松川町「ゆうきの里」の試み

農水省などの主催で、食や農林水産業に関わる持続可能なサービス・商品を扱う取り組みを紹介する動画コンクール「サステナアワード2021」で、下伊那郡松川町の松川町ゆうきの里を育てよう連絡協議会が作成した「松川町ゆうき給食とどけ隊の思い…」がこのほど優秀賞(審査員特別賞)を受賞しました。

直近では原油をはじめとした資源、資材価格の高騰で、農業分野も大きな影響を受けています。

もとより大量生産、大量消費を前提とした社会の仕組みは温暖化をはじめとした地球環境の面からも転換を迫られています。

「有機」に「勇気」を重ねて「ゆうき」と表記する同協議会、松川町ゆうき給食とどけ隊(以下、とどけ隊)の活動に引かれ、県南の松川町を訪ねました。

目指すは中央道松川インターを降りてすぐ、「松川町農村観光交流センターみらい」です。

事務局の同町産業観光課農業振興係長の宮島公香さん=写真右=と、動画にも登場する「とどけ隊」の会長、久保田純治郎さん=同中央=、同副会長の牛久保二三男さん=同左=が応対してくださいました。

koramu02-20220413取材に応じてくれた右から宮島公香さん、久保田純治郎さん、牛久保二三男さん

遊休農地対策から

始まりはリンゴやナシなど果樹生産が盛んな町の遊休農地対策で、農業委員会の案件だったのだそうです。

優良農地を少しでも生かそうと家庭菜園の延長のような形で「一人一坪農園」として貸し出し、若いお母さん方の野菜作りの一助になればーーと考えました。

講師を務めたのが牛久保さんでした。

koramu03-20220413土寄せして冬越しさせたニンジンを収穫する牛久保二三男さん。所有する車のナンバーは「831(やさい)」に統一。「有機栽培の野菜作りは工夫のしがいがあり、コツがわかれば面白くなって、余計にやりたくなる」と充実感を語ります

指導の様子は町のケーブルテレビで「Do遊農?」のタイトルで昨年(2021年)12月まで3年間放送されました。

6年前まではサラリーマンだった」という牛久保さん。

果樹地帯の町内で、定年前から循環型農業に興味を持ち、野菜作りに挑戦していました。

Do遊農?」では「どうせなら」と循環型農業の実践として有機栽培の様子を紹介することに。すると、町内で今まで野菜作りをやっていなかった方にまで反響を呼んだそうです。

koramu05-20220413代かきする久保田さん。作物が自然の力でよりよく生育できるための環境作りやタイミングなど有機栽培を実現させるためのノウハウを学んでいるそうです(松川町ゆうきの里を育てよう連絡協議会提供)

koramu06-20220413緑肥を使った土作りを学んだ研修会(同)

給食に活路、5人の「とどけ隊」

ただし、農家の高齢化問題は急務で、遊休農地の活用は進むどころか増える勢いです。家庭菜園の延長上に貸し出すのでは間に合いません。

太陽光発電のパネルを設置したらとか、住宅に転用できないか、といった声が多かったのが実情ですが、せっかくのいい農地です。次世代の子どもたちのために、有機栽培で給食の食材生産に充てることを考えました。その実践を紹介したDo遊農での反響も後押ししました。

町で生産者を募ったところ、米をはじめ給食用の食材として継続的な需要が見込まれるニンジン、ジャガイモ、長ネギ、玉ネギの5品目の生産を担う「とどけ隊」5人のメンバーが集まりました。

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とどけ隊をPRするイラストも作成(写真の上部)。牛久保さんは、それを基にポップを作成、「うしうしファーム」を名乗り直売所でアピールしています。

専門家の指導で

なかには果樹農家もいましたが、ほとんどは「野菜を作るのは初めて」。牛久保さんは「既成概念がなかったからよかったのかも」と言います。

町では松本市で試験農場を営むなど自然農法の普及に力を入れている「自然農法国際研究開発センター」から講師を招き、有機栽培の研修会を開くなどバックアップ態勢を整えました。

結果、久保田さん、牛久保さんとも「具体的なアドバイスがもらえて、とても助かっている」と振り返ります。久保田さんは町内の米農家の誘いで就農5年目の若手。有機の米作りに挑戦していました。そんな久保田さんたちでも有機農業の専門家の指導は新鮮だったようです。

「化学肥料や除草剤、農薬を使わなければ『有機』になると思っていましたが、そんな単純ではありませんでした。有機栽培を実現するためには、作物と環境に合わせ、土づくりから適切な配慮が求められ、そうすることで、雑草や病害虫など一般に懸念される有機栽培の不都合への有効な対策になることを教わりました」と口をそろえます。

一方、有機栽培以前に、給食用の食材納入には規格や納期、量などで制約が多く、一般の農家にとってもハードルが高いのが現実です。とどけ隊は毎月1回、食材を納めている町内3小中学校の栄養士さんらと打ち合わせを開き、2カ月先の収穫予想を提示しながらメニュー作りを進めてもらっています。

とどけ隊が学校を訪ねて給食見学会を開いたり、子どもたちに向けて生産者のメッセージを校内放送で流してもらったりすることもありました。栽培農家の思いを知ることで、子どもたちの食べ残しが減るなど、成果が出ているそうです。

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昨年(2021年)1119日「食育の日」に町内の中央小学校で提供された給食。米をはじめ長ネギ、ニンジン、カブ(もものすけ)、里芋が有機食材(同)

koramu01-20220413実際の給食現場を訪ねる「見学会」で子どもたちとの交流も(同)

飛躍に向けて

1年目の2020年度は3校の給食食材の9%余を納入しました。2年目の21年度は30%近くに。「50%達成が当面の目標です」と宮島さん。

有機栽培に挑戦するとどけ隊の活躍を見て、新規就農で新たに2人のメンバーが加わりました。さらに仲間を募集中です。

少子化の進展は急速で、現在3校で1000人ほどの児童・生徒数は減ることが確実。収穫した有機野菜を使う場所を探すのも課題です。昨年からは3校以外に、町内の下伊那赤十字病院にも納入がはじまっています。松川町のふるさと納税の返礼品にも取り上げられています。保育園や幼稚園でも関心を示しており、飯田市でも導入の動きがあるようです。宮島さんは「幅広く連携できたら…」と希望しています。

とどけ隊の活動に目が離せません。

これまでの活動は松川町のホームページ内の「ゆうきの里を育てよう連絡協議会」などで紹介されています。

2020年度の活動を基にした栽培マニュアル27ページにわたるPDFで公開されています。21年度分もまとまり次第公開されるそうです。

普段の活動はFacebookで発信しています。

この記事を書いた人

昭和人Ⅱ

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