スイカの収穫時に、ツルからスイカの実を切り離します。そして「チョロリ」と残ったツルを全て切ると、スイカの「おへそ」が現れます。こんな風に。(これを「元を切る」と言います。)これをしばらく放っておくと、この「おへそ」からじわ〜っと茶色い液体が出てきます。
写真ではよく確認できませんが、肉眼で見ると確かに透明の液体と茶色の液体が混ざって出ていました。そう、これがおいしいスイカの証しです! JA松本ハイランドのスイカ生産部会の部長さんである村上修一さん(60)に、教えていただきました。「この液体が出れば、間違いなく甘い」と。でもこのサインは、自分の庭で作っているならともかく、お店に並んでからではなかなか確認できません。
では、どうすればよいのでしょうか? スイカのことを知り抜いている村上さんに言わせると、スイカはまるで体内時計があるかのように、どのくらいの時間で自分はおいしくなるのかをちゃんと知っているのです。スイカ農家はその時期を見逃さずに、手間隙をかけた管理によって、正しい時にスイカを収穫します。スイカを1日500〜600個も出荷する村上さんも、ただ見ただけでは、その「おいしさ」は分からないもののようです。みなさんもご存知の、スイカを叩くことでおいしさを見極めるというやり方がありますが、今回教えていただいたのは、そのようなまじない的判断術よりレベルアップした段階の話です。(^^;)
見た目で判断できることは限られている
ただし、見た目で判断できる要素のひとつに「小玉より大玉のスイカがよりおいしい」ということはあげられます。スイカのシマシマがでこぼこしてるものは甘いですが、柔らかい、シマシマがでこぼこしていないものは甘さは前者にかけるのですが、シャリ感があるのだそうです。まあこれらはあくまで食べる人の好みの問題のようですが。
右から、村上文子さん、村上修一さん、篭田むつ美さん
プロフェッショナルの技はここにあった
スイカ農家しか知らない「おいしいスイカの見分け方」をもう少し深く説明します。スイカの花が咲いたあとにおしべとめしべを受粉させることを「交配」といいますが、この時から46日※で、スイカは一番収穫に適した状態になります。気候によって収穫時期に影響を及ぼすことはそれほどないのだそうです。天候の影響で出荷時期が前後することがあっても、せいぜい1〜2日ほどのようですから。とにかく、この46日を過ぎればスイカはどんどん熟してしまい、しだいにパサパサになっていきます。
だから村上さんたちは天候が雨だろうとなんだろうと関係なく、日数どおりに確実にスイカを収穫するのです。これはただ交配から決まった日数どおりに収穫すればよい、という訳ではありません。スイカを交配させた時期を複雑にからんだツルに自分の爪で少し印(しるし)をつけるのですが、この作業が難しいのです。まさにスイカのおいしい時期を管理、判断するのはスイカ農家の技とも言えるでしょう。
大きくておいしいスイカを作るのはむずかしい
ですから、農家のみなさんがこうして大切に育てたスイカは、無事に畑から出荷された時点で、すべて合格品なわけです。スイカには色々な栽培方法がありますが、村上さんたちのスイカは、この方法で多くのおいしいスイカを生んでいるのです。手にかけただけに、スイカを出荷する際は「娘を嫁に出す心境」と村上さんは語りました。本当に「よくこんなに大きくなったね!」と愛おしく思ってしまうような成長ぶりです。
取材中、畑で半分に割った大きなスイカをいただきました。う〜ん! 甘い! 太陽に照らされてあいにく果実は冷えていませんでしたが、十分おいしい!! みんなで畑にしゃがみこみ、しばし夢中でスイカにかぶりつきました。真っ黒に日焼けされ、汗をにじませて働く修一さんに尋ねました。「スイカをおいしく栽培する上で、ここだけははずせない、というポイントはありますか?」
「常にそのときが勝負だね。大きくておいしいスイカを作るのは難しいんだよ」いつも真剣にスイカに接する村上さんたちの姿からは、スイカへの愛情が伝わってきます。奥様の文子さんがつけくわえました。「手間隙かけて育てたスイカだから、みなさんにおいしく食べてもらえればいいと願っているんです」
(注※)ここで紹介した46日という数字は、その年によって、また土地によっても異なります。今回紹介した46日という数字は、今年2009年の村上さんらJA松本ハイランドのスイカ生産者の目安の日にちです。この数字は毎年JAの営農指導員が見極めています。