大樹の農事録
[大樹の農事録]

大樹の、安曇野うまい米づくり農事録 第15回

北アルプスをのぞむ安曇野市は、1等米比率日本トップクラスの長野県を支える米どころ。25歳でお米農家を継いだ安田大樹さんは、おいしいお米を作り続けることが「ふるさと安曇野の景観を守り、地域を楽しくしていくことにつながる」と考えました。

こんにちは、ひろきです。
残暑が続く安曇野ですが、皆さん体調は大丈夫でしょうか?

安田さん農事録

 

「わしゃ畑で死ねれば本望な。」

これは熱中症で病院に運ばれた伊那のばあちゃんが放った一言です。じいちゃんに先立たれ、8月の殺人的な暑さの中1人で畑に出て、倒れているころを救急車で運ばれました。
本人にとっては本望でも、近くで面倒を見ているおばちゃんは、たまったもんじゃありません。

どうもばあちゃんは動いていないと落ち着かないらしい。そんなご老人は近所に数えきれない程いるわけですが、 改めて、ばあちゃん含め近所のご老人方が、何でそこまで一生懸命働くのか自分なりに考えてみました。

仕事には「遣り甲斐」という言葉があります。それを感じるのは人それぞれで、お客様からの感謝の言葉であったり、収入であったり、達成感であったり。また、収入があっても遣り甲斐がないと今の仕事に不満を持ったりするわけで。人が仕事をするときに何を求めて満足するかは千差万別です。
私が仕事に当たるときに遣り甲斐を感じるのは、周りの人たちからの感謝の言葉や、安曇野の素晴らしい自然環境と景観資源を担っているという使命感等々。そのためなら多少の無理は利くし頑張る意欲も出ます。でも倒れるまでやろうとは思わないし、仕事と同じくらい自分の家族との時間も大切にしたいと考えています。

では伊那のばあちゃんはどうなのか。特に収入になるわけでもないのに、倒れるまで畑仕事をやる理由は何なのか?

しばらく考えて出した答えがこれ。
まず、畑仕事=仕事ではない。誰かのために働くのではなく、自分のために働いている! 昔は「やらなければいけないこと」がいつしか「やらなければいられないこと」になり、それは誰かが止めようにもやめられない程に、日々の生活の張り合いになっているのではないか。

そう! まさに「生き甲斐」という言葉がしっくりくるのです。

もはや「遣り甲斐」の数段上をいっているわけ。
「これがわしの生き甲斐な。」って言われたら、もう止める言葉なんて思いつきません。

「わしゃ畑で死ねれば本望な。」

安田さん農事録

 

その言葉の中に、「畑で死ぬ覚悟」とかそういう次元じゃなく、「いつものように畑で生きる幸せ」という深みを感じました。

そして、すっかり元気になっておそらく今日も畑に出ているばあちゃん。ひ孫はまだまだ増えるよ! 孫、ひ孫の顔を見るのも生き甲斐にして長生きしておくれ。

 

極端気象

さて、農作業の方はといいますと、このところ作物には「平年並み」という言葉が使えなくなってきました。
「異常気象」もさることながら「極端気象」と言うような気候が例年続いています。降るとなればとことん降るし、晴れればとことん晴れるし。平年通りの極端気象です。

安田さん農事録

 

見ての通りの極端具合。全国で梅雨明けを祈られた神様の頑張りでしょうか。
こちらは梅雨が明けたら雨はしばらく降らないだろうと、干ばつ対策はバッチリとしておきました。案の定8月の水不足で大豆は湿害の後の干ばつ被害により葉がひっくり返り始めました。初期段階で水が多過ぎると根は深く張りません。その後に干ばつと来たもんだから、深いところの水が吸えずにいつも以上に大豆は大変です。週間天気予報の雨は当てにせず、手遅れになる前に早い段階から水をかけ始めました。おかげでうちの大豆は何とか順調に生育出来ています。

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順調に成長した大豆は開花前に生長点を切り取ります(摘芯)。これにより倒伏防止と収量アップの効果が得られるのです。暑い中の作業はかなり大変ですが。。。

雨を期待して潅水をしなかった生産者さんは干ばつで葉が枯れあがり大変なことになっています。
これも経験ですね。自然相手の職業は経験がものをいうと言いますが、本当にその通り。教科書で知識ばかりため込んでもその通りにはいきません。その土地の気候や地質、標高や品種の相性など、数えきれない程の要因が重なって一つの作物が作られるのです。例えば私が九州でお米を作っても、こちらと同じ作り方では良いお米はできないでしょう。だからこそ、その地域の特産があったり、味の違いが出るのでしょうね。本当に農業は奥が深くて面白いです。

 

夏休みを全力で

コロナ禍での夏休み。どこにも行けないし、親戚も来ない。お盆で来るのはご先祖様だけ!
さて、どうしたものかと考えていた矢先、犬の散歩中に娘が言った「田んぼでキャンプがしたい!」の一言から始まったのがお家キャンプです。

安田さん農事録

 

