「イメージを変えたい」子育て世代の挑戦
マルチシートを敷くことにも挑戦
昨年4月22日。最初の作業に参加したのは小学生を中心に、2歳児も含む子ども17人と、大人11人でした。神林支所の野菜指導員・石川克彦さんから作業内容や注意点の説明を受けた上、畝を立て、保温や雑草対策のためのマルチシートを敷き、松本一本ネギ、ジャガイモの苗を植え、トウモロコシと二十日大根の種を植えました。
畝立てなど大まかな作業は石川さんらJA関係者がトラクターで行い、続く作業の多くは同女性部のメンバーが担いましたが、鍬などで調整する作業やマルチシートを広げる作業は父親や子どもたちも喜んで参加しました。
枝豆はこんなふうになるんだね
「暑かったけれど、皆で一緒にした畑作りは楽しかった」「おやつがうれしかった」「カエルを見ることができて良かった」「野菜の成長が楽しみ」...。忘れないようにと残した記録にはそんな感想が並んでいます。
記録を取った塩原幸子さんが、同農園の発案者です。東京都出身で、地区内の水田を中心とする専業農家に嫁いで10年余。「たまたま結婚相手が農家だっただけで、農業に特別の思い入れがあったわけではありませんが、実際に農家の生活に触れてみると、『土に触り、作物を育てる作業は新鮮で楽しかった』」と振り返ります。小学5年生を筆頭に3人いる子どもも、一緒に畑に出ることは大好きで、「特に構わなくても、自分で楽しみを見つけ、遊んでいました」と言います。
ところが、周りの同世代のお母さんからは、農家、農業に対するネガティブなイメージばかりが聞こえてきました。「もったいない」と思い、「何とかイメージを変えたい」と思ったのが農園を提案するきっかけになったそうです。
種まきから収穫まで
ネットを検索すると子育てと農作業の実践を組み合わせた石川県での例が目に入りました。「これだ」と思ったものの、近くに同様な集まりは見当たりません。「何とか自分でできないか」と考える中で、JA女性部のメンバーに出会い、同支所の塩原芳晴支所長(当時、現山形支所長)を紹介されました。「恐る恐る」相談に行ったところ、快く対応してくれました。
提案を受けた塩原支所長は、畑の確保が先決と、支所のスタッフや地域の農家組合の会合に顔を出した折に打診してくれました。ほどなく高齢で手に余りつつあった3aほどの畑が見つかり、借りる手はずを整えてくれました。昨年2月のことです。支所の専門家の知恵を借りながら簡単な栽培計画を立てる一方、塩原さんは周りの友人に声を掛け、4月の「開園」に備えました。
ジャガイモもこんなに
以後、毎月2回、日曜日の午前中を基本に集まり、農作業に励みました。最初の畝立てをはじめとした畑の枠組み作りや、途中の消毒など、初心者には難しい作業は毎回説明に立った石川さんをはじめ、女性部らJA関係者の手を借りたものの、草取りなど地味な作業を含め可能な限り子どもたちを含めたメンバーで取り組みました。塩原さんは「種まきから収穫まで、口に入る作物ができる過程をすべて体験させたかった。立派な野菜を収穫するだけの『いいとこ取り』の体験農園にはしたくなかった」と言います。
収穫したトウモロコシをその場でゆでて「がぶり」。自ら育てた作物の味は格別
最初はまいた種の芽が出ず、気をもんだこともありましたが、最終的にはジャガイモやトウモロコシ、枝豆など子どもたちがスーパーの店頭で見慣れている野菜を、自分たちで育てることができました。7月のトウモロコシの収穫では、その場で湯を沸かし、もぎたてをゆでて食べました。「おいしい、おいしい」と子どもも大人も夢中でかぶりついたのは本当に楽しい思い出です。
夏場は例年にない暑さで、熱中症対策に気を使いましたが、そんな中でも子どもたちは、畑の脇に茂ったアシの陰を隠れ家に見立てて遊ぶなど、たくましい姿をみせてくれました。年末に開いた「お疲れさま会」では「麦から育ててパンを焼きたい」「畑で運動会をやりたい」といった大きな希望も出ていました。子どもを意識した取り組みでしたが、親たちも興味を持ってくれ、本格的に「堆肥づくりなど土づくりにも取り組みたい」という声も挙がっています。
2年目となる今年は4月21日からスタートします。子どもたちにどんな「できた」を体験させることができるでしょうか。地域を巻き込み、11月にはJAが各地区で開く収穫祭に出店することも目標です。塩原さんは期待に胸を膨らませ、「ゆくゆくは子どもたちが大人になって農業に戻ってきたくれたらいいなぁ、とうっすら思っている」と控えめに語っています。
「僕たちが育てたんだよ」
※以上、写真は昨年の「神林夢あわせ親子農園」のものをお借りしました。子どもたちの楽しそうな表情をご覧ください。