和牛の品質を競う「全国和牛能力共進会(以後、全共)」が10月に鹿児島県で開かれました。
5年に1回開かれる同大会は「和牛のオリンピック」とも呼ばれる国内最大の和牛イベントで、開催地では中心となる品評会はもとより、観光や文化など幅広い催しで盛り上がります。
12回目を数える今回は、41道府県から438頭が出品され、種牛と肉牛の部で月齢別などに合わせて9つの区で競いました。
長野県代表として信州和牛をアピールする最前線に立った参加者に聞きました。
鹿児島県で開かれた「第12回全国和牛能力共進会」に出場した長野県関係者(提供|JA全農長野)
「印象に残った若い人の熱気」
古原敬久さん(川上村)
川上村の古原敬久さんは、種牛の部2区(14~17カ月未満の雌)で優等賞17席、3区(17~20カ月未満の雌)で1等賞1席で県勢では過去最多を記録しました。以下、川上さんのコメントです。
鹿児島までトラックで牛を連れて行くだけで17時間ほど。正直なところ2頭出品するのは大変で、一度は辞退も考えましたが、出たくても出られない人のことを思い、がんばりました。出場が決まってからのJAをはじめ、関係者の方からの支援には感謝しています。
これまで6回の大会に参加し、今回と前回の2大会には出品もできました。今回、高校生を対象にした特別区がありましたが、その点を割り引いたとしても、若い人が目立ったことが印象に残りました。
私は56歳になりましたが、県内ではまだ若手。他産地では大会に向けて勉強会を開くなど切磋琢磨する環境があり、うらやましく思いました。
今回は会場の様子をネット配信したため、外部にいた人のほうが審査の様子などをよくつかめたようです。現場では回線容量の関係か携帯すら満足につながらず、往生しました。
成績については、開催地が有利なのは仕方がないにしても、ネット視聴をとおした外部の人や、現場にいた産地の人からの掛け値なしの誉め言葉に励まされました。
改良と日々の管理、これまで取り組んできたことに手応えを感じています。飼料をはじめとした資材高など、飼育を取り巻く環境は厳しいですが、大会を経験することで後に続く人が出てくることを期待しています。
「新食肉処理施設に期待」
小田切隆治さん(東御市)
東御市にある「小田切牧場」代表の小田切隆治さんは、肉牛の部8区(24カ月未満の去勢肥育牛)で優等賞13席となりました。以下、小田切さんのコメントです。
20年ほど前に起きたBSE(牛海綿状脳症、狂牛病)を機に、日本の牛肉をめぐる商習慣は一変しました。産地偽装を防ぐトレーサビリティー制度の整備が進み、今や子牛段階でDNAを登録することも。産地間のブランド競争も激化しました。全共はその最前線です。
長野県の場合、各地域にあるブランドに対して一定の基準を設け「信州プレミアム牛肉」と認定する制度を2009年から導入しています。おいしさの基準として注目したオレイン酸の含有率が、今回初めて全共で評価項目に加えられました。県内の取り組みの先進性は誇れると思います。
個人的には前々回、代表に選ばれながら直前に牛の病気でやむなく辞退し、前回は予選敗退。今回、優等賞で面目を果たせました。中野市出身の私が当時の東部町に移住して牧場を開き、約40年。地域の米農家から出る稲わらを牧場でできる堆肥と交換するなど、和牛飼育を循環型農業のひとつに位置付け、地域に支えられた結果であると思っています。
県内では牛の飼育は従来、南信州地域が盛んで、地域的な広がりはいま一歩でしたが、今回の全共では協力態勢を含めて全県的な取り組みができたと思います。さらに安心・安全な『信州プレミアム牛肉』を国内外にアピールするうえで、最新の衛生管理が充実した食肉処理施設新設を、ぜひ実現してほしいと思います。
「特別な経験、自信になった」
吉川秀之さん(豊丘村)
豊丘村の吉川秀之さんは、肉牛の部8区で1等賞となりました。以下、吉川さんのコメントです。
2回目の挑戦で初めて全共出場が果たせました。県代表牛に決まってから大会までの2カ月間は、牛に万が一のことが起きてはならないと、夜中も見回るなど心血を注ぎました。
審査は2日目の枝肉確認段階で、生体の外観からはわからないわずかな瑕疵(かし、※傷のこと)を指摘され、優等賞は逃しましたが、肉質面ではロース芯面積や歩留(ぶどまり)などの多くの項目で全国上位の成績を収めることができました。競りの際、隣にいた専門家から「きれいな脂だね」と褒められて自信になりました。
何より生後24カ月未満と、通常より4カ月も少ない期間で仕上げられることがわかり、今後の経営に生かせそうです。エサ代の高騰など最近の厳しい飼育環境を考えると、出荷までの期間の短縮は切実な課題ですから。
子牛を含めて300頭ほどの牛を飼っていますが、全国の舞台に立つため、そのうちの1頭に相当の熱量をもって世話しました。日常に戻った今は、夢から覚めたような印象です。また一から頑張ろうと思っています。
4月から息子も飼育に加わってくれています。大変な時期の始まりになってしまいましたが、飼育農家になってよかったと思われるよう取り組みたいと考えています。そして5年後に再挑戦したいです。
「地域の支援、温かさを実感」
下伊那農業高校 アグリ研究班畜産部(飯田市)
特別区(高校・農業大学校の部)で優等賞23席となった下伊那農業高校 アグリ研究班畜産部。左から部長の清強志さん、川島佳月さん、渡部さくらさん、三浦萌佳さん。雌牛「れいん」とともに
今回、若手育成のために新設された特別区には、下伊那農業高校が出場しました。出品したのは同校で生まれた15カ月の雌牛「れいん」。会場で牛を引くハンドラーを部長の清強志さん、介助者を渡部さくらさんが務め、取り組み発表は三浦萌佳さんと川島佳月さんが担当しました。いずれも3年生です。
部員は16人いますが、大会出場を目指して特別態勢を組んだ「れいん」の世話は、主にこの4人が担いました。
清部長は「結果は24校中23位と残念でしたが、評価ポイントを下げた体高の低さは、種付け段階から研究している他校を見習うなど改善策は見えています。きちんと引き継いで、後輩は5年後の大会に備えてほしい」と前向きです。
立ち会った塚田真希教諭は「立ち方や体積感を表現する深みといった点では褒められることが多く、エサの工夫など次につながる成果は自信につながりました」とも。
メンバーが口をそろえるのが「想像以上に熱気あふれる大きな大会」だったこと。「牛1頭1頭の顔を判別、顔認証ができる最先端の仕組みを取り入れている高校もあり、刺激を受けた」と言います。
準備段階から地元の畜産に関わるOBやOGが訪れ、アドバイスを受けました。「人の優しさ、温かさが身に染みました」と振り返っています。
「和牛の面白さを実感」
佐久平総合技術高校 池田美岬さん(佐久市)
品評会に伴う行事として、外観から和牛の能力を見極める「和牛審査競技会」も開かれ、「高校生の部」には38道府県からひとりずつ出場。長野県からは佐久平総合技術高校1年生、ウシ班の池田美岬さんが挑戦しました。同校は県内で唯一、乳牛を飼育していますが、和牛は飼っていないというハンディを乗り越えての出場となりました。
入賞はなりませんでしたが、池田さんは「県内の飼育農家や上伊那と下伊那、両農業高校の協力で、多くの和牛に触れる機会をいただきました。和牛の顔つきも判別できるようになり、乳牛とは別の面白さも実感しました。今後もこの分野に関わることができたらいいなと思っています」と語りました。