信州そばの聖地へそばを食べる旅に出かける

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日本がまだ神話の時代だったころ、天照大御神(あまてらすおおみかみ)という神さまが、高天ヶ原にあった天の岩戸のなかに隠れたとき、天手力雄命(たじからをのみこと)という神さまが、その岩戸をちからまかせにこじ開けて、ここまで投げ飛ばしたという伝承を持つ霊山戸隠山。信州の北に位置するそこはまた、県内外でも、その名を聞くとそば好きの心が震える「戸隠そば」の聖地でもあります。

この戸隠で、そばの祭典「戸隠そば祭り」が開かれると耳にし、とるものもとらず足を運びました。9月22日、23日。戸隠そば祭りは、すでに数えること39回。戸隠の大神さまのもと、商売をさせて頂いている事に感謝し、また戸隠にやってくる旅人の心に感謝するお祭りです。

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神秘的な力の立ちこめる霊山
戸隠の歴史は古く、昔から聖なる山とされた戸隠山(標高1911メートル)の麓(ふもと)には、奥社(おくしゃ)・中社(ちゅうしゃ)・宝光社(ほうこうしゃ)・九頭龍社(くずりゅうしゃ)・火之御子社(ひのみこしゃ)の五社からなる戸隠神社があり、約二千年もの歴史を有するとか。すでに平安時代末には、修験道の道場として都にまでその名を知られていました。当時は比叡山、高野山と共に「戸隠十三谷三千坊」と呼ばれ、「三千」もの宿坊が並び立つほどに栄えたそうです。

なかでも奥社は、標高1350メートルの中腹に建てられていて、その名の通り戸隠神社の一番奥にあります。奥社へ行くまでには長野県天然記念物戸隠神社奥社社叢(しゃそう)、随神門、奥社参道杉並木などを通りますが、あたりには言葉ではあらわせないような神秘的な力がたちこめています。


至福の大盤振る舞いそば
戸隠そば祭りでは、22日の前夜祭に「大盤振る舞いそば」が行なわれ、専用のお猪口を持って約20件のおそば屋を巡り歩きができます。当日は、なんと約1万食のそばが用意されました。

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なぜ戸隠でそばなのか
そもそも、戸隠と「そば」の関係は、霊峰戸隠山への信仰と密接につながっていました。この地が修験道場として栄えた平安時代に、修験者が栄養豊かな携行食糧として持っていったのが「そばの実」や「そば粉」であったと伝えられています。彼らはそばの実を挽いて粉にし、それを水やお湯でといてよく練り「そばがき」にして食べたようです。

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現在、多くの人たちに親しみのある「そば」と呼んでいる麺は、いわゆる「そばきり」と呼ばれるもので、記録によれば、江戸の寛永寺の僧侶たちから広まった特別食なもてなし料理でした。戸隠のそば打ち・そばきりの歴史も、江戸時代からになります。以来、各地から訪れる戸隠講の参拝客へ心を込めて、そばきりを振舞うことが多くなったといいます。そして戸隠信仰が広まるにつれて挽きぐるみのそば粉(甘皮を取らずに挽いたもの)を使用する「戸隠そば」の名も、全国へと広がって行きました。

そばの聖地といわれる理由
戸隠は、信州の中でも昼夜の温度差がひときわ大きく、早朝に朝霧が湧き立つとても冷涼な気候。また、戸隠山から流れる水が綺麗で、土地がもともと肥沃ではなかったことなど、蕎麦を育てるための条件が整っていたのです。宝光社、中社の周りには30軒以上のそば屋がのれんを並べていて、日本広しといえどもコレだけのそば屋が集まっているところは――そば文化の発達した信州でも――群を抜いています。戸隠には各家庭にひとりはそばを打つ人間がいるといわれています。

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22日の前夜祭の大盤振る舞い蕎麦で、記者も4軒ほど梯子をし、そばを堪能させていただきましたが、驚いたことに、また当然のことに、一軒、一軒、そばの風味やコシ、つゆの味がそれぞれ微妙に違っていました。そばの聖地といわれるにはそれだけの理由があるのです。

神さまに供えるそばだから
「戸隠そば」のざる盛りの特徴は「ぼっち(束)盛り」と呼ばれる5〜6束をひとつのざるに馬蹄形状に並べる独特の盛り方。(写真は、大盤振る舞い蕎麦用)なぜ、このようなぼっち盛りなのかは定かではないそうですが、もともと戸隠そばが神々へのお供えや、おもてなし料理だったために、見た目も整っていることが重視されたのではないかと語り継がれています。

祭りは23日が本祭り。中社神殿で戸隠神社太々神楽献奏、戸隠太鼓などが行なわれて、多くの人で賑わいました。

今年の新そばを戸隠でいただける日
信州は今まさに、新そばの季節の入口を迎えたばかり。11月に入れば本格的な新そばの季節になりますが、そばの聖地戸隠で、戸隠そばのぼっち盛りを実際にご覧になりたい方、新そばを堪能されたい方に、とっておきのそば通情報です。実は来月10月30日(木)、今年の戸隠山が閉山となる31日の前日に、中社鳥居前広場をメイン会場に「蕎麦献納祭」が行なわれます。

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戸隠一のそば打ち職人が白装束に身を包み、秋の「新そば」を打ち、神さまに献納する神事(右は資料写真)や、石臼でそば粉を挽き、その挽き立ての香り良いお粉で、そばがきを作る「石臼碾き体験」や、お待ちかねの「新そばの振る舞い」があります。香り高い秋の新そばがみなさんに無料でふるまわれます。

この秋は、戸隠の神秘的な土地とそば文化に触れてみてください。

関連サイト:

戸隠神社ウェブサイト

戸隠観光協会

戸隠そば屋一覧(戸隠観光協会提供)

蕎麦献納祭(戸隠そばイベント)

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