「1年をとおして、もっともよく食べるものは何?」と聞かれたら、きっと日本にいるほとんどの方が「お米」と答えるはず。あるいは当たり前すぎて、思いつかないくらいかもしれません。
お米の収穫は、品種にもよりますが、9~10月の間。まさに「実りの秋」の代表農産物です。それなのにお米は1年中、食卓に上がりますよね? いったいどうやって保存しているのか…。
その疑問を解決すべく、長野県内でトップクラスのお米の出荷量を誇る米どころ、JA上伊那(かみいな)にあるお米の貯蔵施設「カントリーエレベーター」へ行ってきました。今回は無機質な画が続きますが、しっかりついてきてくださいね!

「カントリーエレベーター」って?
訪れたのは2023年7月に完成した長野県上伊那郡飯島町にあるJA上伊那の南部カントリーエレベーターです。
長野県の南部に位置する上伊那は「伊那谷」とも呼ばれ、中央アルプスと南アルプスに囲まれ、南北に沿って天竜川が流れます。高い山に囲まれ、台風などの気象災害が少なく、栄養たっぷりの雪解け水で育つお米が評判の産地です。

さて、カントリーエレベーターとは、地元のお米農家が共同で利用する米の貯蔵施設です(豆や小麦など米以外の穀類を貯蔵する場合もあります)。
発祥はアメリカの穀倉地帯。田舎(カントリー)の昇降機(エレベーター)で施設内の穀物を運んだことから、こう呼ばれるようになったのだとか(諸説あり)。
施設の主な役割は下記に大別されます。
・乾燥
・貯蔵
・調整…籾摺り(もみすり)や混入物の除去
・出荷
南部カントリーエレベーターはJA上伊那が管理する、生産者さんが共同で利用する施設です。
出荷にかかる一連の行程は個々の生産者さんで行うのは大変なことも多いため、大型機械をJAが取得管理し、販売にかかる手間を軽減しています。
・・・といっても、あまりイメージが湧きませんよね。では実際に内部を見ながらその仕組みを追ってみましょう!
いざ、カントリーエレベーターの内部へ!
今回、見せていただいたJA上伊那 南部カントリーエレベーターは8本のサイロ(貯蔵タンク)を擁し、1本あたり500トンの籾を保存することができます。
カントリーエレベーターを管理する同JA米穀課の場長、上山さんにご案内いただきました。
筒状の建物が米を保存するサイロ
施設は新しく、高い天井と、見たことのない機械がぎっしり詰まっていて、筆者は内心「わくわくすっぞ(工場萌え)」。
超大型の機械が多く、その全貌を撮影することが難しかったのですが、お米がたどる工程の一端が伝われば幸いです。
荷受(集荷)
地元の生産者が収穫したお米は脱穀して籾の状態でここに運び込まれ、投入口へ落とされます。
床のような白い部分は、ふたがされていますが…
ふたを取ると、籾の投入口が。ここに籾を落とします
粗選
籾は精選機を通り、紛れたワラやごみが取り除かれます。

計量
計量機を通して重さを量ります。

乾燥
お米は生産者の荷口ごとに含まれる水分量が異なります。たとえば、雨天の翌日に収穫すれば当然、水分量は高くなります。そこで水分量を均一にするため、乾燥機にかけます。
お米の水分量が高いと、カビが生えやすくなるなど保存状態が悪くなり、おいしさが保たれません。また、籾摺り機で玄米にするとき、粒が砕けてしまうのです。


循環式乾燥機は、自家用乾燥機としてもっとも普及した型で、米粒内部の水分を拡散させ、均一化しながら乾燥します。お米の品質を低下させることなく、乾燥時間を短縮できます。
貯蔵
湿度が調整されたお米は、収穫の時期によっては穀温が25℃もあるので、ここで温度を調整します。年間を通して適温の15℃で保存することで、均一な品質を長く保つことができます。
筒状の建物の内部。高さ約28mのサイロの底部にあたります
籾摺り
籾を玄米にする過程。ここでお米から籾が外されます。


調整
石などの混入物や着色米などを選別します。

たとえば、上の画像の中に見える黒い斑点がある米は「斑点米」といって、カメムシに吸われてしまった米です。もちろん私たちが普段、口にしている真っ白なお米には入っていません。
こうした規格外のお米は、ここでしっかりと取り除きます。
色や粒がそろったきれいな玄米
出荷
籾摺り、調整、さらに再度、粗選機でごみを取り除いてきれいになった玄米は、1トン入りのフレコンバック(輸送用の大袋)に詰めて出荷されます。

JA上伊那のカントリーエレベーターで玄米にするのは注文が入ってから。それまでは籾の状態でサイロ内に一定の温度で保存されます。
身長175cmのJA上伊那広報担当者とフレコンの大きさを比較
以上、ご紹介したカントリーエレベーターでの荷受けから出荷の過程は、施設ごとに異なる場合があります。
米どころ上伊那のおいしい「今ずり米」
冒頭の疑問「収穫したお米はどうやって保存しているのか」についてですが、出荷前のお米は、玄米の状態で保存するのが一般的ですが、カントリーエレベーターでは籾のまま適温で保存することができます。
JA上伊那では、カントリーエレベーターで貯蔵している上伊那産のコシヒカリを、注文を受けてから籾摺りする「今ずり米」を商品の一つとして出荷・販売しています。

今まで見てきた通り、カントリーエレベーターには大きなメリットがあります。
1 地域で収穫した大量のお米を、乾燥や調整をまとめて行うことで品質を均一化して保存できる。
2 保存に適した水分量に調整して貯蔵するため、カビなどの微生物の繁殖や害虫の発生を防止するほか、脂質の酸化を抑制して栄養分と鮮度の損失を防ぐ。
3 籾の状態で貯蔵するため、玄米で保存するより、おいしさや品質を保つことができる。
「籾は人間でいうと、服を着ている状態。裸で1年過ごすより、服を着ていた方がエネルギーを使わないので、酸化が防止され、鮮度の高いまま保存できるんです」と上山さんは言います。

JA上伊那産のお米はおいしく高品質で安定的に供給されることが評価され、地元の直売所や小売店で販売されているほか、コンビニのおにぎりやお弁当、飲食店向けに県内外に出荷されています。
この「おいしく高品質で安定的に供給されること」が可能な理由は、カントリーエレベーターにあったのですね!
もしかしたら県外のみなさんが「おいしい!」と思ったお米は上伊那産かもしれません。今ずり米はJAタウンで販売されていますので、ぜひ上伊那のおいしいお米を味わってみてください。
おまけ・カントリーエレベーターを登ってみた
カントリーエレベーターのサイロの高さは約28m、直径8m。建物内部に階段があり、サイロのてっぺんまで登ることができます。
折角なので「登ろう」と、嫌がるJA上伊那広報担当者を説得。

「疲れた、もうヤダ…」。かなりの段数に息を切らす三十路越え同士、励まし合いながらなんとか頂上に出ました。


登ってよかった。
この雄大な自然の中で上伊那のおいしいお米が育ち、足下のサイロに保存されているのだと感動しました。
「ここで育ったお米は絶対おいしいよね」と納得するくらい良い景色でした。
なお、JA上伊那のカントリーエレベーターは一般公開していません。また、収穫期のフル稼働しているタイミングでは安全および衛生上、内部取材は不可。今回は特別とのことでした。