片桐さんの農事録
[片桐さんの農事録]

みなみ信州発☆羊と暮らすゆきさんの農事録 第45回

ゆきさん農事録

 

こんにちは^^
ニュースで「猛残暑」と言われていた暑さも落ち着き、漸く秋の気配が濃く感じられるようになりましたね。台風に地震にと、落ち着かない毎日をお過ごしの方も多いかとは思いますが、皆様いかがお過ごしですか?

 

少しでも早く「日常」が取り戻せますように

ゆきさん農事録

 

猛威を振るった台風21号が去った直後の北海道大地震。
2015年9月の農事録で、酪農家にとって一番怖いのは「突然の停電」であると書きましたが、現実になってしまいましたね。連日、SNSや新聞紙面で見る同業者の悲痛な叫びに、本当に胸の詰まる思いなのですが、今回は特に実体験をもってその恐怖や絶望が感じられました。と言うのも、我が家も台風21号の影響で夕方4時前から日付が変わる直前まで8時間ほど停電し、漸く作業が出来たのが深夜0時半、全て終わって倒れ込むように寝たのが3時過ぎでした。

就農してから長時間停電した経験が無く、復旧作業で忙しいだろうし、迷惑になるかもと思いつつも、見渡せる市内も、数百メートル先の別の酪農家にも電気が来ている(そのせいかラジオは通常番組しか流していない)事実に、中部電力に問い合わせをせずには居られず。けれど、漸く繋がった電話で「復旧のめどはたっていません」と言われたときの絶望感たるや。
・・・とは言え、たまたまこの日は集乳日でバルククーラーの中がからっぽだったのと、もともと夜の搾乳量は朝に比べて少ないので、万が一復旧が翌朝になっても乳房炎を発症する可能性は比較的少ないだろうと思えたことが、我が家には幸運なことでした。

北海道以外はもうあまりニュースになっていませんが、西日本豪雨や台風21号で甚大な被害を受けた地域では畜産農家は勿論、沢山の農家さんが被災され、けれど再建に向けて動き出していることと思います。少しでも早く「日常」が取り戻せるよう、願っております。

 

災害対策の再確認の大切さ

ゆきさん農事録

 

で、災害対策です。
我が家は噂(?)の南海トラフ地震の際、震度6が予測されている地域です。ハザードマップに並ぶ土砂崩れの警告。故に、自宅で1週間程度は凌げる食料の蓄えを、という指導を常日頃から受けているし、家族も猫も多いので懐中電灯や食料の備蓄は完璧だったのですが、それを調理するためのカセットコンロがポンコツでした><; 信じられます? カセットコンロと、ボンベのメーカーが違くて、それぞれに「〇〇専用。〇〇以外使用しないで下さい」って書いてあるなんて!!!(笑)
冬場であれば乾電池で着火式のストーブがあるし、地震であれば外の広い安全な所で練炭コンロが使えたかもしれませんが、今回は台風です。外は暴風雨。皆さんも、用意した事実に安心しないように、きちんと使えるかどうかまで確認してくださいね!

結局この日の停電は局地的で、コンビニご飯のお世話になりましたが、広域被害があればそうはいきませんものね。我が家の防災備品を見直したいと思います。
と同時に、今回多くの酪農家さんが自家発電でなんとか搾乳だけは出来た・・・とおっしゃっていましたが、実は我が家にも自家発電装置、あるんです^^b ・・・でも、買ってから一度も使っていないし、外にあるので雷を伴った暴風雨にさらされた電線の下ではとても作業出来ず、停電が解消するのを待つしかなかったのですが、そちらも、一度正常に作動するかどうか確認しないといけませんね。

 

「北海道産を買って応援!」酪農家としての心は・・・

この夏は猛暑の乳量減から始まり地震にと、酪農の事が消費者の皆さんの目に留まることが多いように感じます。ネットニュースで取りあげられる記事にも酪農家の現状が丁寧に書かれていて、寄せられるコメントには、水がなければ牛に搾った牛乳を飲ませたらどうか、飲料向けが無理ならバターやヨーグルトにすればいい的な、ちょっと的外れながら(失礼)、一生懸命考えて下さっているのだろうな、と思えるものも沢山ありました。
時折農事録でも書いてきましたが、食と生産の現場が離れたことにより、交わることの少なかった世界を気にしてくださる方が多くなったのは、それが例え一時的だとしても、嬉しいことだなぁと感じます。

