匂うぞ、匂うぞ、このあたりにネマガリタケがありそうだ!
地面を這いつくばり、他人の眼など気にしない四つんばい状態で、笹藪(ささやぶ)をかき分けかき分け前進し、そしてついに発見するに至ったときは「見つけたぞ」とばかりニヤリとほくそ笑む。旬を迎えた山菜「ネマガリタケ」を求めて、今、北信州のあちこちで、人間たちによるそんな奇怪で愉快な光景が繰り広げられています。先日、わが編集部では標高1600mを超える県内某所のとある山中におもむき、あらかじめ地元の方の許可を得て、ネマガリタケ・クエストの体験をしてきました。今回はその探求のレポートです。
あった! ニヤリと思わず顔がゆるむ
ネマガリタケを探す前に
そもそも「ネマガリタケ」は「チシマザサ」というイネ科の笹の一種の別名で、上の写真のような笹藪の中にはえています。土から10〜20cmほど顔を出したものを採るため、嘘偽りなく、藪をかき分けつつ、四つんばいのような体形で地面に目を凝らしながら、程度の差こそあれ斜面を進むことになります。そのため藪に入る前にしっかりした準備が必要で、アウトフィットとしては長袖、長ズボンはもちろん、長ぐつはズボンとの境をガムテープでぐるぐる巻きにし、当然帽子、首にはしっかりタオルを巻き、むろん軍手は欠かせません。笹の跳ね返りでケガをしないように、メガネやゴーグルで目を守る人もいます。またネマガリタケは、人間だけでなく熊の好物でもあるため、熊さんとも遭遇しないよう熊よけの鈴やラジオも必須アイテムでしょう。もちろん、せっかく見つけたネマガリタケを入れるバッグも必要です。ビニールの袋などでは破れてしまい、ふと気づいたら一本も入っていなかったという、悲しくも笑えない事態もありえますので、とにかく頑丈な袋が必要です。
おのおのがた笹藪へ潜行せよ
準備が整ったら、さっそく笹藪へ。前日の雨でぬかるんだ地面に注意しながら、姿勢を低く保ち、目を凝らしつつ斜面を登っていきます。最初のうちはなかなか見つからないのですが、山と一体化するぐらいの時間が流れるとネマガリタケが目に飛び込んでくるから不思議です。お目当てのものを見つけたら「いた!」と小さくつぶやき、目を切らないように十分注意をして近付きます。手で簡単に折れるので、根元からポキっと折ったら袋に入れます。一本見つけるとその周辺にいくつもはえている場合が多いので、その周囲をよく見て必要なだけ採っていきましょう。
「いた!」と小さな声で叫ぶ
遭難という悪夢を避けるべし
夢中になるあまり、気がつけば奥に進みすぎて遭難してしまうケースもしばしばあります。常に帰りのルートを頭に入れながら、欲張り過ぎない気持ちというか心のゆとりも重要です。予め時間を決めて藪から出てくるという方法もよいでしょう。慣れた人になると一時間ほどで大きなリュックサックを満杯にすることができるそうです。
ネマガリタケの調理には悩むところ
さて、採集したネマガリタケをどう調理するか。これは嬉しい悩みであります。皮のついたまま焼いて、蒸し焼き状態にして、各自で皮をむきながら塩、マヨネーズ、味噌、しょうゆなどお好みの調味料で食べるのは簡単でおいしい食べ方です。
茹でたり天ぷらにして食べるのも良いでしょう。ただ、北信州の定番の食べ方といえば、やはりサバ缶とネマガリタケのみそ汁です。他にはありません。ネマガリタケはほとんどアクがないので「サバの水煮缶」と「切ったネマガリタケ」を一緒に茹でて、これに味噌を入れたら出来あがりと、とても簡単です。
食べられるのは今の季節だけ
ちなみに皮をむくときは、ナイフで先端から根元に向かって縦に切れ目を入れると簡単です。切れ目から指を入れると一気に皮がとれます。また、ネマガリタケは節の周辺が硬いのでその部分は切り落とすことになります。写真で説明しますと黄色い矢印のついた白い部分は軟らかいので簡単に切れます。その下の節のところ(青い丸で囲った部分)がやや硬い部分になりますので、節のところから根元に向かって包丁を少しずつずらしながら当て、切れるところを探します。スッと包丁が入ったところから、その下の白い部分までは軟らかいので食べられます。一番根元の部分は硬いのでこちらも切り落としてしまいましょう。
地元に住んでいても、なかなかお目にかかれないネマガリタケですが、運よく手に入れることができたら、上記の切り方や調理法を参考にして、その滋味をたっぷりと楽しんでください。
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