造り手の「明るさ」「楽しさ」から
おいしいビールが生まれてくる!?
「ゆっくり楽しく、自分達の飲みたい酒を」
と佐藤専務(手前)
自らホップ栽培をするブルワリーは全国でもごく少数派。「なぜここまでして・・・」と、ホップを摘みながらブルワリーを取り仕切る佐藤栄吾専務にたずねてみました。返ってきた答えは、拍子抜けするほどシンプルです。
「楽しいから」
この一言に、ビールの、そしてこのブルワリーのおいしさの秘密が込められているのかもしれません。
どんなお酒でも、その造り手には必ずある種の"情熱"を感じます。ただ、ここで感じたのは、想像していたストイックで生真面目なそれと違って、陽気で、周りの人を明るくさせる開放的な情熱でした。造り手の皆さんが持っている"楽しい感じ"、これはビールの味に間違いなく影響しているだろうと思わずにはいられません。
実際、この日もブルワリーにはさまざまな人が"勝手に"集まってきてお手伝いをしていましたし、先述の台風の直後は、収穫が完了して収穫すべきホップがないにもかかわらず、たくさんの人たちがお手伝いにはせ参じたとのことです。みんなこの「楽しさ」につられて来るんですよね、きっと。
雨にあたり、一部が茶色くなってしまったホップも。見た目がいまいちでも大切に使う
摘まれたホップは、醸造所に運び込まれ、手で揉んで細かくします。ビールの性格の決め手となるホップの香りと苦みの成分は、実の芯に存在する黄色いつぶつぶ「ルプリン」に含まれています。ルプリンの効果をビールに取り込むため、この手揉み作業は欠かせない工程なのです。
苦みや香りのもととなるルプリンを揉みだす
こういったホップの下処理作業と並行して、同じ屋根の下でタンクによる"造り"も行われているのですが、佐藤専務はじめとするスタッフの皆さんは、ひとたび造りモードになると一転して引き締まった表情に。温度や量、味覚に関する単語が飛び交い、緊張感が張りつめて、ちょっと話しかけるのもはばかられる雰囲気。さすがです。
生ホップを自由に使い、
ここだけの味を醸す
さて、佐藤専務が「楽しいから」と答えた、ホップの自家栽培ですが、他にも理由があります。収穫したてのホップを生のまま使って仕込む限定ビールを造っているのです。これぞ、ホップを自家栽培しているブルワリーならではのビール! この日収穫した生ホップ版ビールが出荷されるのは10月頃になるとのこと。楽しみです。
また、栽培している5種類のホップを自由に使える点も見逃せません。例えば「信州早生」は大手メーカーなら香り付けくらいにしか使用しないところ、このブルワリーではこの品種の特性を積極的に活かした銘柄も製品化しています。こういった独創的な試みができるのも自家農園のメリットと言ってよいでしょう。
ここで自家栽培されているのはホップだけではありません。ビールの仕込みの際に出る麦芽粕を利用した自家製堆肥で、酒米「美山錦」を減農薬栽培し、純米酒のほか、「Miyama Blonde(ミヤマブロンド)」というビールも造っています。
定番の「ペールエール」「IPA」のほか、年間を通してさまざまな銘柄が登場。
自家栽培ブルーベリーや地元産アンズを原料に長期発酵、樽熟成させた「山伏」シリーズ(右)も人気
とっても生きいきと働いていた女性スタッフの松木さんは、
「たとえば料理の楽しさって、食べた人に『おいしい』って言ってもらえることですよね。それと同じような醍醐味があります。この仕事につけてよかったです」
と話してくれました。
クラフトビール造りに憧れて千葉から移住した松木さん
ブルーベリーを収穫していたのは杜氏の山本司さん
「楽しいからやる」ということを大切に、自然と共に、真剣に、そして、楽しく取り組んでいる姿が印象的なブルワリー。「こんなビールなら、飲んだ私たちも笑顔になれるよね」、そんなふうに思ったホップ収穫体験でした。(やすのり)
■参考サイト
ゆるブル(ブログ)
(株)玉村本店