長野県の県花でもある「りんどう」は、漢字で書くと「竜胆」。この「竜胆」を素直に読めば「りゅうたん」。もともと「竜胆(りゅうたん)」とは、生薬の名前で、秋に自生するりんどうの根を掘り出して、地上部を切り落としたものを水で洗ってよく太陽に干したもののことを言いました。せんじ薬としてはおそろしく苦い胃薬だそうです。でその「りゅうたん」がいつの間にか「りんどう」に転じたと言われています。
りんどうは宿根の多年生植物で、日本列島では山野丘陵に自生し、秋になると紫や青い釣鐘状の花を咲かせます。だから英語では「ベルフラワー」とも言われます。長野県では浅間山の旧火口底である湯ノ平高原や志賀高原で8月、9月には戸隠高原で群生が見れます。りんどうの花言葉は「あなたの悲しみに寄りそう」です。だからというわけでもないでしょうが、露地栽培のものは、これからお盆やお彼岸の癒しのシーズンに需要が高まります。
日本のりんどうの二大産地
全国の生産量は8930万本で、そのうち岩手県が69%を占める圧倒的なシェアを持ちますが、長野県は772万本で第2位(平成17年度)。県内では茅野市や上田市(丸子町)、辰野町などが主な産地です。しかし第2位とはいえ長野県は北海道から早生種を導入するなどしてりんどう栽培技術を確立した県で、後にこの技術が全国に広まっていったのです。
酸性の土壌を好み、連作をすると障害が発生するため、畑作より前作が水田の田での栽培が良いとされます。長野県では中山間地の水田転作品目としてりんどうの栽培をすすめてきており、種から育苗する手間をかけずに、セル成型苗を購入して定植し、株養成の時間を短縮する方法で生産の振興をしています。ほんらいりんどうは秋の花なのですが、ハウスをかけて加温したものは5月から出荷がはじまり、露地ものの出荷が終わる10月末まで、半年近く楽しむことができます。
長野県で育てられている人気の品種は色が紫(ブルー)では、まりこ、あおいうみ、丸子系、深山系、スカイブルーしなのシリーズ、ネオブルーシリーズ、ブルーハイジ、マウントブルー、ライトブルーしなの。色がホワイトでは、ホワイトベルシリーズ、ホワイトハイジシリーズ。ピンクでは、秋姫、サマーハイジ、セプテンハイジ、晩生ハイジなどです。
自家採種されたりんどう
昭和20年代からりんどうを栽培している産地の茅野市では、りんどうが市の花にもなっています。平成17年度の作付け面積は825aで、この産地の特徴は、「自家採種による栽培」が主流である点。
前述のようにセル成型苗による作型が主流になっている現在では、珍しいと言えます。つまり、それだけ、生産農家の歴史があるということでしょう。JA信州諏訪りんどう部会の54人が栽培し、名古屋や東京、大阪に向けて、今年は1800ケースの出荷を計画しています。市場からは花持ちが良いと評価が高く、標高が1000メートルあるこの産地(写真上中)では、露地栽培のりんどうがこれから出荷の本番を迎えます。
りんどう栽培をはじめた土地
もうひとつの長野県内のりんどうの産地である上田市丸子(旧小県郡丸子町)では、昭和の20年代に西内地区で、山野に自生するりんどうを採集して栽培するようになりました。(写真下)そして同市の三角(みすみ)地区などでも施設栽培が盛んになっていき、現在は町全域で40人の生産者がりんどうの栽培をしています。
上田市丸子のりんどうは、早生種が中心で、7月末までに約8割が出荷されてしまいます。施設栽培のものが5月下旬から出荷がはじまり、8月上旬の今ごろになると、そろそろ露地ものの出荷ピークも終わりとなるころでしょうか。
ゴージャスな花も良いですが、暑い季節に「涼」を感じる和風の生け花として、信州産のりんどうはなかなかのものだとは、思いませんか?