『野菜を自分で作ってみたいけれどひとりではじめるにはハードルが高くて・・』と尻込みしている人も、一緒に作業する仲間がいれば心強いことでしょう。県東部・上田菅平インターのすぐ近くの「JA信州うえだ直販センター」脇に「トマトクラブ 野菜づくり教室」と大きく描かれた看板が目印の共同菜園があります。この85坪の畑は、地元の女性たち15人に、野菜づくりのアドバイザーが指導をしながら、みんなで管理・運営がおこなわれています。15人のメンバーグループの顔ぶれは、まったく農業などしたことがなかったという人から、「家で作っている以外の作物をトマトクラブで学んで、それを家でも作ってみるのが楽しみ」と話す農家の方までさまざま。立場の異なる人たちが作業を協力しあって野菜づくりを楽しんでいるのです。
野菜作りの大変さと楽しさ
共同で作業を行うメリットのひとつに、作業の速さがありますが、訪れた当日、その日の重点作業であるトマトの植えつけの前に、雑草に覆われ荒廃地と化した畑の草取りが見る見る終わっていく光景を目の当たりにしました。「自分の畑での草取りは嫌になるけど、大勢で話しながらやればあっという間にきれいになるし、また大勢で話しながら出来るのがストレス発散にもなっていいわ」などと語りあいつつ、ほどなくすると、雑草の小山ができあがる程になりましたが、話されている会話の内容に耳を傾ければ、「こないだのあの道具、使い勝手いい?」とか、「まだ枝豆の芽の成長がよくないのだけど、そっちはどう?」など、菜園作業に関する情報交換が盛んにおこなわれています。しかしそうした話を聞きながら、『当たり前のように店頭に並んでいる野菜も、実際食べられる大きさまでに育てて実らせるには、その年の天候も影響するし、一口で「野菜づくり」とはいっても、それは一筋縄ではいかず、いろいろ大変なことが多いのだなぁ』と感じさせられました。
トマトクラブはこうして生まれました
そもそもトマトクラブの設立は、今各地で広がりを見せている遊休荒廃地の問題がきっかけ。「あの荒れた土地をどうにかならないか?」という問いかけがあった3年前、『みんなで畑をやりたいな』と思っていたJA信州うえだ神科支部女性部事務局の関口晶子(せきぐちあきこ)さんは、ちょうど当時菜園ブームが起こりはじめていたこともあって、早速女性部に声を掛け、それが友が友を呼び、さらに機関紙などに募集のチラシを挟むなどして、一般参加者をも増やして、活動がはじまりました。しかし当初の場所は土の状態が悪かったため、現在は「自分では手が入れられないから使って欲しい」と地主の申し出のあった現在の場所に活動拠点を移して、再スタートがされています。
生産も、販売も、加工も、全部みんなで
クラブのメンバーが楽しみにしているのは、野菜の収穫ももちろんのこと、本日植えたトマトを使ってのトマトソースやケチャップづくり。また昨年は、栽培した「白ウリ」を近くの直売所で販売したところ、あっという間に売り切れた程の人気ぶりだったということで、一般消費者に喜んでもらえることも野菜づくりの大きな励みになっています。今年は「自分たちの作ったトマトケチャップが販売できたらいいな」と、生産と販売だけでなく、自分たちの野菜を自分たちで調理して販売までと、メンバーの夢は膨らんでいます。ちなみにグループ名の「トマトクラブ」は、みんなで作ったトマトがあまりにも美味しく、毎年その美味しいトマトを作るのが楽しみで、「なんか自然と"トマトクラブ"になっていた」のだとか。
今年計画している作物は、加工用トマト、枝豆、白ウリ、落花生、ニンニク、ニンジン、玉ねぎなど9品目。「自分で作った野菜の味は、買った味とは全然違って美味しいわよ。だからあなたも親に作ってもらって食べるだけや、ちょっと作業を手伝うばかりじゃなくて、是非自分の力で野菜を作ってみるべきよ!」などと元気良く声をかけられました。
野菜たちを元気に育てるものは?
梅雨空のもと、お母さんたちの元気な声と、雑草が取り払われた畑の上にようやく根をおろして誇らしげに見えるトマトの様子に、こちらもいつしか晴れ晴れとした気分になりました。地球規模で見ると、伝統的な狩猟農耕社会においては、畑の土地を切り開いたり耕すなどの大変な作業以外の実際的な野菜作りは、男性が狩りに出ている間、女性たちが昔からおこなってきました。野菜はもともと女性たちの明るい声を聞いて育つのです。みなさんも、もし信州にドライブで来られることがあれば、上信越自動車道・上田菅平インタ−を降りて「トマトクラブ」の看板が眼にはいったら、明るい笑顔の女性たちが張り切って育てている畑の見事な野菜もぜひ見逃しませんように。
このような県内各地の農にまつわるお母さんたちの元気いっぱいの活動は、SBCラジオ信越放送、毎週月曜日11時50分から「ずくだせえぶりでい内『いいJAん!信州』」のコーナーで放送しています。県外の方も長野県を訪れた際には、ぜひ聴いてみてください。