来年の大河ドラマにちなんでか、真田十勇士のカカシ発見!(上田市)
農業の仕事とは農作物を育てることにほかなりませんが、多くの人に「おいしい」と満足してもらうためには育てることに付随した様々な作業もしなければなりません。
たとえば、病気の予防や害虫の駆除、草退治など。さらに、近年農家を悩ませている鳥獣害があります。農地や作物を荒らす鳥やイノシシ、シカなどの対策は、相手が動物だけに一筋縄ではいきません。動物と知恵比べをしながら、あの手この手を繰り出し粘り強く続けていく終わりなき戦い。そのうえコストもばかになりません。それでも必ず取り組まざるを得ないのが鳥獣害対策なのです。その最前線を確かめに足を運んでみました。
良質の農産物を安定的に生産したい、
という農家の前に立ちはだかる鳥獣害の高い壁
伝統的な鳥害対策カカシ(上田市)
農家にとって鳥は天敵とも言える存在で、両者の争いはおそらく人間が農耕を始めた時からあるのではないでしょうか。鳥を撃退する方法や道具は実に様々なものがあり、数え上げればきりがありません。その中でも最も古く、そしてポピュラーなものはカカシではないでしょうか。これは現在でもそこかしこに見られ、古典的なものもありますが、農夫がまさに仕事をしていると見まがうリアルなものもあります。最近は通りがかりの人に喜んでもらうことを前提としたような創作かかしも見かけられ、農業にも遊び心が加わってきたことはちょっとワクワクした気持ちにもなります。
CDは最近よく使われるアイテムで、実際に見るとキラキラと輝いて見える(上田市)
稲作の場合はスズメ、りんごなど果樹の畑はカラスやヒヨドリが主たる敵で、網をはって防いだり、大きな目玉をあしらったツールや、とにかくキラキラしたものを吊るなどなど、追い払うための試行錯誤が繰り返されています。究極は爆音器という大きな音で撃退する方法ですが、騒音問題等あるので最近は減少してきているようです。
爆音機の大きな音とともに、伸ばされた竿をリングが上下し鳥を脅す仕掛け。
リンゴ畑などでよく使われる(上田市)
地域の団結こそが決め手でした
更級地区有害獣被害対策協議会で会長を務める塚田貴志男さん
一方、鳥の被害にも増してここ数年増えているシカなどによる被害はどのようにしているのでしょうか。まずお話を伺ったのは、千曲市で3年前に設立された更級地区有害獣被害対策協議会会長の塚田貴志男さんです。実際に野生動物の被害が増え、対策が広まったのはこの地域でもこの数年のことだといいます。
「里山が荒れてしまったために、生態系が変化して野生動物が活発に活動しやすくなっています」と塚田さんは話します。それに加え、耕作放棄地が増えたことや狩猟者の減少なども野生動物被害を拡大させる要因となっていると報道されています。
「この辺ではシカ・イノシシの被害が特に多くて、それぞれ自分の畑に柵をめぐらせたりして苦労していた」そうです。そんななか発足した協議会では、農家もそうでない住民も団結してことに当たることとし、山林と耕作地の境界に堅牢な柵をめぐらすことになりました。個々人でバラバラにしていた対策を改め、地域ぐるみの対策に切り替えたのです。
「農家以外も含めてすべての家から人を出してもらい、1年がかりで作りました」という高さ2mの柵の総延長は、何と8km! 現地に案内していただくと、薮の真ん中だろうが、急峻な斜面だろうが切れ目なくつながったこの柵を、住民自らの手で敷設したことに驚きました。大げさかもしれませんが、万里の長城を連想してしまうのは私だけでしょうか。
2年前に柵が完成して以降、被害は大幅に減少したとのことですが、調査によると野生動物の個体数は増えているとも言われ、まだまだ安心はできないようです。
柵はかなり頑丈な作りで2mの高さ。地域の皆さんの手で敷設された
最強ロボット現る!
センサー+光+超音波+爆音+威嚇弾発射
開発された鳥獣撃退マシン「鳥獣撃退装置《畑の番人ロボ》」
次に訪れたのは飯田市の三笠エンジニアリングという機会製造メーカーです。このほど畑に侵入する鳥獣の撃退マシンを開発したのです。
「きっかけは5年以上前に、農家の方から聞いた悩みごとだったんです」と話すのは、社長の伊本政芳さんです。畑に来るサルを追い払いたくても、人の姿を見ると出てこないし、いない時に荒らされてしまうという状況で解決策が見つかっていませんでした。そこで同社では人が畑にいなくても野生動物を撃退するマシンの開発に取り組んだのです。
圃場に設置する場合はビニールカッパを着せられる(泰阜村)
実物を見せてもらったところ、これはまさに最強ロボット。マシン全体が旋回し、畑全体を常時監視→赤外線センサーによって野生動物をキャッチ→光の点滅+超音波+大音量の音で威嚇→さらに専用花火もしくは粘土製のつぶて(ピンポン玉大)を発射して撃退するというスーパーな仕事ぶり。動物園に通ってセンサーの有効性を実験したり、何度も試行錯誤を重ねた結果、ついに完成にこぎつけたのです。現在すでに圃場での稼働が始まっています。
音の種類は爆音と銃声と犬の鳴き声! の3種類。実際に聞いてみるとこれは逃げるしかない、という迫力です。このマシンの効果で、少しでも生産者の皆さんが安心して栽培できる環境が取り戻せることを願うばかりです。
私たちが何気なく口にしている農産物は、どんなものも多かれ少なかれ鳥獣などの外圧から農家の皆さんに守られたなかで安全に育ち、実を結び、収穫されたものなんだと改めて感じました。(つかはら)