近年注目の食のキーワード「農家レストラン」が、なんと"走っている!"と聞き、行ってまいりました。
「走る農家レストラン」は北信濃を走るJR飯山線の企画列車として2013年から始まり、今年は「おいこっと」という今春デビューしたての新型車両で運行されています。名付けて「飯山線観光列車おいこっとで行く『走る農家レストラン』」。
「TOKYO」の逆読みという、この変な名前の列車のコンセプトは「大都会の反対」を提供することだと言います。梅雨の合間をぬって、さあ出発進行!
合言葉は、いいかわ、いいそら、いいやません。
飯山線は長野駅と新潟県十日町駅を結ぶローカル線で、千曲川(信濃川)とほぼ並行して走っており、車窓からの素晴らしい景色も人気を博しています。
この路線を走るおいこっとは、1両あたりの定員がわずか38名、2両編成された気動車(電気ではなくエンジンで動く列車)です。
藁ぶき屋根の民家をイメージしたカラーリングで、かわいいロゴマークが配された、ほのぼの感あふれる車両に乗り込むと、車内もゆったりとして落ち着いた雰囲気。細かいところに北信濃ゆかりのデザインが配されていて、自然と心が和みます。
「まんが日本昔ばなし」の声優を長く務めた常田富士男さんの車内アナウンスを聞きながら長野駅を出発。要所要所でスタッフの方がマイクを持ち、その地域の説明をしてくれるのですが、型どおりのものではなく、ここに住んでいる人だからこそできる"生きた案内"なので、それが風景と程よくなじんでいました。
JR東日本長野支社の市川さんによると、参加者の2、3割は首都圏を中心とする長野県外の方で、旬のおいしい食事と車窓からの素晴らしい景色を期待して申し込まれるのだとか。私たちの隣のボックス席で歓声を上げていた親子4人のご家族も、この列車を目当てにはるばる千葉県から足を運び、2日間のミニ信州旅行を楽しんでいるのだと言います。ゆっくりと移動する今日の行程がとても気に入っているようで、皆さん「大満足」とのことでした。
さて、次の駅では
どんなご馳走が出てくるのかな
さて、お待ちかねの食事でありますが、途中の替佐駅停車中に前菜がそれぞれのテーブルに運ばれてきました。そうです、このレストランはコース料理となっていて、駅に停車するたびにひと品ずつ搬入されてくるのです。
この日のコースメニューは、
{替佐駅}
◎前菜
アスパラの鶏巻き、蕨寄せ、人参カステラなど
{飯山駅}
◎煮物 ◎小鉢
筍あんかけ、茶蕎麦と野菜のメレンゲ包みなど
{戸狩野沢温泉駅}
◎焼き物 ◎揚げ物
なすの蕎麦味噌田楽、
信州サーモンとポテトの包み焼き、
山菜とスノーキャロットの天ぷらなど
{西大滝駅}
◎お食事 ◎デザート
紫米の笹ずし、蕗の煮物、スノーキャロットのゼリーなど
といった具合です。
こだわりは「地のもの」、そして「旬のもの」。この日のメニューは、担当した飯山の割烹「つるのゆ」さんの板さんが考え抜いた力作だとか。
旬のものを使うので、当然毎月素材も変わることになります。2015年9月12日には「走る農家レストラン秋コース」が予定されていて、こちらも相当期待できそうです。
「走る農家レストラン夏コース」
流れる景色もいただきます
さて、この列車のもう一つのウリは車窓からの景色です。線路のすぐ東側を千曲川が流れ、絶景あり、また広々とした田園風景ありと、眺めていて飽きることがありません。この日は田植えの終わったばかりの田んぼが見えました。ここは唱歌「ふるさと」の誕生した土地でもあり、その歌詞を連想させる山や川が窓の外をゆっくりと流れていきます。
信越自然郷とも呼ばれるこのエリアは、ダイナミックな自然と、そこはかとない懐かしさを感じさせる農村風景が共存している素晴らしい地域です。時には林の中を、時には田園風景のただ中を走るおいこっとも、沿線から見ればこの風景にピッタリとなじんでいたに違いありません。
この列車には運行を担当する乗務員さんのほかに、ツアー全体をエスコートするスタッフ「おいこっと あてんだんと」さんや、食事の世話をしてくださる地元のおばちゃん方が同乗しています。皆さんそれぞれに終始笑顔で対応していただき、とても楽しい旅となりました。
この"おもてなし"も、おいこっとの大きな魅力、と言い添えておきたいと思います。(つかはら)