中川さんの農事録
[中川さんの農事録]

おいしいブドウができるまでの農事録 第5回

連載※長野県松本市の東部高原で各種のブドウを生産する果実農家の中川 敦さん(47歳)が、月々の農事を綴ります。

kiji.gifなさん
こんにちは。

5月です。4月末にぶどうの芽が発芽して、日ごとに大きくなってきました。今年は去年と比べて冬が寒かった分、生育も遅れ気味だと思っていたのですが、3月、4月が平年よりずいぶん暖かかったし、4月に雨がずいぶん降って、木がたっぷり水分を吸って、内部水圧がよく高まったおかげで、発芽日は去年とほとんど同じでした。5月に入ってからもそこそこの高温が続いているので、毎日もう目が離せません。

デラウェア園にキジがいました。鳴き声はほとんど毎日あちこちから聞こえるのですが、間近で見るのははじめてです。思わずズームでシャッターをきりました。

grape1.gifさあて、今回は発芽からの様子をデジカメにしっかり撮りだめしておきましたので、以下に紹介しますね。


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月1日のデラウェア。すでに葉っぱが開きかけています。厳しい冬の長い眠りから覚めて、いよいよ木が動きだしました。発芽などはごくごくあたりまえのことなのですが、園主としてはとてもうれしいシーンです。


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こちらは巨峰。同じ5月1日です。
5月の初仕事は、デラウェアの「芽かき」です。


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枝から全部で5つの芽が出ているのがわかりますか? このうち先端から2番目と4番目の芽を、指でかき取って、3つの芽を残しました。


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(1回目芽かき後)こんな感じになりました。


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5日後。5月6日。日ごとに大きくなっていく新梢からツボミが見えてきました。これがぶどうの房の原型なんですよ。


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翌5月7日。2回目の芽かき作業です。枝からは本芽と副芽のふたつの芽が出てきます。副芽は不要なので、これも指でかき取ります。


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(2回目芽かき後)スッキリしました。

なぜこのようなことをするのか?

の芽かき作業は、発芽からの新梢管理の第1歩であって、ぶどうの生育初期の管理の中で「最も重要な作業」です。

芽かきには2つの目的があります。まず、芽かきをしないで全ての新梢を伸ばすと、そのうち棚面が葉っぱで真っ暗になってしまいます。地面に雑草も生えないほどに。

また全ての新梢にめいっぱい房をならせると着色しない、糖度が上がらない、おいしくない房しかできません。それに木が疲れてしまって弱ってしまいます。

適正な着果量を確保するための適正な新梢数というのがあるので、その数に近くなるように新梢数を調整するわけです。私の場合、1坪あたり新梢30本を上限にしています。

もうひとつは、樹勢の調整です。新梢が数本あるとすれば、先端にいくほど勢力が強く、基部になるほど勢力が弱いという特性がぶどうの木にはあります。

これをほったらかしにしておくと、先端の新梢ばかり伸びて基部の新梢があまり伸びないという現象を引き起こします。「全ての新梢の勢力を同じにすること」が、これから夏までの一連の作業の中で大事なポイントとなってくるので、そのために強い芽をかいてかわりに中庸な芽や弱い芽を強くしてあげます。弱すぎる芽もかきます。

簡単そうに見えてこれが実はプロの技です。私はまだまだですが。芽かきは、1本1本の木の状態、着果量や樹形などをこうもっていきたいという園主の意思や思想、気温や降水量などその年その時の気象条件等によって前提条件が変わってくるので、その感度が自分にしかわからない、けっこうデリケートな作業です。だから芽かきは様子を見ながら、何回かに分けて実施します。


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れはその2日後、5月9日の巨峰です。巨峰も芽かきをはじめました。デラウェアと違って本芽のほかに副芽が2つもついています。


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これを指でかき取って、はいスッキリ。


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ほーらこんな蕾も見えてきました。巨峰の房の原型です。神秘的ですねぇ・・・。

ころで、デラウェアの芽かき作業の結果はどうなったでしょうか。5月13日です。


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勢力がきれいに揃った新梢たち。今の時期の理想の形です。上手な芽かきができた証です。


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ところがこんなのもあります。勢力が全く揃っていない4本の新梢。こうなってしまったらどうしようもありません。もうお手上げ! まだまだ技術不足経験不足です。

て、芽かきの次は「摘房(テキボウ)」、「肩切り」の作業です。1本の新梢にはだいたい4つくらいの蕾がついているのですが、このうち最終的に房を作るのはふたつです。だから使わない2つの蕾を爪でかき取ります(摘房)。


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また、房を作る蕾には必ず肩がついています。これを爪でかき取ります。これが[肩切り]です。


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肩切り後の写真。この時期、蕾の長さはまだ2センチ前後。摘房、肩切りはとにかくひたすら細かい根気のいる仕事です。木の大きさにもよりますが、木1本仕上げるのに2時間くらいかかります。私の場合、3つのデラウェア園あわせて24,000房くらいの予定なので、それだけの数をこなさないといけません。

週からはデラウェア栽培のハイライト、1回目のジベレリン処理がはじまります。今年の出来不出来を左右するまさに「勝負!」の時がきます。

1ヶ月後にお会いする時は、かわいいデラ姫たち、驚くほど大きくなっていますよ。どうか楽しみにしていてください。

この記事を書いた人

長野県松本市の東部高原で各種のブドウを生産する果実農家の中川 敦さん(47歳)が、月々の農事を綴ります。

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