時代は巡り、ぬかくどが帰ってまいりました

険しい山々が大壁のごとく立ち並ぶ姿とは対照的に、北アルプスの麓にはとても穏やかな様子の田園風景が広がり、澄んだ空気に清々しさを感じさせます。ここ長野県中部の安曇野は、昔から米作りが盛んな土地。この地では今から50年程前の昭和20〜30年代に、「ぬかくど」が活躍したそうです。

ぬかくど? そう「ぬかくど」ですよ。正しくは「ぬか竈(ぬかくど)」と書きます。で、「ぬか竈」ってご存知ですか? 「竈(くど)」とは"かまど"を意味する漢字です。「ぬか」とは"籾殻(もみがら)"をしめすこの地方の言い方。つまり、ぬかくどとは燃料に−−薪ではなくて−−もみ殻を利用して米を炊きあげるかまどのことなのです。

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これぞ循環型農業のはじまり
精米後に残ったもみ殻を燃料として利用しご飯を炊くのは、多くのもみ殻が手に入るまさに米どころ安曇野ならではの炊き方。もみ殻は燃料としてはとても軽くて扱い易く、さらにお米を炊いた後に残るその燃えがらは、今度はくん炭として畑に撒いて肥料に使うという、まさに循環型農業そのものとなっていたのです。

ぬか竈と呼ばれるもののその形状は、見た目はまるで−−40年ほど前まで学校で使われていた−−だるまストーブのようでした。上部の脇に開けた口から燃料であるもみ殻を入れて火を点け、あとはその上にお米の入った釜を置きますが、分量は米一升にバケツ一杯程度のもみ殻が必要だとか。やがてご飯が炊きあがった頃、かまどの下にはもみ殻の燃えがらもできあがっていました。

ぬか竈と鳩山内閣の因縁?
このぬか竈の歴史をたどれば、今からおよそ80年前、政治家で実業家の小林英三(こばやしえいぞう、1892−1972年)という人が、「精米した際に残るもみ殻がいっぱいあってどうにかならないか」という米作農民の声により「籾殻かまど」なるもの発明したもので、それは飛ぶように売れ戦後の農村に一大旋風を巻き起こしたそうです。ちなみに小林英三なる人物、今の総理大臣のお父さんの頃、前の鳩山内閣の時代の1955年に厚生大臣までやっています。

しかし時代は変わります。そんなぬか竈も、急速に西洋化し住宅様式が変わって、家の中から土間が消え去り、電気やガスの普及と共に、信州の米どころでも、お米を炊くためにぬか竈を使用する人もめっきり少なくなっていったそうです。

ぬかくどリターンズ
nukakudo_a.jpgところが、そのぬか竈が、また最近になって、この安曇野の地で、当時の姿のまま復活を遂げつつあるというではありませんか! 安曇野市では、先人たちが築いたものを含めて安曇野市の素晴らしさを再認識し、その魅力を活かしていこうと、3年前の平成19年より「安曇野ブランドデザイン会議」が発足。その構成部会のひとつである福祉部会では、「人々が地域で元気に楽しく暮らすこと」を福祉の意味として、福祉部会の中の「ぬかくど隊」が、

「昔からこの地で人々の命をつないできた"お米"というものの大切さ、そしてお米を炊く時に欠かせなかった"ぬか竈"という文化を後世にも語り継いでいきたい」

「米粉が流行る現在、しかしそれ以前にご飯を炊いて食べることさえも少なくなっている今、もっとお米そのままを食べて、本当のご飯の美味しさを伝えたい」

と、JAあづみ生き活き塾のメンバーを中心として、今ではすっかり使われなくなっていたぬか竈の出張炊き出しや講習会、こどもの農業体験などの活動を行なっているのです。

nukakudo_b.jpgおこげもうまいのです
ちかごろの炊飯器ではめったにお目にかかることがなくなった"おこげ"というものが、かまどで炊いたご飯にはつきものであって、これがもうひとつの美味しさであったことや、さらに、昔この地でよく使われていたこの「ぬか竈」という昔の人の知恵を、大人が若者に伝えることを通して、世代間の交流を図ろうと、大きな夢を持ってぬかくど隊は活動しています。

地元のイベントでこの日行なわれたぬか竈の炊き出しには、地元のおじいちゃんやおばあちゃんたちが「昔よくやったもんだ」と目を細めて懐かしむ様子の一方、子供や学生は不思議そうにそのぬか竈を覗き込む光景が見られました。

もう一度もみ殻を焚く時代へ
また現在82歳になるという地元のおばあちゃんは、20代から今でもこのぬか竈でご飯を炊き続けているそうで、最近使えなくなった部品だけを交換して現在は3台目としてぬか竈を引き続き使用しているということでしたが、「ぬか竈のご飯は美味しいから、ほかのものでご飯を炊こうだなんて思わない。(昔からやっていることだから)もみ殻をくべて炊くことも大変だとはちっとも思わないわ。」そう言って温かい笑顔を見せてくださいました。

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あなたが今後もし、ぬか竈と出合う機会があったら、是非それで炊き上げたお米の味を確かめてみてください。

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