「そば」と言えば「信州」
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信州と言えば誰もが「そば」と応えるぐらい、そば好きの聖地としてその名を天下に轟かせている長野県ですが、数字のうえで見てみると平成16年産のソバの作付け面積は2650ヘクタール、収穫量は1960トンです。昭和50年頃には信州産ソバも、総生産量が518トンまで落ち込みましたが、お米の転作作物として、作付けはここ10年間で増加していますし、また、遊休農地を活かしてソバをつくり、地元で食べたり地域振興の柱にする運動も、各地で盛んになりつつあります。そこで、今回は日本国中のそばフリークのために「産地発おらが自慢のソバ」を特集でお届けすることにしました。なおこの特集においては作物のソバをあらわす場合はカタカナで、粉にして麺で食するそばをあらわすときには平仮名で表記しています。
長野県内ソバの市町村別収穫量ベスト10
- 伊那市(130t)
- 信濃町(117t)
- 松本市(113t)
- 富士見町(92t)
- 大町市(90t)
- 駒ヶ根市(65t)
- 穂高町(65t)
- 立科町(60t)
- 開田村(55t)
- 戸隠村(52t)
ソバの花は白い花
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信州そばとしてつとに有名な地域は、長野県内各地に点々とあります。北信地方では今年1月に長野市と合併した戸隠と鬼無里、上水内郡信濃町、飯山市富倉、更級そばで有名な千曲市など。中信地方では、北安曇郡美麻村と八坂村、信州新町の左右(そう)地区、東筑摩郡波田町や朝日村、山形村、塩尻市、木曽郡開田村など。南信地方では上伊那郡高遠町、下伊那郡上村、諏訪郡富士見町など。ほかにも、最近ソバ作りが盛んになっている東信地方の長門町、武石村、和田村などもあり、そばを中心に地域を元気づけようとしている地域がたくさんあります。それでは県内各地のJAの広報担当者の協力を得て、産地の思いがたっぷりつまったうまいソバの情報をいくつかご紹介しましょう。
殿様の献上品 高遠そば
上伊那郡高遠町では、江戸の昔から伝わる高遠そばを通じて、地域の活性化をはかろうと、高遠そば組合が主催で「究極の高遠そば研究会」が昨年11月に開かれました。参加者は辛味大根のおろし汁や焼き味噌などを使った6種類のつゆで食べくらべ、地元住民や観光客に喜ばれる食べ方を徹底的に検討しました。
高遠そばは辛味大根のおろしとネギ、焼き味噌を使った「辛つゆ」で食べる独特のものです。名君とうたわれる高遠藩主、保科正之公が国替えにより福島県会津に伝え、現在も高遠そばと呼ばれて親しまれています。今年に入り2月27日には第1回高遠冬のそば祭りが開催され、町内外から多くの人たちが訪れて、打ちたての高遠そばに舌鼓を打ちました。祭りでは製粉機の実演やそば粉、そば道具などをはじめ、手作り味噌やおやき、そば汁粉、地元三義産の美山錦で作った甘酒など地域の味も人気を呼び、また全国麺類文化地域間交流推進協議会(全麺協)による「素人そば打ち段位認定試験」も開かれました。同町の高遠城址公園は全国に桜の名所として知られ、多くの観光客が訪れますが、この4月の観桜期に合わせて「高遠そば村」を開設するそうで今から楽しみです。
5年前に農業振興のためソバの生産を始めた南佐久郡南相木村。そば生産組合を組織して、野菜作の後に種をバラ蒔きで作付け、収穫は同村が購入して組合に貸与している専用のコンバインで刈り取ります。海抜が1000メートルを越える高原の畑で生産するため、昼夜の寒暖差のせいで、実のしまった香りの高いソバができます。
同組合の製粉施設には保冷庫もあり、ソバは実のまま保存されており、石臼で挽かれたものが、隣接する南相木温泉滝見の湯で「相木そば」として食べることができるのです。これが口コミで評判となり、わざわざ東京からそばを食べに来る人もいるとのこと。南相木村の隣りは昔からから優秀なソバの産地として知られる川上村。こちらには「霧下そば」という、標高の高い産地独特の呼び名があります。「霧下そば」は、信濃町や戸隠のソバでも使われる呼び名で、県外の有名なお蕎麦屋さんからも注文を受けている、コシと香りが特徴の川上村のソバです。千曲川(信濃川)の源流の気候が、良質のソバの生産に適し、生産量がまだ少なくて、せっかくの注文の量に応じきれないという嬉しい悲鳴も聞こえてきます。
- 東信州活性化サイト「あさま日より」南相木村滝見の湯のページ。
