信州諏訪を舞台にした天下の大祭「諏訪大社式年造営御柱大祭(御柱祭)」が、2016年4月2日から始まります。地元では御柱祭を盛り上げようと、地域住民のみなさんが県内外からのお客さまをお迎えする準備を進めています。
今回は、諏訪市四賀で生まれ育ち、岡谷市長地へ嫁いだ山田千代さん(75)が作る御柱祭のおもてなし料理を紹介します。
特産の寒天を使った諏訪伝統のふるまい料理
長野県無形民俗文化財でもある御柱祭。数えで7年に一度、寅(とら)と申(さる)の年に諏訪大社の宝殿を造営し、社殿の四隅にあるモミの大木を建て替える祭りで、独特の風習や伝承に基づいて行われることから、日本の三大奇祭に数えられています。 昔から勇壮な祭りの表舞台に立つのは、多くの男性。女性たちは、祭りに来る親戚、知人などの「おもてなし」に精を出します。諏訪地域では、御柱祭の「おもてなし料理」は、祖母から母、娘へと脈々と伝えられてきました。その中でも、必ず振る舞われる料理が「天寄せ」です。諏訪地域では、冬の冷涼な気候を生かした寒天づくりが昔から盛んで、その名産品「角寒天(天然寒天)」を使った「天寄せ」は、冠婚葬祭には欠かせない料理。「角寒天」と水を使うことだけは共通ですが、季節、行事などによって中に入れる具材や味が異なり、それぞれの家庭ごとに「手前天寄せ」があるのです。
諏訪の寒風がつくる天然寒天
角寒天の生産量シェアは全国1位!
諏訪の寒天の歴史は古く、江戸時代天保年間(1830年頃)に諏訪郡玉川村の小林粂左ヱ門(くめざえもん)が、農家の副業として行商に出た関西方面で、寒天づくりの技術を習得。諏訪の気候風土が適していたこともあり、製造を始めました。天然角寒天の生産量のシェアは全国一で、真冬の晴れた日に天日乾燥させる風景は、諏訪の冬の風物詩になっています。
山田さんの子どもの頃は、冬の間(農閑期)の寒天づくりが盛んで、「実家の近くには寒天工場が3軒あり、子どもの頃の冬のアルバイトといえば"寒天まるけ"だったんだよ」と、なつかしみます。寒天の原料の天草に付いてくる貝殻がきれいで、それで首飾りを作った思い出も話してくれました。
※寒天まるけ:棒状の乾燥した寒天を束ねること
諏訪を印象づけるおもてなし料理「天寄せ」
千代さんの御柱祭用レシピを公開!
諏訪のみなさんは、角寒天をいろいろな料理に使います。また、各家庭では、冠婚葬祭や会合など、人が集まる時に「天寄せ」を作る習慣が、今も脈々と息づいています。今回は、山田家の御柱祭用の「天寄せ」の作り方を教えてもらいました。
御柱祭用「豆腐入り天寄せ」を教えてくださった山田千代さん
御柱祭用「豆腐入り天寄せ」
材料 |
角寒天 1本 水 400cc 砂糖 150g 食紅(色付け)少々 塩 ひとつまみ |
作り方 |
(1) 角寒天をさっと洗い、分量の水に30分程浸しておく。浸した寒天が水を含み、柔らかくなったら手で細かく刻む。 |
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(2) (1)を鍋に入れて火にかけ、噴きこぼれないよう中火から弱火で煮溶かす。 |
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(3) (2)の中に砂糖、塩を加え、砂糖が溶けたら食紅で色付けし、豆腐を手で揉みほぐしながら鍋に入れる。豆腐に火が通るまで掻き混ぜながらひと煮立ちさせる。 |
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(4) 容器に流し入れ、冷やして固める。固まったら食べやすい大きさに切り分ける。 【ポイント】容器を水で濡らしておくと、固まった天寄せが取り出しやすくなる。 |
「御柱祭用の天寄せは、崩れないように少し硬めに作ります。普段の天寄せは、角寒天1本に水500ccを入れて作ります」と山田さん。
淡い桜色の寒天に白い豆腐が浮かぶ、春らしい天寄せをいただきました。甘さ抑えめで、ちょっと歯ごたえのある美味しい天寄せでした。
御柱祭用の天寄せ
大鍋で煮る凍み大根の煮物
諏訪湖のワカサギの佃煮
糸寒天入りのいかの酢の物
天寄せの他にも、冬の冷涼な気候を生かして山田さんが作った凍み大根の煮物と諏訪湖で獲れたワカサギの佃煮、信州でよく使われる塩イカ(茹でイカの塩漬け)と糸寒天の入った「イカの酢のもの」もごちそうになりました。どれも美味しかったです!
御柱祭とともに残したい手作りの味
4月に入ると「山出し」からはじまり、「木落とし」「里曳き」が行われ、4社の社殿の四隅に4本の御柱を建てる「建御柱」で、御柱が神となり、祭りは最高潮を迎えます。それまでの間、諏訪の人々は御柱祭が暮らしの中心となり、地域や人とのつながり、団結力も強まります。
近年は、女性も祭りに参加する機会が増え、御柱用の料理を料理店やスーパーマーケットなどに注文する家庭も増えたそうです。「御柱祭の振る舞い料理を手づくりする家庭も少なくなっているんだよ」と、ちょっと寂しそうに教えてくれた山田さん。これからも御柱祭とともに郷土の味も伝承してもらいたい、と強く思いました。
山田さん手作りの木落としと建て御柱の人形