オオタバコガ(左)はレタスなどに、コナガ(右)はキャベツなどのアブラナ科の植物につく。写真提供:長野県野菜花き試験場
県東部に位置する北佐久郡御代田町は、浅間山の麓に広がる高原です。レタスやキャベツなどが生産されているこの地域で、長野県やJA長野県グループ、資材メーカーが協力して、化学合成農薬に頼らない害虫防除の新しい使用方法に関する実証実験が行われています。今回は、「コナガ」と「オオタバコガ」に効果のある性フェロモン剤を使った実証実験を取材しました。
軽井沢に近い高原の町・御代田町のレタス畑
オオタバコガ成虫写真提供:長野県野菜花き試験場
「農薬=悪いもの」というイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、私たちが日々必要とする農産物の収穫量を確保し、病気を防いだり虫食いだらけでない農産物を生産するためには、適正な農薬使用が必要です。もちろん食べる人の安全は最優先に考えた上で取り扱われます。 農薬使用の難点の一つに、数年間にわたって同一農薬を連続使用すると、効果の高かった農薬でも次第に効かなくなってしまうことがあげられます。これは、害虫の「薬剤抵抗性」が発現して、同一農薬では害虫を防除することができなくなってしまうために起こります。1世代が数週間程度とサイクルの短い害虫ですと、数年で薬剤抵抗性が発達してしまうこともあります。「それなら他の農薬を使えばいいのでは?」と思われるかもしれませんが、効果の高い農薬が頻繁に開発されるとは限りません。害虫の薬剤抵抗性と化学合成農薬の開発のイタチごっこになってしまうため、今ある農薬の力を最大限生かして使い続けることが大切なのです。
コナガ成虫写真提供:長野県野菜花き試験場
農薬は散布する農家にとって、費用的にも労力的にも負担が大きいものです。そこで、持続可能な農業に対応するため、化学合成農薬だけに頼らない害虫防除技術の確立が必要となります。
さて、むずかしい話は小休止して、実験が行われるレタス畑に行ってみましょう。
害虫の性フェロモン剤を使った防除実験が行われる18.4haのレタス畑
この農業資材は、害虫の性フェロモン剤を含んだ特別なチューブを取り付けた支柱です。メスが出す性フェロモンと同様の成分をチューブから出すことで、オスがメスの居場所を特定できず、交尾ができなくなります。結果的に次世代の幼虫が増えないので害虫の数が少なくなり、農薬を散布する回数を減らすことができます。害虫を殺すのではなく、害虫が増えるのを抑える方法によって害虫から農産物を守っているんですね。この日は、実証実験として18.4haの畑に4,600本設置しました。
性フェロモンを含んだ支柱を1本1本設置していくのは大変な作業
害虫密度調査用のトラップ
実は、この農業資材は既に開発されていたのですが、支柱がトラクターなどを使った農作業の邪魔となってしまうことや、格子状に一定間隔で設置する労力が大変だったという課題が残されていました。今回の実験では、「支柱を畑の中に設置するのではなく、畑の縁に沿って設置する方法でも一定の効果が得られるか」ということがテーマです。秋の収穫の時期まで害虫密度の調査を行い、その効果を検証します。
長野県農政部農業技術課 豊嶋副主任専門技術員
長野県農政部農業技術課の豊嶋副主任専門技術員は、 「この方法が実用化されれば、虫を殺すことなく害虫を減らすことができる。農薬の散布回数を減らせるということは、害虫の薬剤抵抗性が発達しにくく、それだけ長く将来にわたって害虫から防除できるということ。農薬散布にかかわる農家の負担も軽減することができる。これらは持続可能な農業へつながるものです」 と話してくれました。
しかし、課題はまだ残っています。たとえば、畑のある環境や地形によって条件が変わるため、個別に実証実験してそれぞれの効果を検証する必要があるそうです。自然相手の実験ですから、きっと予想外の苦労がたくさんあるんでしょうね。今回の取材を通して、農業の大変さと次の世代へつなげるやりがいを感じることができました。
ピーチちゃん
関連記事
オーマイガー!やっかいな毛虫くん:編集部員のつぶやき
いのちのための土づくりを体験しよう
毎年農家が頭を悩ませている鳥獣被害とは?
世界が注目する「昆虫食」伊那市でザザムシ捕りを体験!
新着記事
北八ヶ岳の森でつくられる軽やかなビール
「農業高校生の青春チャレンジ」さらなる目標に挑む高校生に密着!
「国消国産」で長野県農業を応援!
生産者発!安曇野の夏秋いちごを味わうカフェ「Re:Make_S(リメイクス)」