大樹の農事録
[大樹の農事録]

大樹の、安曇野うまい米づくり農事録 第16回

北アルプスをのぞむ安曇野市は、1等米比率日本トップクラスの長野県を支える米どころ。25歳でお米農家を継いだ安田大樹さんは、おいしいお米を作り続けることが「ふるさと安曇野の景観を守り、地域を楽しくしていくことにつながる」と考えました。

日を追うごとに日が短くなってまいりました。
庭のキンモクセイの香りが秋の訪れを告げています。
私が一番好きな季節「秋」。皆様はいかがお過ごしでしょうか。

安田さん農事録

 

9月頭。東山には夏雲を残しつつも、上空は秋の雲。下を見れば収穫を待つ稲がこうべを垂れています。

 

収穫の秋

早朝。7月の長雨と8月の高温を耐え抜いた稲は、寒露を抱いてキラキラと輝いています。

安田さん農事録

 

例年、絶対に何かしらの試練が与えられ、私たちはそれらを技術と経験と土地の強さに助けられながら乗り越えます。その為、やはり数ある農作業の中でも「収穫」というのは感慨深いものがあります。
最初の田んぼ一枚を刈ると何となーく今年の稲の様子が分かります。
今年の感想→「あれ? 量が少ない?」「いつもだったら田んぼのここら辺でコンバインの満量センサーが鳴るのに、今年は鳴らないぞ??」

安田さん農事録

 

稲の立ち姿としては綺麗な良い米が取れそうに見えましたが、どうやら茎数と穂長が物足りない様子。オペレーターの感覚的には「ドゴドゴドゴ」じゃなく「シャカシャカシャカ」と抵抗なく刈れてしまう感じ。

安田さん農事録

 

安田さん農事録

 

コンバインに溜められた籾はダンプカーへ排出され乾燥調製施設に運び込まれます。
日を追うごとに何百枚とある水田から着実に稲が刈り取られていきます。安曇野の景色が変わる瞬間です。
9月は天候に恵まれ、最後まで焦ることなく収穫を進めることができました。

 

今年の稲作管理の答え合わせ

昨年の記事にも載せましたが、ここから先は乾燥調製施設での作業に入ります。

安田さん農事録

 

まだ水分が20%以上ある生籾は14.5%まで乾燥機で乾燥させます。これは貯蔵中のカビの防止の為です。15%くらいの高水分の方が食味が良い、というデータもありますが、水分が15%を超えると保存状態によってはカビが発生してしまいます。逆に13%以下にしてしまうと、食味が下がったり、お米が割れてしまったりといった弊害が出てきます。食味も保ちつつ保管に適した水分というのが14%~15%というわけですね。
意外とシビアな世界。刈り始めのお米は乾燥後しばらくすると水分値が上がるといったこともあるので、そこは経験と過去のデータを頼りに、出荷時にしっかりと規定内の水分になるように仕上げます。
乾燥には約一晩かかります。

安田さん農事録

 

翌日太陽が昇る頃、白い息を吐きながら作業場へ向かい、昨日収穫した分の稲の乾燥状態を確認します。

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手前にあるのが穀物水分計です。5台ある乾燥機からサンプルを取り出し水分を測ります。
この時まだ水分が多ければ、仕上げ乾燥をして籾摺り作業に移ります。とにかく乾燥を仕上げて乾燥機から外に籾を出さないことには次の収穫作業が出来ないので、乾燥を一発で仕上げるのは非常に大事なことです。

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その後は、

粗選機(大きなごみを取り除く)
 ↓
籾摺り機(籾を取り玄米の状態にする)
 ↓
ライスグレーダー(製品にならない小さな粒を取り除く)
 ↓
石抜き機(石を取り除く)
 ↓
色彩選別機(異物や着色粒を取り除く)
 ↓
計量器(重さを計り袋に詰める)
 ↓
出荷

といった流れで、なんやかんやありまして綺麗な玄米だけの状態になります。

安田さん農事録

 

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これが出荷時の玄米の姿。当然ですが、所定の大きさ以上で異物がない状態です。

この結果だけ見れば「量は少なかったけど今年も良いお米が取れたわ」で終わってしまいます。しかし、生産者として本当に大事なのは、調整ラインではじかれた製品にならなかったお米の内容なんです。

