暖かくなると、花粉症に悩む季節がやってきます。今では日本人の2〜3割が花粉症に悩まされているといわれ、メディアや店頭でも花粉症関連の話題が多く取りあげられることでしょう。みなさんのなかにはこれからの季節、せっかくの暖かな春の訪れを喜ぶよりも、花粉との闘いに憂鬱すら覚える方がいらっしゃるかもしれません。
今回は花粉症で悩むスギ子と、それを助けたいハナ子、そして、頼れるわれらがドクター・Mによる「花粉症についてあなたが知っておくべきことのはなし」です。
そろそろ冬の終わりを感じさせるある日の会話
スギ子:最近、鼻がムズムズするんだ。もう花粉症の症状が出はじめたみたい。
ハナ子:それは大変ね。飯田保健福祉事務所の発表では、飯田市や伊那市といった長野県南部地域では、スギの花粉が飛びはじめるのは今月下旬からみたいだよ。平年よりは少ない量みたいだけど。
スギ子:あ〜あ、花粉症がすぐ治る方法ってないのかなあ。花粉症に効くっていう健康食品も沢山でているけど、効果はどうなの?
ハナ子:そうだ! ドクター・Mに聞いてみよう! きっと花粉症についてなにか教えてくれるはずだから。
スギ子とハナ子はさっそく二人で、長野市にお住まいの、“なんでも博士”といわれる医師、ドクターM(Dr.M)のもとを訪れアドバイスをいただくことにしました。
花粉症はいつごろ発見されたの?
Dr.M:実は花粉症の始まりはそんなに古くないんだよ。この『現代免疫物語−−花粉症や移植が教える生命の不思議』(岸本忠三+中嶋彰著 講談社ブルーバックス 2007年刊)という本を見てごらん。日本でスギ花粉症が見つかったのは1963年。アレルギー鼻炎を研究していた斎藤洋三というお医者さんが日光で発見したと書かれているね。
ハナ子:へえ〜。日光は杉並木で有名な場所ですね。
Dr.M:そうだね。はじめは「くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみ」といった季節的なアレルギーとしてしか認識されていなかった。
ハナ子:そうだったんですか。先生、スギ子は花粉症で悩んでいます。なにかアドバイスをいただけますか?
花粉症をなおす食べ物や飲み物はありますか?
スギ子:お願いします。「医食同源」という言葉がありますが、花粉症の原因も、食生活と密接な結びつきがあるのでしょうか?
Dr.M:ありません! というより、それをあまりにも結びつけすぎる情報が多いね。だからみんな効果を期待しすぎちゃうんだな。この厚生労働省HPに掲載されてる「花粉症の民間医療について」という資料をみてごらんなさい。確かに今、あなたが言ったように、花粉症は食生活に関係があると言って、いっぱい花粉症関連の商品が発売されている。これは民間医療もしくは代替医療に含まれる。でもね、この表が示すように、効果は30%以下のものがほとんどだ。(右表を参照)民間医療が使われる理由は、安価であること、医療機関の受診が面倒だからという理由らしい。
ハナ子:あまり過信しすぎてはいけないのですね。
スギ子:例えばヨーグルトが花粉症の症状緩和に効くといわれます。わたしは毎日ヨーグルトを食べていても、花粉症の症状の緩和にはつながっている気がしないんです。もちろん、ヨーグルトのお陰で、体調はいいのだけれど。
Dr.M:うん。全てが食生活で改善できるわけではないんだな。むしろ理解はこうしてほしいのよね。なによりも花粉症の仕組みが分からないといけない。さっきの『現代免疫物語』という本にはちゃんと記されているだろう。いいかい? 36ページに「花粉症のメカニズムについて」が書かれている。
実は花粉症が起きるのは悪いことではない
Dr.M:まず、人間の鼻の中に花粉が入り込む。そうすると人間の鼻の中の粘膜にはどういうことがおきるかというと、『変なものが入ってきたぞ!』といって人間の細胞が花粉を感知する。そして肥満細胞(ふっくらとふくれているからこう呼ぶんだよ)が免疫タンパクIgE※1をつかまえる。そしてそれを排除するためにヒスタミン※2という物質が出される。このヒスタミンがかゆみの元なんだ。だから『おい、ダメだダメだ!これは大変なことがおこっている!』と粘膜が腫れて、鼻づまりを起こしたり、洗い流そうとして鼻水や涙が出るわけだ。ヒスタミンという物質以外にも悪いものを排除しようとして気管支が収縮して、のどが痛んだり、喘息発作(ぜんそくほっさ)が出たりする。だから本当は人間の体で花粉症を起こすということは、良いことなんだよ。
花粉症を治す近道がどこかにありません?
スギ子:へえ〜、それって体が花粉と戦いをしている、ということですか?