ゆきさん農事録

 

そして、「買って応援・食べて応援」大賛成ではあるのですが、「これからは北海道産を買って応援します!」と締めくくられていて、それだけはちょっと複雑な気分です。なぜなら、乳製品に限らず、すべての農畜産物は日本中で生産されているからです。そして、先にも書きましたが、今年は日本各地の農家さんが被災され、けれど再建に向け懸命に努力していることと思います。
例えば牛乳ですが、同じ陳列棚に各都道府県で生産された牛乳が並んでいますよね。私の身近でも、よく買うところで栃木や埼玉産の牛乳パックがあります。殆どの農畜産物は、どこか1つのルートがダメになっても、流通が滞らないように分散されているのが現状です。
広大な土地を持つ北海道産が占めるシェアは大きいですが、それでも、有事の際に移動距離の少ない地元産・近隣の農畜産物は無くす・失うわけにはいかない貴重な存在です。個人の好みや値段の問題などもあるかとも思いますが、どうか皆さん、身近な所にいつもある商品も、同じように大切にしてくださいね。

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2018暑熱対策日記

所で。今月本当に書きたかったのは、この夏頑張った暑熱対策の事なんです。既に通常のひと月分書いていて文字がびっしりで長いのですが、もう少しお付き合いください^^*

牛もーが暑さに弱く寒さには比較的強い生き物だというのは、ちょいちょい書いてきたので皆さんもうご存知ですよね。今年は桜の季節から気温上昇が激しく、今まで木陰を作ってくれていた2本の大木を伐採することも決まっていたので、5月から暑熱対策に取り組みました。

まずは、重曹の給餌です。
暑くなると食欲が落ちるのは人間と全く同じなのですが、それでは夏場の乳質が維持出来ないため、1日1回動物用の重曹粉末を給餌。発酵槽である第一胃のphを保ち、食欲低下を防ぐと共に、アルコール不安定乳の予防もします。

次に、今年は夏場に初めて赤ちゃんを生む新人さんが4頭、育成牛舎から搾乳牛舎へと移動してくることが決まっていたので、7月の頭までに足に不安を抱える牛もーを中心に、早めに廃用牛(計画的に太らせているので、お肉としても値段が高く売れます)として出荷。ここ数年、暑さで弱り立てなくなった牛もーのケアをしていて、自分たちが腰を痛めるということが多かったので(2016年9月の農事録)、経産牛の不安要素をなくすと同時に、育成牛舎の密飼を解消しておきました。

また、通常お産前にお乳を搾らずに牛もーを休ませる乾乳期間は2か月なのですが、暑い時期に搾乳量の少なくなってきた子に手をかけるのは、単純に人間が大変だろうという理由で潔く乾乳にし、平均42~46頭搾乳しているのを35~36頭まで減らし、搾乳している子に特に目が行き届くようにしました^^

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これらを早めに取り組もうと思ったのは、春先、昨年の夏に再会した、フィード・ワン株式会社に勤めている大学同期が、面白い商品を勧めてきたからなんです。

写真は、そのアイスペレット。
暑熱対策専用の飼料で、細胞レベルで水分を失うことを防ぐ、というものでした。近隣の農家さんではまだあまり使われておらず、正直半信半疑でしたが(笑) その段階で木の伐採が決まっていて、なんとかしなければ・・・と思っていたため、試しに使ってみることに。
アイスは1頭150g/日、2週間ほどで体に馴染む製品だと説明があり、今年は6月23日から給餌を開始。7月12、13日頃から30℃を超え始めたので、そこだけはギリギリ間に合った感じですね。

そして迎えた猛暑。1日1回だったビタミンペレットと重曹の給餌を朝夕2回に増やしました。7月後半になって、搾乳頭数は我が家では最も少ない35頭でしたが、意外なことに乳量は42頭搾っている頃と殆ど変化がありませんでした(数値を書くと収入が一目瞭然なので(笑)失礼しますね)。乳量に変化がないということは、少ない頭数のうち、特に頑張ってくれている牛もーが何頭かいる、ということです^^* 

