楽しい美術館の楽しいカフェ
「楽しかったね~」と、入り口ですれ違った家族の会話が耳に入りました。振り向くと小学生くらいの女の子とお母さんとお父さんが、ウキウキした様子で歩いていきます。
ここは美術館。普通なら「よかったね~」「素晴らしかったね~」などの声が聞かれるところ、この親子の感想は、ここ安曇野ちひろ美術館の性格をとてもよく言い当てています。
美術館ですから、ここでは絵を見ることができます。心がとても温かくなったり、懐かしくなったり、時にはちょっぴり悲しくなったりする、いわさきちひろさんの素晴らしい絵といつでも向き合うことができます。
しかし、ただ絵を見るだけの場所ではありません。世界の絵本を読むことができます。買い物を楽しめます。中庭のベンチでお昼寝ができます。美術館が位置する松川村営安曇野ちひろ公園に広がる美しい風景を眺めながら、ボ~ッとできます。芝生で子どもと遊べます。ブルーサルビアの花に囲まれて散策できます。さらに、野菜の収穫体験や調理体験もできます。
この日は親子でジャガイモの収穫に挑戦していました
そしてこの夏、安曇野ちひろ公園の一角に「トットちゃん広場」が完成し、黒柳徹子さんの作品『窓ぎわのトットちゃん』の世界を体感できるようになりました。
「トットちゃん広場」。いわさきちひろの絵が印象的な『窓ぎわのトットちゃん』に登場する、電車の教室を再現
そしてそして、今回伺った「絵本カフェ」。ここは単にお腹をふくらませるためのレストランではありません。おいしくて、楽しくて、「安曇野に来てよかったな~」と心から思えるレストランなのです。
ご近所の畑で採れたくだものが、ここでタルトに!
「今日のブルーベリーは戸谷さんのところのだね」と話すのは、今日館内を案内していただいた船本さんとカフェスタッフの柳沢さん。戸谷さんとはこの近くでブルーベリーを栽培している農家さんで、お二人の会話からわかるのは、単にトレンドとして地元の食材を使っているのではなく、この土地のたくさんの農家さんと交流があるらしいということです。柳沢さんによれば、農家さんだけではなく、村内のお餅屋さんやパティシエの方などともつながっていて、地元の皆さんに支えられながらこれらのメニューができあがっている、とのこと。
地元の採れたてブルーベリーがこれでもかと乗った「フレッシュブルーベリーのタルト」
当館一番人気、ちひろが愛した「いちごのババロア」
季節限定、夏におすすめの「レモンのロールケーキ」
このグラデーションが不思議「りんごのアイスティー」
一般的に美術館は「芸術鑑賞」の拠点であり、それゆえに地域との距離感を感じやすい施設ですが、安曇野ちひろ美術館はそれとは正反対です。地元の方は日常的に来館しているようですし、例えば、ちょうど今開催されているワークショップでは、地元松川中学校の生徒さんがボランティアスタッフとして加わっていて、その数なんと200人!。美術館と地域との一体感を感じさせる事例はいくらでもあり、そういったスタイルがそのままカフェの運営にも反映されていることが感じられました。それが、このカフェの持つ「とっても居心地のよい感じ」の源になっていることは、間違いありません。
地元産もち米を使った松川村のおもち屋さんによる「手づくり山菜おこわ」
「おやき」と松川村産の「黒豆茶」
トットちゃん広場を目あてに神奈川県から来たと言うMさんご家族に、どのメニューがおいしかったか聞いてみたところ、親子3人が口をそろえて「全部」という答え。美術館でこんなにおいしく食べられることに、びっくりしたようです。
安曇野は米どころで知られていますが、野菜や果物の良質な産地でもあります。絵本カフェが自信をもって提供する「安心安全」や「旬のおいしさ」は充分伝わっているようでした。
「ここは美術館ですから、絵に触れたときの感動を、もう一度心の中で思い起こせるような、くつろげる空間づくりを目指しています」とお話しいただいたのは船本さん。絵本カフェの「おいしさ」は、単に味覚だけではなく、生産者とか料理を作る人の気持ちや、施設の運営姿勢、考え方などによっても支えられているんだな、と感じさせらました。(つかはら)
※安曇野ちひろ美術館は松川村営安曇野ちひろ公園の中に建つ施設です。文中のブルーサルビアの花壇やトットちゃん広場や農業体験は正確には安曇野ちひろ公園の管轄となります。
※絵本カフェは美術館内の施設ですので入館者に限ってご利用できます。