アンズとクルミに囲まれた工房美術学校を卒業後、東京の広告代理店に勤めていた窪田さんは、書店で1冊の本に出会い、絵絣に感銘を受けました。「絣(かすり)」とは、織る前にあらかじめ文様にしたがって染め分けた糸(絣糸)を用いて織る模様織物です。昔から半纏(はんてん)やこたつ布団、野良着などに仕立てられ、幅広く親しまれてきました。窪田さんは、「絵絣を現代のファッションやインテリアにもっと活用できるのでは」と思い立ち、著書の先生のもとを訪ねたそうです。その後、岡谷市の織物会社で働きながら、合間に絣織を制作しました。しかし、結婚直後に会社が解散、これを機に32歳で独立を決意しました。独立の際には、アンズの実をみんなで収穫したり、木の下で草餅を食べたりした、幼少期の楽しい思い出のあるアンズとクルミの木の中に、工房を建てました。
浅草で転機が訪れる窪田さんは「売る先もなく、何を作ったらいいのかもわからなかった」と、懐かしそうに当時の心情を語ります。先生から糸屋を紹介してもらったり、先生の織った呉服を東京で売って生計を立てました。呉服は売れましたが、浅草にある老舗牛丼屋の女将さんに、「人の作ったものを売っていてはダメ。あなたの作ったものなら、いくらでも売り先は紹介できる。自分の作品を持ってきなさい」と言われたそうです。「何をしてたんだろう」と、作品づくりに励みました。
草木染めとの出会い思うように上手くはいかず「もう、やめようか」と考えた時もあったそうです。ちょうどその頃、近所の農家の方に「この木は切った方がいい。途中で切ると、そこから若芽が出るから」とアドバイスを受けて、アンズの木を切りました。すると、その切り株はとても素敵な色だったのです。当時は化学染料で糸を染めていましたが、化学染料は高価なため「この木で染めれば、染料代がかからない」とも思ったとか。
初めて染めた時、夕焼けのようなアンズの実の色を想像していたら、サーモンピンクのような花の色に染め上がったそうです。また、退色すると思っており、「草木染めをあまり信用していなかった」窪田さんですが、染色を続けるうちに、あんずの木は丈夫な染料だということが分かったそうです。今では、剪定した木を寝かせたり、ミョウバンや鉄などを加えることによって、ピンク〜オレンジ〜褐色といろいろな色に仕上げています。
「この大地の色に緑色を芽生えさせて、みんなを励ましたい」「小さい頃、アサガオやヨモギを潰して色水をつくって遊んだでしょ。それと同じで、毎回どんな色が出るのか楽しみなんだ。いろいろな色が出るけれど、変な色はひとつもない。自然の色が出るんだよ」と、教えてくれました。あんず染めを見た写真家の友人から、「まさに、砂漠の色だ」と言われたことがあるんだとか。あんず染めの色は、大地の色だったのです。草木染めで緑色を出すのは難しいそうですが、窪田さんは、「この大地の色に緑色を芽生えさせて、みんなを励ましたい」と夢を教えてくれました。アンズとクルミの木に囲まれた工房で、木の下にある釜で染色をして、風にさらして乾かした糸で織られた絵絣とは、まさにアンズの恵みを存分に受けた産物です。
【ミニギャラリー】更級花織工房とその作品
◇更級花織工房 千曲市倉科1330 電話:026−272−4080
工房でのすてきなひととき 取材時には、窪田さんの娘さんが、手作りのアンズを使ったスイーツを紹介してくれました。アンズのさわやかな酸味が、スイーツによく合います。
生のアンズは足が早い(傷みやすい)ため、地元でも店頭に並ぶ期間はとても短いです。6月下旬には、県内の直売所で、もぎたての新鮮な果実が販売されるほか、アンズ狩り体験も行われますよ。初夏限定のフレッシュな味わいを体験してみませんか。
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