信州を旅行する県外の人たちから、景観や温泉などについての好印象とともに、宿やレストランの「食事のボリュームが多い」という話をしばしば耳にします。「今どき最後のは褒めてるとは言えないんじゃないの?」これは家人の感想ですが…。
そういえば東京勤務次代、銀座にある、元力士が経営するという中華料理店で、昼ごはんにジャンボ餃子(ぎょうざ)を注文したことがあります。長野県出身の同僚も同じものを頼みました。普通は、餃子に、小ぶりの茶碗に盛ったご飯をセットにするらしいのですが、私たちはチャーハンを別に頼みました。その瞬間、周囲のサラリーマンやOLから、どっと驚きの声があがり、逆にこちらが驚いたことがあります。
それはおもてなしのひとつ
その餃子は確かに小さめのバナナくらいの大きさがあり、確か8本が1人前でしたが、チャーハンとセットにしたところで、驚かれるほどでは、と、正直、思ったものです。とはいえ、最近江戸時代の風俗を記した本を読んで、ショックを受けました。その本には、当時江戸では「信濃者の大飯食らい」と言われていた、と書いてあるではありませんか。著者は、この本の読者には長野県人もいるだろうと気がついたのでしょう。「ただこれは、信濃者は働き者という意味でもあった」と付け加えていますが、もはや慰めになどなりません。
それからは、車に乗っているときでも「ご飯おかわり自由」とか「焼肉食べ放題」という看板がいやでも目に付くようになり「ひょっとして今でも…」と不安になりました。しかしよく考えれば「おなかいっぱい食べてもらう」「すきっ腹で客人を帰さない」というのも、もてなしのひとつでしょう。
せっかく信州に来ておそばを
よく行く長野市内のそば店でも盛りが良いのが評判で、地元サラリーマンだけでなく観光客でいつも込んでいますし、別のそば店(やはり盛りがいい)でも、そばを運んできたおばちゃんが「せっかく信州に来ておそばを食べてもらうのに、量が少なかったと思われるのはヤダもんね」と、言ってました。
「そば」と言えば「信州そば」であります。歴史のあるブランドです。しかしながら2010年のデータでは長野県のソバの作付面積は全国で5番目。生産量では北海道に次ぎ2番目、とはいえ、北海道の5分の1です。これで「そば王国」などと言えるものでしょうか。
なぜ信州はそばの王国か
「いや、間違いなくそば王国」と言うのは長野市在住で郷土食文化に詳しく、そばについて厳しい評論で知られる金子万平さん。「まず、信州では市場に出ない、つまり自家消費用にソバを作っている家が多い。つまり隠れた生産分がかなりあると見ます」
さらに金子さんはそば店の集積度の高さを挙げました。確かに長野市の善光寺・表参道だけでもそば店はかなりの数に上ります。「そうした店が競い合ってきたことも、そば文化を育てる上で大きな役割を果たしました。それにそばを日常的に食べてきた歴史もあるしね」
新そばの時期にようこそ!
長野市や松本市といった市部だけでなく、富倉(飯山市)、戸隠(長野市)、新行(大町市美麻)、唐沢(東筑摩郡山形村)など長野県には古くから全国に知られたそばどころが数多くあります。そうした歴史も、信州=そばのイメージにつながっているのでしょう。
さて、新そばのシーズンです。そば通の中には「秋より、ソバ粉を少し置いた冬の方がうまい」と言う人もますが、これからがそば好きにはこたえられない時期であることは間違いありません。秋・冬の信州の旅は質より量、じゃなかった、食事の質も量も満足していただけるでしょう。