Dr.M:そうなんだ。戦っているということなんだよ。とすると、ある部分では敏感な人ほど花粉と戦っちゃって、症状を起こしやすくなってしまうということだ。とすると、今の人たちはなぜ敏感な人が多いのか、という疑問がでてくるね。これには色んな説があって、例えば、現代人は抗生物質を飲みすぎちゃって、大事な腸内にいる細菌のバランスを崩したために、天敵に対して敏感になりすぎた。だからさっき話しに出てきたようにヨーグルトを食べて腸内細菌のバランスを整えればいい、というような理屈になる。もちろん、ヨーグルトは腸内細菌のバランスを助ける効果はあるけれど、それがすぐに花粉症の改善につながるわけではないんだよ。
スギ子:すぐに『これをやれば治る!』という近道を探してしまいがちでした。
Dr.M:簡単な近道があって病気が治ると思うのは勘違いだな。食べるものについても、全体としてバランスのよい食事をすることが良いということにつきる。この本にも、“ディーゼル自動車の排ガスを疑う学説”“食生活やライフスタイルが変化した点を指摘する学説”がある、と書いてあるね。だけど詳細はまだなにもわかっていない。確かなのは現代の免疫学は、花粉症などのアレルギーがどのようにして起きているのかはほぼ突き止めた。だが、『現代免疫物語』にも書かれているように、わかったのは実はここまで、ということのようだ。
ハナ子:花粉症って、意外と難しい病気なのですね。
2年間かければなおす方法もある
Dr.M:実は今、医学的に効果があるよといわれているものが「減感作療法」というものなんだ。厚生労働省のホームページにも、“減感作療法は抗減特異的な免疫療法とも呼ばれる、花粉の抽出液の濃度を少ずつ上げ注射して、体を花粉にならすようにさせる方法”とある。これで2年間くらい治療すると60%くらいの人は治る。でも人によっては合わない場合もあるから、きちんと医師の診断を受けることが必要だよ。
ハナ子:「減感作療法」か〜。初めて聞きました!
Dr.M:君らだってタイプの男でもいきなり近づかれると嫌だろ? でもだんだん、だんだん、少しずつなら麻痺してきて嫌じゃなくなる。
スギ子:分かりやすいですね。(一同笑い)
Dr.M:そういうことなんだ。あんまり学問的に考えるよりも、人間のからだは生きていくために自然と折り合いをつけているわけだよ。その中で人間の体になじまない、毒だと思うものに対して拒否反応を起こすのが、アレルギー反応というわけだ。これがあまりにも激しくおきると“アナフラキシーショック”というものがおこったりする。自然界のことは意外と似ているんだよ。
花粉症の対策でわたしたちにできること
ハナ子:なるほど。では、よく病院に行くともらえる飲み薬や目薬は?
Dr.M:あれは花粉症の症状を緩和するのに役立つんだ。決して花粉症を治すものじゃない。もし、毎年花粉症の症状で困る人は、それが軽いうちに対策をするのがポイントといわれている。薬もそうだけど、日常的にできることは結構ある。
スギ子:マスクをしたり、家へ入る前に洋服から花粉を払ったり、といったことですか?
Dr.M:そうだね。その他にはメガネをかけて、帽子をかぶることも良いよ。花粉がつきにくい素材のコートを着ようね。あとは家に帰ったあとは顔を流水で洗うこと。そしてうがいをして鼻から入ってきた花粉を吐き出すようにしたらいいよ。これは風邪の予防にもなるからね。あと濡れ雑巾で周囲の家具を拭く、洗濯物は中干しにするといった工夫も必要だ。洗濯物でいい香りが残るという商品も出ているけど、しっかりと花粉が洗い流されるまですすぎを行うことが必要だよ。
スギ子:花粉症の対策法が見つかりました! やってみます。
ハナ子:「これをすればすぐに治る」と簡単に花粉症の治療を考えず、まずは花粉をできるだけ体内に入れないようにする方法を実践してみます。
スギ子とハナ子:ドクター・M、ありがとうございました!
注:
※1 日本語ウィキペディア 免疫タンパクIgE
※2 日本語ウィキペディア ヒスタミン
■花粉症について教えてくださったのは:
長野県のおいしい食べ方 医学チーフアドバイザー Dr.M こと 盛岡正博(もりおかまさひろ)氏 JA長野厚生連理事長 医師
参考にした書籍:
『現代免疫物語−−花粉症や移植が教える生命の不思議』岸本忠三+中嶋彰著 出版社: 講談社 ブルーバックス ISBN-10: 4062575515 ISBN-13: 978-4062575515
参考にした資料:
・厚生労働省HP「花粉症特集」
・厚生労働省HP 花粉症Q&A
・厚生労働省HP 花粉症の民間医療について
・厚生労働省HP アレルギー性鼻炎の代替医療(民間療法)
その他の参考になるサイト:
・日本語ウィキペディア 花粉症
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