四方を2,000m級の山々に囲まれた南佐久郡川上村は、冷涼な気候によるレタスや白菜などの高原野菜の一大産地として有名です。その川上村に、とっても可愛らしい「生きた文化財」があるんです。
それではさっそく、ご対面〜♪
雪の中でも元気いっぱい
生きた文化財とは、長野県の天然記念物に指定されている「川上犬」です。訪ねたのは3月上旬でしたが、残雪が多くケージの半分近くまで雪があります。川上犬たちは雪の上を元気にはしゃいでいます。
かわいくて従順で、
実は、オオカミのように勇敢
現在、国の天然記念物として指定されている犬は、北海道犬(アイヌ犬)、秋田犬、甲斐犬、柴犬、紀州犬、四国犬(土佐犬)の6種類ありますが、川上犬は柴犬の一種であると考えられています。
川上村はかつて、標高が高い寒冷地であるがゆえに稲作ができず、蕎麦などを栽培していました。また、カモシカが自由に捕獲されていた頃は、毛皮などが高い値段で取り引きされたため、狩猟が生業の中心でした。その狩猟のパートナーとして飼われていたのが川上犬です。川上犬のはじまりは、「山梨・埼玉・群馬・長野にまたがる秩父山塊のヤマイヌ(ニホンオオカミ)が猟師によって飼いならされたもの」との言い伝えも残っているんだとか。そのため、自分より体の大きな獲物にも勇敢に立ち向かいます。主人が熊に襲われそうになったとき、自分の何倍もある相手に飛びかかり、主人を助けたというエピソードも残されています。また、主人に従順で、飼い主と決めた人に一途に従う性格を持っています。
八ヶ岳高原 夏の風景
時勢に翻弄された川上犬
川上犬は、大正10(1921)年に国の天然記念物に指定されました。しかし、交通網の発達と林業が盛んになったことで、林業のパートナーとして洋犬が村に持ち込まれ、雑種化が進みました。また、カモシカ猟の規制が厳しくなったことにより、川上犬の活躍の場が奪われていき、戦争中の動物撲滅令も伴って、川上犬の姿が集落から消えていきました。その結果、個体数の減少などにより、戦後に国の天然記念物の指定が解除されました。
保存会犬舎で暮らす「鈴風号」メス
一方、熱心な村民の努力によって、昭和35(1960)年に信州川上犬保存会が再編成され、純系繁殖の基盤が確立し、現在は村内で約60頭、全国では約400頭弱にまで回復しました。その中から、川上村で生活し、体型・体格・尾型・体毛・血統・飼育環境などの点において認められた犬だけが、長野県の天然記念物に指定されています。
6〜8週齢頃の子犬
文化財保存の一助に
信州川上犬保存会は、純粋な川上犬の保存活動の中で、希望者には川上犬の子犬を分譲しています。川上犬は県の天然記念物なので、ペットショップで購入するような私物化できる販売とは違います。そのため、生きた文化財「川上犬」を共有しようという認識のもとで、飼育のお手伝いを行うことになります。
川上犬保存会事務局の吉沢一平さんに、お話をお聞きしたところ、県内や関東圏を中心に、遠くは山形県や四国地方の方からも分譲の希望があったそうです。実際に飼育された方からは、喜びの声とともに、「思ったよりもおとなしかった」といった声も届いたそうです。
赤柴で黒の差し毛(6〜8週齢)
この愛らしい生きた文化財「川上犬」に実際に会ってみたい方は、川上村森の交流館(展示犬舎)のほか、小諸市動物園で会うことができます。
参考:信州川上犬保存会著「川上犬」パンフレット
◇川上犬に会える場所
・川上村森の交流館(展示犬舎)
・小諸市動物園