- 林業センター「森の交流館」の2階にある村営の食堂「樹木里」では地元川上産のそば粉を使用。
- 川上村の「善慶庵」は、奥方がそば打ちの名人で、川上産のそば粉をガラスの向こうで打つところが見れますよ。
- 南牧村野辺山の「ふるさと」で、川上村在住のオーナーが知り合いの生産者から買った玄ソバを打つ「川上そば」は1日50食の限定。
- 南牧村野辺山「レストラン最高地点」では、通常は国産そば粉9割と野辺山高原産そば粉1割のブレンドだが、予約者にかぎって地元野辺山産のそば粉100%の手打ちそばが食べられます。
なべくら高原 雪割りそば JA北信州みゆき
飯山と言えば富倉のそばが有名ですが、飯山市大田のなべくら高原も、ソバの生産が盛ん。地元産のそばを地域の消費者や訪れる観光客に食べてもらおうと去年の12月に発足したのが「みゆき野そば街道協議会」。スキーと温泉で有名な戸狩地区を中心に民宿・旅館・ホテルの経営者など21人の会員がいます。
会長の木原一夫さんは「10年後、北陸新幹線が開通した時に、この『雪割りそば』を食べにお客さんが来てくれれば」と話し、玄ソバを「なべくら高原雪割りそば」と名前をつけて、そのそば粉で打ったそばを地域のブランド品にすべく活動を展開中。木原さんは、既に6年前からそば栽培組合の生産者と連携して、香りと甘さのあるソバができるまで品質の向上に取り組んできました。JA北信州みゆきの低温倉庫を利用するようになってからは、通年で香りの高いそばを提供できるようになりました。将来はそばのつなぎの小麦粉も地元産に切り替える計画もあるそうです。
遊休農地を活かしソバ作り
「キーワードは夢とロマン。みんなでそれを追いかけている」と話すのは、長野市信更町の「遊休農地を活かす会」会長の中島永邦さん。同会は中山間地域等直接支払制度の活用による遊休農地解消に取り組み、長野市の奨励作物として奨励金が交付されることもあって、ソバの栽培を進めています。
荒廃した農地の復旧には、大変な労力が必用だったそうです。「スタッフに恵まれていたから出来た。バックフォーを持っている人、オペレーションのできる人、みんなが自分の仕事を休みながらやってくれた」と小林章一同会副会長。地元のJAグリーン長野から中古農機やリンゴ出荷施設の跡地を乾燥施設として借りられたことや、市の補助も強力なバックアップとなりました。今年の栽培は5.3ヘクタールで、全て無農薬で3.3ヘクタールを収穫しました。販売も地産地消をモットーに、地元そば店などに使って欲しいと願い、JAとも相談中。現在はソバのブランド化に向けたネーミングを考案中だとか。
- 信更町産ソバが食べられるお蕎麦屋さんでは手打ちそば処 小杉が有名。信更町のそば粉を、信濃町産のそば粉とともに信州産そばとして提供しています。
諏訪地方のそば情報
富士見町、茅野市といった諏訪地方でも最近はそばの生産が増えています。茅野市そば生産者協議会は茅野市内の5つのソバ生産組織が加盟し、地産地消を訴えて情報誌の発行などでPR活動を行っています。協議会設立の中心が同市の穴山地区営農組合。農地の荒廃をなんとかしたいという願いから、農地の荒廃に歯止めをかけるべく98年に営農組合を設立し、農地の管理にあたりました。定年退職した60代の人を中心に組織し、養蜂家からミツバチを借りて放って受粉を媒介させて収量を安定させたり、霜にあてることでそばの甘みが増すことを発見したりといった努力を重ねてきました。穴山地区の活動を契機として、他地区でもそば生産組織がつくられ、同協議会の設立となりました。協議会では、地区の公民館や小学校などでそば打ちなどを指導。そばを広めるには、地元の人から茅野のそばはおいしいという声があがらないといけないと考え、精力的に活動中です。
- 地粉のそばが食せる諏訪地方のお蕎麦屋さんの一押しは「駒沢山の駅」は岡谷市川岸の駒沢、山の中に1軒だけある「信州そば百選」に入っている店。JR川岸駅から諏訪レイクヒルカントリークラブをめざし、まさか、こんな山中にあるの・・・? といった場所にひつそりとあります。詳しくはJA信州諏訪ホームページ駒沢山の駅紹介ページへ。
- 「おっこと亭」は八ヶ岳山麓富士見高原のそば処。名物は白木の箱に盛られたきりだめそば。併設でそば打ちの体験ができるふるさと体験館もあります。
- 道の駅「信州蔦木宿」のソバは、地元で生産し、地元の人達が手打ちでそばを作っています。
今回は信州そばの魅力ある産地情報の第1弾をお送りしましたが、土地の人間ならではの丸秘のソバ情報は実はもっとあるのです。だから近いうちに特集パート2も計画中ですので、お楽しみに!