みなさん、JA木曽地域は子牛生産団地であることを知っていますか?
かつて多くの木曽馬が農耕馬として飼養されていた木曽地域では、昭和40年代から畜産業で所得確保を目指し、和牛繁殖経営へ転換が図られました。牛舎建設や優良子牛の導入が行われ、県内随一の子牛生産団地へ発展しました。
そして現在、JA木曽管内でしか飼育されていない希少な黒毛和牛があるのです。それは、とろけるようなおいしさで大勢のファンがいる木曽のブランド牛「銘撰(めいせん)木曽牛」です。
今回は、黒内牧場で「銘撰木曽牛」を生産している黒内拓美(くろうち・たくみ)さんを取材しました。
取材日は大雪でした
木曽牛と銘撰木曽牛とは?
木曽牛とは、出生して約11か月間、木曽地域のおいしい水と空気のなかで育った牛です。
そのうち木曽郡内で14か月以上肥育され、26か月以上の黒毛和種の未経産雌または去勢牛であり、日本食肉格付協会の規格において肉質等級が4以上で歩留等級がAまたはBに格付けされたものが「銘撰木曽牛」としてブランドとして扱われます(下図参照)。
銘撰木曽牛の肥育を行うのは、黒内牧場とJA全農長野の三岳牧場の2施設のみ。育った子牛は県外に出荷され、信州和牛・岐阜県の飛騨牛・滋賀県の近江牛・三重県の松坂牛などになります。
黒内牧場で肥育されている牛たち
木曽牛と銘撰木曽牛はこんな違いがあります!
黒内牧場はどんなところ?
黒内牧場は、銘撰木曽牛の約90%を生産しています。繁殖から肥育、出荷までの一貫生産体制で肥育を行っています。現在140頭の牛がおり、自然豊かな木祖村で元気に育っています。
黒内さんは長野県農業大学校で畜産について学び、卒業後は南信酪農協同組合で技術員として乳牛の人口授精での繁殖に携わり、その後、牧場の経営を父から引き継ぎました。
最初はそっぽ向いている牛ですが、やっぱり黒内さんと仲良しです
どうやって育てているの?
黒内牧場では、子牛を自家繁殖するのが半分。もう半分は、自家繁殖させた和牛から採卵し、南信酪農協同組合で乳牛に移植してもらい、生後1~2か月の子牛を導入します。
多くの和牛の肥育牧場では、生後8〜10か月の子牛を市場から購入しますが、それだと子牛が牛舎やエサに慣れるまで1~2か月かかってしまいます。
一方、黒内牧場では、子牛はストレスとは無縁で育つため、ほかの農家と比べて出荷までにかかる期間が27~28か月と比較的短くすることができるそうです。
生後3~4か月の牛
生後7~8か月
生後約15か月
生後27~28か月(3月10日に出荷されました)
牛のエサは朝と晩の2回。育成期には、乾草・ビールかす・大豆かす・トウモロコシなどを混ぜて1か月寝かせた発酵肥料を与えます。肥育期にはたっぷりの県内産ワラを与えます。
黒内さんは「いい牛にするためにはエサが重要。健康管理を意識しながら、よりおいしい牛肉を多くのみなさんに提供していきたい」と語り、日々牛と向き合っています。
エサをおいしそうに頬張っています!
牛の健康管理はどうしているの?
牛の健康チェックと清掃は一番重要な作業です。牛はとてもきれい好きで、汚れているとストレスがたまり、肉質に影響してくるのです。
清掃しながらエサの食べ残しやフンの状態を確認し、牛を触りながら呼吸などもしっかり観察します。
また、牛がエサを食べなかったり、起立困難な場合などにもすぐ対応できるように、1頭1頭の行動を把握するためのセンサーを首輪に取りつけています。
首輪についているセンサーが、牛の状態を知らせてくれる
牛舎はゆったりできるスペースを確保し、床には地元の製材所から出たおがくずを敷いています。おがくずは1か月ごとに取り替え、使い終わったものは木祖村特産の「御嶽白菜」の堆肥となり、循環型農業にも活用されています。
牛が過ごす場所=牛床におがくずを敷き、毎日確認と掃除を行います
出荷されて私たちのもとへ届くまで
黒内牧場で肥育した牛が、3月10日に出荷されました。
愛情込められて育てられた牛は、出荷された後、お肉となって私たちの食卓に届きます。食べものが私たちのもとへ届くまでに、生産・加工・流通などさまざまな過程があり、それぞれをたくさんの人の手によって支えられています。
今回の取材を通じて、作ってくれた人へ感謝を伝えるべく、心を込めて「いただきます」「ごちそうさま」と言葉にすることが大切なのだと実感しました。
今後も信州の農畜産物を買って食べて応援しつつ、命をいただくことに感謝をしていきましょう。
生後27〜28か月の牛をついに出荷します!
出荷する牛をトラックへ
とろけるようなおいしさの「銘撰木曾牛」(イメージ画像です)
銘撰木曽牛はどこで食べられるの?
銘撰木曽牛は、長野県内では木曽地域にある「焼肉権兵衛」と、木曽地域の道の駅・旅館・ホテルで食べられます。また、ふるさと納税の返礼品として提供されています。
出荷は京都・大阪が多く、海外への輸出も少しあるそうです。通販はしていないため、ぜひ木曽地域へ足を運んで食べていただきたいです。