竹ざるにぼっち盛りの「ザ・信州そば」
"戸隠(とがくし)"
「天下のそば」と言われるざるそばは、戸隠特産の堅牢な竹ざるも有名にした
戸隠にはかつて顕光寺という寺院がありました。また、戸隠は神仏混交の、修験者が修行する道場でもあり、彼らは荒行にソバ粉を携行し飢えをしのいだといわれます。
江戸期には戸隠周辺でアサの栽培が盛んになり、収穫後の畑では短期間で実るソバが作られました。標高が高く寒冷の地で収穫されるソバは風味がよく、顕光寺に参拝する人たちに供され、戸隠そばとして評判を高めました。
これも伝統のそばがき
現在戸隠神社、とりわけ中社周辺に多い宿坊では当然、そばが振る舞われます。さらに戸隠高原一帯にはそば店も集積しています。
戸隠そばの特徴は、現地特産の竹ざるにボッチと呼ばれる玉状の盛り方。「とうじそば」(山菜やキノコなどを煮立てただし汁に、お玉に取ったそばをくぐらせ、具と一緒にすくって食べる)の習慣から来ているといわれます。
江戸期から「講」を組んで参拝に訪れる人たちでにぎわった信仰の地・戸隠ですが、近年、純粋な参拝者が減少する一方で、ヒーリングスポットとして知られるようになったこともあり、多くの観光客が訪れます。
彼らに提供されるそばは、伝統の戸隠そば。供される側もそれは承知の上。何となく「私こそ〈ザ・そば〉です」というそばの声が聞こえるような......。
鏡池ほとりのレストランで食べた、ソバ粉生地のガレット。野菜の新鮮さがうれしい
〈周辺の絶景ポイント〉
峻険な戸隠の山並みを背景に。静かな鏡池
〈車でのアクセス〉
長野市からは2通りの行き方がある。まず、長野大通り経由、上松(うえまつ)五差路を直進、県道・長野信濃線へ。浅川東条交差点を左折。ループ橋を通り、飯綱高原→戸隠バードライン経由で戸隠へ。もう一つは、善光寺西の横沢町から七曲り経由で戸隠バードラインに出る方法。どちらも善光寺から40~50分程度。
〈Google マップ〉戸隠神社
中山道の街道文化を伝える
"依田窪(よだくぼ)"
ざる(せいろ)そば。面は太めで腰が強く断面が大きい分、新そばの香りも高い
他地域の人にはあまりなじみのない呼称ですが、依田窪はかつての長野県小県(ちいさがた)郡の依田川流域、つまり旧丸子町、旧武石村(以上現上田市)、旧長門町、旧和田村(現長和町)にまたがる一帯を指し、街道文化が色濃く残る地域です。
中山道の宿場である長久保宿(旧長門町)、和田宿(旧和田村)からの街道文化の広がりは、地域のそばの味にも大きく影響したでしょう。それが住民の意識向上につながり、洗練されたそばづくりにつながったと考えられます。
キジなどヤマドリの肉が入った温かい汁で食すそばや、韃靼(だったん)そばにも、この地域伝統のチャレンジ精神を感じます。
こちらは山かけそば
観光客など街道を通行する「そば好き」の好みの変化も積極的に取り込む――これもそばどころとして評価されることのひとつでしょう。域内の、あるそば店に入ったのですが、11時の開店時刻を過ぎると駐車場はすぐいっぱいに。長野ナンバー、松本ナンバーに交じり、県外ナンバーの車も少なくありません。
そうした成り立ちを持つ地域だけに、そばの特徴を特定するのは難しいのですが、たまたま入った店のそばは、太めで腰の強さが印象的でした。
旧中山道にも近い国道沿いは街道文化の香りを感じる
〈周辺の絶景ポイント〉
周辺と言うには少々遠いが、もし訪れたことがないならぜひ美ヶ原高原へ。長門牧場も有名。冬場なら和田宿など。写真は7月の美ヶ原高原
〈車でのアクセス〉
地域が広範にわたるので、とりあえず長和町「信州立岩 和紙の里」まで。上信越道・東部湯の丸インターから県道81号を走り、下丸子の信号(同インターから約20分)で国道152号に合流。下立岩の交差点の隣。同インターから約35分。
〈Google マップ〉「信州立岩 和紙の里」