信州の農業遺産 第2回「円筒分水群」

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シリーズ「信州の農業遺産」第2回では、
「西天竜幹線水路円筒分水群」
(辰野町、箕輪町、南箕輪村、伊那市)をご紹介します。


今まさに田植えが進む田園風景の中、突如現れた円形の池......、それとも泉......?
なんじゃこりゃ?Σ(?Д? )
これは、大正から昭和初期に日本各地で作られた、用水路からの水を田んぼに公平に分配するための「円筒分水工(円筒分水槽)」と呼ばれる施設です。農業者にとって、水の分配は死活問題。水持ちが悪い地域では、水をめぐって村人同士の争いが発生することもありました。そんな水争いを"一目で公平性が分かる"方法で解決したのがこの円筒分水工なのです!
このような円筒分水工が今なお35基も現役で活躍し、円筒分水工群としては日本最大規模と言われる「西天竜幹線水路円筒分水群」を訪ねました。


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日本最大規模の円筒分水群
天竜川から水を取り入れて辰野町、箕輪町、南箕輪村、伊那市を流れる西天竜幹線水路は、天竜川西岸の稲作地帯を支える全長約26kmの農業用水路です。そのうち、中央自動車道の伊北ICと伊那ICにかけての水路脇に、35基の円筒分水工が現存しています。それが日本最大規模といわれる、西天竜幹線水路円筒分水群です。2006年には公益社団法人土木学会の「推奨土木遺産」に認定されました。

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田園風景の中の円筒分水工

水路に沿って道路があり、円筒分水工は道路を挟んだ反対側にあります。転落防止用のフェンスに囲まれており、水路に取水門やネームプレートがあるため、見つけるのは意外と簡単です。

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取水口近くのネームプレート

名前のとおり円形のものから、地形に合わせたのでしょうか、扇形のものなどもあります。大きさも直径2mほどのものから6mほどあるものまで様々。

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大きめの円筒分水工

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扇形などの変形タイプ

今はちょうど田んぼに水を引いている時期のため、円筒分水工には水があふれて大活躍。
。。。って、そもそもこの施設はどんな活躍をしているんでしょうか?

どんな役割をしているの?
円筒分水工は、水路から水を取り入れた時に、田んぼの面積に応じて公平に水を分配するために作られました。水は水路からサイフォンの原理で地中を潜らせて円筒の中心に出ます。円筒の周辺には穴が空いており、円形であることですべての穴から均等の量の水が溢れ出る仕組みになっています。円筒の外に仕切りを作ることで、水量の多少に関わらず、水が溢れる穴の数によって、分水比を保つことができるのです。

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上図のような円筒分水工では、
常に4:2:1:1の比率で水を分配することができる

西天竜幹線水路円筒分水群には(一見したところ)ありませんが、全国には円筒をオーバーフローさせて、仕切りで分配するタイプも存在します。

これなら、誰が見ても分水比が明確ですよね。では、どうしてそこまで正確に水を分配する必要があったのでしょうか?

開田の歴史とともに
20130508isan11.jpg諏訪湖を源流とし、静岡県浜松市と磐田市の境界で遠州灘に注ぐ天竜川。長野県内では伊那谷を形成しています。そんな天竜川西岸を潤す西天竜幹線水路は1928(昭和3)年に完成し、7年かけて約1,200haが開田されました。
しかし、天竜川西岸地域は、中央アルプスから天竜川に流れ込む河川によってできた扇状地。扇状地といえば、このシリーズ1回目の記事で安曇野市の拾ヶ堰をご紹介した際にもあったように、保水性が悪く本来は水田には向かない土地です。そのため、開田当初から水持ちが悪く水不足が問題となり、水争いが絶えなかったといいます。
水争いのポイントは、総水量の多少に関わらず、いかに公平に分水するかでした。そこで水路を管理する西天竜耕地整理組合の第3代組合長、穂坂申彦氏が採用したのが、円筒分水工でした。分配比が誰の目にも一目瞭然なこの施設は、1940年頃までにこの地域に57基建設され、水争いを収束させたのです!(o^▽^o)ノ

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今も35基が現役として活躍中!
現代では圃場整備が行われたり、水田の区画が変わったり、水田自体がなくなったりと、円筒分水工の数は全国的に減っています。しかし、この地域では70年以上経った現在でも、35基が現役として活躍中。老朽化対策も行われており、2012年には約20カ所の補修工事が実施されたそうです。当時と水田の面積が変わったのでしょうか、穴をふさいだり、穴からパイプで取水するなど、円筒分水工を現在も活かしているのが分かります。
西天竜幹線水路や円筒分水群を管理する上伊那郡西天竜土地改良区の平井眞一理事長は、「水の分配は地域農業の基本。先人が残してくれた遺産を、形を変えずにこれからも利用していきたい」と話します。

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2012年、形はそのまま全面的に修繕された29号

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穴の使い方にも様々なバリエーションが見られる

水田を作ろう、水争いを解決しようという先人の知恵と努力に感銘を受けるとともに、現在も公平に分配する伝統が残っていることや、稲作が元気だということに、つい嬉しくなってしまいました。(^_^)

※西天竜幹線水路沿いの道路は非常に狭く、地元の方々ももちろん利用しています。西天竜幹線水路円筒分水群を見学する際には、他の利用者の邪魔にならないようにお気を付けください。

参考リンク
円筒分水ドット・コム
日本全国各地にある円筒分水の豊富なデータベースが見られます。

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