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そこで利用したのが、ビタミンを買っている日本全薬の方が営業に来た「クールダー」という、水に浸してから首にまくと、体温を下げる効果があるというもの。人間でも同じような効果を発揮する商品が沢山ありますよね! 農業製品は基本的にいつもお高くて農事録でも嘆いているのですが(笑)、これはなんと1つ2,500円!
ただ、どんなに安くても、もしかしたら牛もーが首にまかれるのを嫌がるかも・・・とか、付けてる本人じゃなく、隣の子がちょっかいを出して首が締まったり、すぐにダメにしてしまうかも・・・という不安で、まずは4個買って試しましたが、誰も嫌がらないしちょっかいも出さないことがわかり、翌日4個追加注文しました^^*

ついでに、色んな人に勧めまくりました!(笑) なぜなら、小型扇風機と合わせて利用すると、7月11日にお産をし、直後に暑くなって体力の回復が遅れていた子や、日量40リットル近くお乳を出し、弱りから呼吸が荒くなっていた牛もーの回復具合が顕著だったからです。我が家の辺りでは夕立も来ず、35℃を超える日が20日間ほど続き、その間牛舎内は毎日37~38℃で息の詰まるような暑さになってしまい、夜の気温も27℃を下回る日は殆どありませんでした(牛もーが快適と感じる気温は5~25℃です)。熱帯夜なんてひと夏に2、3日あれば今年は暑かったね~と話題になるレベルだったのに、文字通り、暇さえあれば牛舎周りに水を撒いては打ち水効果を期待しましたが、やはり一時的で雑草を元気にした程度です><;

そんな中でも9月半ばに差し掛かる今日まで、食欲が落ちず、乳量の変化がほぼなかったのは(残念ながら乳質だけは最良をキープ出来ずに頂ける奨励金の額がちょっと減ってしまいましたが)、早くから取り組んだ暑熱対策のお陰かな、と思っています。
さらに、この夏一番乳量を出していた4月30日お産の子が、9月に入って発情が来て人工授精が出来たことも、猛暑のダメージが少なかったのかな? と、夏の間の努力が報われた気分です^///^*

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とは言え、100%完璧だったわけではなく、猛暑のピークでお産をした子が直後に40℃を超える熱で立てなくなり、数日で緊急出荷を余儀なくされました。熱が高いままではと畜場(牛もーをお肉にしてくれるところです)では受け入れてくれないので、解熱剤と濡れたバスタオルと扇風機で体温を下げるようにし、なんとか受け入れて貰えましたが、それに関しては、まだまだ課題が残ったというところです。

ちなみに、牛の熱中症ではホースで直接水をかけるのが効果的と言われていますが、状況や場所によっては6月農事録の大惨事のような事になってしまうので><; 濡れたバスタオルと扇風機が効果的です(同じくそれで回復できた子も今年居たので)、と付け加えておきます^^

どれか1つがすごく効果があったわけでなく、おそらく色々併用した結果、今年は比較的順調に猛烈な暑さを乗り越えることが出来たのだと思いますが、大学同期のために一言。昨年までと特に大きく変わっていたのは、確かにアイスペレットです。我が家では来年の夏もお世話になろうと思っていますが、同業者の方は参考までに^^*

 

秋の味覚を楽しみましょう^皿^b

さて、本当に長くなりましたね!(笑)
台風以降すっきりしないお天気が続いていますが、今までカラッカラに干からびていたので全然悲しくありません(笑) そして、9月後半から10月にかけて、昨年は11月だったベビーラッシュが来ます><; 今年の1年で最も忙しいかもしれない、なんとその数11頭・・・! 親戚のブドウ園のお手伝いもあるし、呑気にバテてもいられません(笑) 地域の産直にもスーパーにも、秋の味覚、沢山並び始めましたよね? 旬の味覚をしっかり味わって、皆さんも暑かった夏の代わりに活動的な秋にしましょう^皿^b

では、また♪

ゆきさん農事録

 

 

この記事を書いた人

片桐由貴さん

伊那谷をまっすぐ南に向かって流れる天竜川流域の牛舎で、仕事と趣味、どちらも楽しむという片桐由貴さん。大学卒業後「やっぱり牛が好き!」と、家族の営む酪農に就農して12年。80頭ほどの牛たちと、ペットの羊2匹、猫5匹と過ごす日々を綴ります。

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