家の裏側にテントとタープを設置して、疑似キャンプを楽しみました。
朝の仕事は火をおこすところからスタート。炊飯器ではなくステンレスクッカーを使ってご飯を炊きます。
最初はまともに火も点けられず一苦労。親が手を出し口を出しご飯を作ります(-_-;)

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朝から外ご飯は清々しく、コーヒーが何倍も美味しく感じられました。

昼は焼きそばを軽く食べテントで昼寝。

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夜はキャンプのメインディッシュ! カレーを作ります。
親はなるべく手出しせず、子供に作業を任せます。

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やれば結構できるもの。蓋を開けたカレーと白米は十分美味しそうな仕上がり♪

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夕暮れ。頑張ってつくったカレーの実食の時。ん~、甘口の中にも直火の匂いが感じられる野性味溢れるテイスト。何故外で食べるカレーはこんなにも美味しいのでしょうか。
つまみは娘が作った採れたて夏野菜スティック。カレーで熱くなった口に、ひんやりとしたキュウリは最高です。冷えたビールが進む進む!!

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そうして家の隣で非日常な夜が更けていくのです。いつもよりゆっくりと楽しむ夕食の時間。

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この日のデザートは桃。ウィスキーをチビっと飲み、安曇野の澄んだ空気を大きく吸ってフゥーーと吐き出します。
「ウィスキーの安曇野の風割り。」贅沢な味わいです。
蚊さえいなければずっとこうして外にいたい。蚊さえいなければ!!

そんな感じでお家キャンプにハマった我が家は、こんな生活を一週間連続で続けましたとさ。
一番驚いたのは2年生の長男が毎晩テントで寝たこと。男としてまた一つ大きくなれたかな。

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親戚が集まらない分人数は少なめでしたが、近所の人たちと恒例の流しそうめん&BBQも行い、夜はお庭花火を楽しみました。恒例行事とはいっても、子供は日々成長していくわけで、だんだんとほっておいても勝手に遊ぶようになってきたので、親は座ってお酒を楽しめる時間も増えてきました。
子供の成長をつまみに親は酒を飲むのです。感慨深いものですね。
来年は準備からやってもらいましょう。

 

「非密」の安曇野

夏にどこも行けずに考えることは皆一緒で、近くの泳げる川や公園は家族連れで賑わっておりました。
そういうスポットは大抵駐車場が少ないんです。午前中ミニバスの練習をしてから行ったのでは遅いんですよね。
そんな時はネットには載っていない秘密のスポットへ。

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幹線道路からちょっと入っただけで意外と誰もいないもんです。こういう自分だけの秘密のスポットは、たぶんここら辺の人たちは誰でも1つは持っていることでしょう。蛍が出る川とか、カブトムシが捕れる木とかね。自然が豊かだからこそ知られざるスポットは沢山あります。観光地であっても地元の人しか知らない秘密の場所があってもいいと思います。それが田舎の特権で贅沢なところ。

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常念岳の登山道に通じる道中には素晴らしい散策スポットも沢山あります。山を歩けばもれなく猿も見れます。子供が遊べるところといえば限られますが、密を避けて日々の喧騒から抜け出したい大人は十分に楽しめるでしょう。
晴れた日にはお気に入りの本とワインを持って、自分だけの秘密の「非密スポット」でのんびり過ごすのもいいですね。
小鳥の囀りをBGMに、木陰で読書しながら、サンドイッチと冷えた白ワインを飲んで過ごす休日なんていかがでしょうか。

そんなこんなで結局は子供と一緒に遊び続けて身体は一向に休まらずに過ぎていった夏休み。
コロナ禍だからこそ、地元の良さを沢山発見できました!
お盆最終日には流石に子供も遊び疲れた様子。お昼ご飯の途中で電池が切れました。

安田さん農事録

 

疲れたよなー。この後お布団に運んで行って私も一緒に寝ました。
水の音と、たまにサーーっと通る風が心地いいんです。

田舎暮らしに興味を持たれている方が多いということで、今回は農作業というよりは暮らしをメインに記事にしてみました。本当はもっとご紹介したいことがあるのですが、日毎の記事になりそうなレベルなのでこの辺で。田舎も都会も一長一短ですが、「田園産業都市」安曇野は良い具合にバランスが取れていると感じます。
田舎暮らしを検討している方の候補地に、是非安曇野はいかがでしょうか。空き家を活用した移住の取り組みなどもありますよ。

さて、9月はいよいよ稲刈りです。7月の日照不足でちょっと丈が長いのが心配ですが大丈夫でしょう。あまり大きな台風が来ないことを祈ります。

今年も美味しい安曇野の新米を期待してください! それではまた。

この記事を書いた人

安田大樹さん

北アルプスをのぞむ安曇野市は、1等米比率日本トップクラスの長野県を支える米どころ。25歳でお米農家を継いだ安田大樹さんは、おいしいお米を作り続けることが「ふるさと安曇野の景観を守り、地域を楽しくしていくことにつながる」と考えました。

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