その味を知らない人は「どうしてわざわざおまんじゅうを天ぷらにするの?」と深く考えこむことでしょうね。調べてみるとこの「まんじゅうを天ぷら粉につけて油であげる風習」のある地域は、信州のほぼ全域、岐阜県、福島県の会津地方、東京の一部など限られているみたいです。いわゆる「揚げまん」とは違います(キッパリ)。「揚げまんじゅう」は衣はつけませんからね。まんじゅうの天ぷらを不思議にお思いの人は、今年はだまされたと思って一度食べてみてください。「揚げまんじゅう」があるぐらいだから「天ぷらまんじゅう」があってもいいではありませんか! むしろ衣がサクサクしているぶんだけ「揚げまんじゅう」よりおいしいかも。天ぷらまんじゅう文化のなかで育ってきた人間には、これ、結構おいしいと思えるのです。
信州人にはあたりまえすぎる食べ物
「天ぷらまんじゅう」は、実にシンプルなお料理。中身のあんこはこしあんが主流。お塩をつけたり、大胆に天つゆにつけて食べたりしています。マウンテン・カントリーの信州では、お盆になるとこぞって天ぷらを食べる習慣がありますが、この「天ぷらまんじゅう」は、野菜や魚介類の天ぷらと共に、当たり前のように器に盛られて登場するのです。あたりまえすぎて、今まであまり不思議に思いませんでしたが、お盆にだけ登場するその姿は、各地の知り合いに尋ねてみると、珍しいらしいということが、最近分かりました。
普段お店で「天ぷらそば」や「天ぷら定食」を注文しても、信州ではまずこの「天ぷらまんじゅう」は出てきません。天ぷらにする具はその年によって変ったりもしますが、この『天ぷらまんじゅう』だけは、きまって毎年この時期、食卓に登場するのです。というより、お盆にはまんじゅうの天ぷらが欠かせないのです。だから、これぞ信州のお盆料理の定番かと思っていましたが、少し成長してわかったのは、どうやら信州の中部の諏訪や茅野地方ではなぜかこれが登場しないらしい。とはいえ、信州各地の家庭ではお盆になると、21世紀になった今もこの「天ぷらまんじゅう」に出会える確立はかなり高いのです。
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ちなみに長野県のこのシンボルマーク は天ぷらまんじゅうをモチーフにした ものなどでは断じてありません(^^;) |
ぜひ一度食べてみてください
この時期になるとスーパーマーケットでは「天ぷらまんじゅう」用の「まんじゅう」さえ売りだされるほど。きっとお盆がせまってきている今ごろは、信州各地の店頭に並びはじめます。この「天ぷらまんじゅう」用のまんじゅうは、普通に食べれば生地の水分が少なくてあまりおいしいまんじゅうではありません。しかし天ぷらにするとちょうど良い感じになるのです。
もしかすると「天ぷらまんじゅう」の由来は、お供えにしていたおまんじゅうをいただく際に乾燥してしまった状態のものを、おいしく味わうための知恵だったのかも。今日まで「天ぷらまんじゅう」の存在を知ることなく来られた文化圏の方、うっかりおまんじゅうを放っておいたら固くなってしまった方、これを読まれたのもなにかの縁と心得て、一度「天ぷらまんじゅう」を作ってみるのはいかがでしょうか?