こばやしすみお)さん(73)は、定年退職後本格的に農業を開始したそうです。4年前、当時はちょっと目新しかった白いアスパラに興味を引かれて、その栽培もはじめました。ホワイトアスパラはグリーンのものより少し収穫時期が遅く、4月頭よりポツポツと出荷が行われるのですが、今年は例年より1週間遅れでようやく今ピークを迎えました。
ホワイトアスパラの「売り」は、その白さ。もともとグリーンアスパラと同じ品種のホワイトアスパラは、人の手を加えて日光を遮って葉緑素ができないようにしてやらないことには白い状態のままでいられないのです。ヨーロッパなどでは土盛りをして土中で栽培します。
そんな人の手による管理が必要なアスパラを、とことん白さにこだわって出荷するため「収穫は、日を当てないために、早朝か夕方の1日1回」ときめている小林さん。加えて、人間がすっぽりとハウスの中に入り込んで完全なまでに太陽光を遮断した状態で行われる収穫作業。もちろんハウスの中は暗闇で、まったくなにも見えません。だから懐中電灯は必需品です。
高さ2メートル近く、長さ60メートルにも及ぶというとても長いハウスで、それが光を遮る白いテントですっぽりと覆われた状態は、まるで巨大な芋虫のよう。以前他の地域で見たホワイトアスパラガスのハウスは、1メートル程の高さのハウスでした。
闇の中でライトを照らしてみれば、左右に無数の蝋燭のようなものが延々と先までうっすらと浮かびあがって見えています。ホワイトアスパラです。小林さんはこの中で、片手に懐中電灯、もう片手に鎌という格好で、毎日30分ほど収穫を行います。当然ながらスムーズに作業が進まないことぐらい容易に想像できます。しかもこの暗がりの中のホワイトアスパラには、更にまた別の問題も降りかかります。
「ネズミがアスパラの根っこをかじっちゃうんだよ」
そう言って肩を落とした小林さん。昨年のうちにアスパラの葉や茎が蓄えた養分は、秋になって貯蔵根(ちょぞうこん)と呼ばれる根っこに送られ、この冬の間蓄えられた根っこからの養分を主に栄養として、それが春のこの時期に芽を出すのですから、今はアスパラが1年でも最も美味しい時。
その栄養がぎっしりと詰まった大切な根っこを、こともあろうにネズミがかじってしまうというのですから困ったものです。その根っこは人がかじってもほのかに甘くてなんともみずみずしいものなのです。まあ、それもこれも妥協を許さないほどにホワイトの名にふさわしいアスパラガスを作るため、喜べない状況を受け入れながら栽培を行っているアスパラの専門家でもある小林さんなのでした。
味は秀でるが収穫量の少ないムラサキアスパラ
さらに中野市の誇るアスパラが、知る人ぞ知るムラサキのアスパラガス。ムラサキアスパラを平成13年より栽培している生産者のGさんが、いきなり「ちょっとやってみて」と、自分の畑からポキンッと折って手渡してくれたその味は、紫色から想像するエグ味からほど遠いものでした。
甘味があって、さらに獲りたてのものですから、軟らかくて筋張ったところがなく、溢れる水分を吸うように一気に食べきってしまう程の美味しさ。ちなみに糖度計の測定では、ムラサキのアスパラはグリーンのものより1度ほど甘味が強いのだとか。
キノコ栽培の盛んなこの中野市でおこなっているアスパラ栽培の特徴は、キノコ栽培に用いるコーンコブ ― トウモロコシの芯 ― にふすまやこぬかといったものを堆肥として土に加えていることで、土に適度な保湿性を与え、これがより甘味をもったアスパラになる理由です。
しかしムラサキアスパラガスの収量は、グリーンのものの半分からそれ以下というのです。見渡した畑にはところどころムラサキのアスパラが見える程度でした。
たくさん獲ることができない現状が、結果ムラサキアスパラを栽培する農家を減少させています。そしてGさんのお宅でもネズミによる被害の話を聞きました。収穫するより下の、ちょうど土に隠れた根元の部分を、ネズミはかじっていってしまうのです。
「ほんとにもう弱っちゃうんだよ」と嘆くGさんですが、それでもこのアスパラを作っているのは、「めずらしがってもらえるから。ただそれだけ」と静かに話してくれました。
3つの色のアスパラが同時に楽しめるのは5月まで
育てる過程での困難はさまざまにありますが、それでも中野市の生産者たちがアスパラガスの栽培を続けるのは、「食べた人に喜んでほしい」そして「美味しいアスパラをたくさん味わってほしい」という思いからです。その結晶が今、中野市の南部共選所に集められ、出荷作業の分野で活躍する地元のお母さんたちによっていくつものアスパラガスの山が、手際よく仕分けされていっています。
グリーンアスパラに加えて、中野市が誇るホワイトとムラサキの3種類のアスパラが同時に楽しめるのは5月下旬までの予定です。旬の時期にぜひ信州産のアスパラを食べてみてください。
・味覚を楽しむアスパラは、適当な長さに切らずに、まずは根元の部分だけを30秒ほど熱湯に入れます。そのあとは全体をゆっくり熱湯に入れてさらに1分程茹でて出来上がり。
・味が落ちるため水にはさらさず、余熱で芯まで軟らかくするのがポイント。
・またフライパンに薄くお湯を張り、蒸し焼きのようにして調理するのも甘味が活かされるお勧めの調理法です。
・いずれにしても鮮度が命のアスパラガス。買ってきたら輪ゴムをはずし、ゆったりとした状態で、頭を上にして立てて保存すること。
・新鮮であればあるほど甘味と香りを実感できるアスパラは、出来るだけすぐにお召しあがりください。
信州産のアスパラのご注文は
低カロリー野菜の代表であるグリーンアスパラガス、ホワイトアスパラガス、ムラサキアスパラガスのお求めはJA中野市 南部共選所 電話:0269−26−0184へ。またはJAタウン「全農長野 僕らはおいしい応援団」までご注文ください。
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