このおもちゃのことを覚えていませんかね?

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「鳩車(はとぐるま)」という玩具を知ってますか?

かつてはスキーなどで野沢温泉を訪れる人のほとんどが購入したと言われています。写真を見れば「自分は見たことがあるぞ」と思い当たる方も多いことでしょう。往年時は全国郷土玩具番付表の東の横綱までのぼりつめたおもちゃです。アケビなどのツルで作られた、この素朴で、どこか愛らしい玩具が、隆盛を極めることになったきっかけは、いまから47年前の昭和36年4月にさかのぼります。

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一躍爆発的な人気者に
当時、善光寺の御開帳に合わせて長野市で開かれた長野産業文化博覧会に、現在の鳩車の形を作った河野平作さんという方が鳩車のプロトタイプを出品しました。それが博覧会を訪れた皇太子妃(現在の皇后陛下)の目にとまり、鳩車が献上されました。そして、皇太子妃が鳩車で遊ぶ様子がテレビで放送されるや爆発的な人気ものになったのだそうです。

「寝る間もないくらい忙しかったね〜」と当時を懐かしく振り返るのは、今回お話をうかがった村に残る数少ない生産者の一人、吉越ます子さん(74)です。ます子さんが鳩車を作りはじめてはや40年が過ぎます。吉越さん宅で鳩車を最初に作ったのは吉越さんのご主人で、農協(現在のJA)の粗品で配られたマッチ箱に印刷されていた鳩車の写真を見て、「これなら自分にも作れそうだ」と言って作ってしまったのだそうです。

「写真を見ただけであんな複雑なものが作れるのか?」とあなたも疑問に思うでしょうが、同じくそう感じた記者が質問をぶつけてみると、ます子さんはサラリと答えました。「ここらは豪雪地帯でもともと冬場には、ツル細工でカゴなどを作っていたので、そんなに難しくはなかったですよ」

しかし、そうは言ってもほんとうに写真を見ただけで作れたのだろうかと、素人の記者はさらに考えてしまうのですが、ひとつを極めた人たちにはできたのでしょう。さて、ます子さんのご主人が出来上がった鳩車を村内のお土産屋さんに持ち込んだところ「すぐに持ってきてくれ!」とその場で発注されたといいますから、最初の作にして、すでにかなりの品質だったと想像されます。

鳩車を作り続けて20年以上
ます子さんは昭和60年にご主人を亡くされましたが、その後も20年以上にわたり鳩車を作り続けてきました。最盛期には何人も人を雇って本当に多くの鳩車を作ってきたそうです。しかし現在ではその当時からの仲間3人ほどで、注文があるたびに作っているそうです。村内で鳩車を作る人も今ではます子さんを含めて数えるほどになってしまいました。

作業は車輪部分を作る人、胴体を作る人と分業して、ます子さんは最後の仕上げを担当しています。その手さばきはまさに熟練の一言で、ツルの端を口に加え、反対の端を胴体に差し込んで羽を作り、先を切り揃えます。

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羽の先を結わえた後は、顔の部分に穴を開け、目とくちばしを入れます。目は以前は顔の部分を黒く塗っていただけだったのですが、色落ちするため途中から炭で染めた棒を差す方法に変えたそうです。また、くちばしは山から取ってきた「だんごの木」と呼ばれる木の枝を使い、二股に分かれているところ利用し、くちばしと鼻の部分を表現します。続いて胴体に穴を開け、細い竹筒を通して車輪をつなげればほぼできあがりです。最後に接着剤で細部を固定したり、全体のバランスを整えて完成です。

この間の一連の作業をさらに詳しく知りたい方は、吉越ます子さんの経営する民宿「パール吉越」のホームページをご覧下さい。画像つきで解説がされています。

もともと鳩車は、あけびのツルを使って作られていたのですが、現在はあけびのツルの価格が値上がりしたたため、香港などから輸入するフジのツルをつかっています。もはや鳩車を作る人はわずか数人になり、後継者もいないということですが、ます子さんは「自分が元気でいるうちは作り続けたい」と話しました。

吉越ます子さんの鳩車は村内の2つのお土産屋「フキヤ商店」と「黄金屋物産店」で購入できます。また、長野電鉄長野駅構内でも販売しているほか「パール吉越」でも購入できます。

鳩車の関連サイト:

野沢温泉村観光公式ホームページ

パール吉越ウェブサイト

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