グレーダーから出た屑米の量と内容、色彩選別機から出た着色粒の量と内容を見ることで、今年の稲がどのように育ってきたかが見て取れます。それはつまり、今年の水稲管理が上手くいっていたかどうかの答え合わせでもあります。
さて、そこから見て取れた今年のお米ですが、まず「カメムシの被害粒が例年より多い」。これは8月の高温によるところも大きいし、うちが殺虫剤の使用に消極的なこともあるのでしかたないところもあります。
でも、今年はトンボやイナゴが例年よりかなり少なかったように感じるんですよね。トンボは特になんですけど、トンボが少ないこととカメムシが多いことは少なからず因果関係があるように感じました。
次に8月の高温で心配された高温障害(未熟米や胴割れ)は、コシヒカリではほとんど無かったのですが、早生品種のもち米や酒米には目立ちました。もち米や酒米はコシヒカリの作り方とは異なる部分が多くあります。被害が大きかった要因は、穂肥のタイミングで日照量が極端に少なく、肥料を籾に蓄えることが難しかったことと、中干しが出来なかったため、根の健康を最後まで保てなかったことだと思います。来年の早生品種の肥料設計と排水対策は改善が必要ですね。
うるち米で昨年多く見られたシラタ(未熟米)が少なかったのは、根の張りを良くする資材を入れたことと、高温時にきちんと地温を下げるような水管理ができていたからでしょう。稲に限らず、これからは高温障害にいかに対応していくかがポイントですね。

被害粒から読み取れることはまだまだ沢山あって、細かいことを挙げれば切りがないのですが、こんな感じで籾摺り作業をしながら来年の栽培計画を修正していくのです。ダメだったことは来年の反省になります。しかし良かった場合、なぜ良かったのかを考えることも大事。毎年同じはだめ! ずーっと試行錯誤の連続です。

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今シーズンのラストラン!! 9月28日にトラブルもなく無事稲刈り終了です!

 

掃除までが稲刈り仕事

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稲刈りが終わったらすぐに機械の掃除です。コンバインの開くところは全部開き、溜まったホコリと泥を落とします。毎日洗車はしていますが、シーズン終わりの掃除は徹底的に行います!
この場の勢いで、どれだけ綺麗にしておけるかが冬の機械整備の効率を左右します。コンプレッサーで飛ばせるホコリは全部飛ばし、足回りの泥はボルトが回せるように丁寧に水洗い。
作業場の機械も中から外まで米粒が残らないように綺麗にします。
しっかり働いてくれたもんな。お疲れ様。みんな冬場にしっかり整備してやるからな。

安田さん農事録

 

稲刈り後の田んぼからは、風に乗って藁の香り。
収穫シーズンに入り、この匂いを感じたときが一番「稲刈りの時期だなー」と思う瞬間かもしれません。
夕暮れ時の犬の散歩では、まだ青い藁の香りが漂い、「リーン。リーン。」とコオロギの鳴き声が聞こえてきます。
日が落ちると急に冷たくなる秋の空気を感じながら家に帰りほっと一息。夕飯の匂いと子供の騒ぐ声に幸せを感じます。

朝のキンモクセイの香り、稲刈り後の田んぼの匂い、黄昏時の虫の声など、匂いや音でも秋を感じることができます。今年はマスクばかりで嗅覚を極端に制限された生活を送っていますが、近くに誰もいなければ外を散歩するときくらいマスクを外して思いっきり深呼吸をしたいものです。ひんやりと澄んだ秋の空気が胸いっぱいに入ってくるのが分かりますよ。

家に入っても寒さが身体に残るようになってきました。
おや、こりゃそろそろ熱燗や焼酎お湯割りの季節の到来ですな。

 

幸せの秋

さてさて、そんなわけで今年も新米は美味しく仕上がりました。稲刈り終了祝いは、新米と採れたての栗を使った栗ご飯&信州プレミアム牛肉A5ランクのすき焼き(野菜も当然信州産)です。
デザートは農家仲間から貰った梨やブドウ、プルーン等々。自粛の中でもしっかり贅沢させて頂きました。
これから信州は美味しいもので溢れかえりますよー。

安田さん農事録

 

ブドウとリンゴの合わせ技ができるのも今の時期の贅沢です。更に、リンゴひとつを見てもフジ、シナノゴールド、秋映、ピンクレディー等、驚くほど沢山の品種があります。ブドウや梨や桃も然り。だから長野県の人はリンゴを「リンゴ」と呼ばず、「つがる」や「ゴールド」というように品種名で呼びます。
「長野県の人は果物を品種名で呼ぶ」というのはあるあるですね。時期に合わせて食べ比べができるのも楽しいし、品種毎の味の違いを、ジュースやジャムやお酒といった加工品で確かめてみるのもいいですね。
皆さんも、是非色々な種類の果物を食べ比べて、自分のお気に入りを見つけてみてはいかがでしょうか。

私も皆さんに美味しいお米や大豆を届けられるようにこれからも頑張ります。
ではまた次回!

この記事を書いた人

安田大樹さん

北アルプスをのぞむ安曇野市は、1等米比率日本トップクラスの長野県を支える米どころ。25歳でお米農家を継いだ安田大樹さんは、おいしいお米を作り続けることが「ふるさと安曇野の景観を守り、地域を楽しくしていくことにつながる」と考えました。

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