信州の農業遺産 第3回「下伊那の円筒分水工」

円筒分水工

「円筒分水」は農業用水などを公平に分けるための巧妙な施設です。
真ん中から水が湧き出し、それを囲む周囲の壁に開けられた穴の数や大きさに応じて流れていく様子は、見ているだけでも楽しいものです。
愛好家による特集サイト「円筒分水ドット・コム」があるくらいです。

天竜川西岸の地下水路を潤す縁の下の力持ち

長野県で円筒分水といえば、上伊那地方の天竜川西岸を潤す西天竜幹線水路の円筒分水工群が全国的にも有名ですね。土木学会の選奨土木遺産にもなっています。本ブログでも以前、取り上げています。

今回は、同じ天竜川西岸で、より下流の松川町、高森町、飯田市を潤している竜西一貫水路の円筒分水を紹介しましょう。同水路は、第2次世界大戦を挟んで計画され、1969(昭和44)年に全線(約24km)が完成しました。中川村の天竜川東岸の中部電力南向発電所の放水路から取水し、サイフォンで対岸の松川町側へ。高森町を挟んで飯田市川路まで天竜川西岸を下ります。水路の85%、20.4kmがトンネルなど地下を流れる、まさにこの地方の農業生産を支える縁の下の水路です。

造られた時期──西天竜幹線水路は戦前、1919(大正8)年から39(昭和14)年に建設──の違いなのか、「竜西」の円筒分水は小規模で、あまり目立たないことが特徴です。

田舎道にひっそり佇む分水工

最も知られているのは高森町下市田の10号分水です。同町の「桜堂の桜」を目印に訪ねると、近くを流れる水路の脇にすぐに見つかります。外周の直径は3.2m。枠に開けられた四角い穴で3方向に分けられています。見まがうことのない円筒分水工です。

円筒分水工

10号分水

次は直径1mほどで、より小さい16号分水です。飯田市上郷飯沼地籍にあります。段丘崖に沿って走るJR飯田線の脇に出ています。2方向に分け、大部分は隣(写真奥)の新戸川に流しています。

円筒分水工

16号分水

この水路で面白いのが、本線から1方向に単純に分水する施設にも円筒分水工のような構造を持っている施設があることです。
水路を管理している長野県竜西土地改良区(飯田市座光寺)で聞いた、ふたつの分水施設をご紹介します。

ひとつは10号分水の上流側、高森町山吹の2号分水です。土地改良区で教えてもらった地図を頼りに153号を北上すると、道路に沿った沢の対岸に分水槽が見えました。湧き出る部分が台形で、そこに半円形の水槽が付いています。単に沢に水を落としているだけのようです。水槽に水を供給している一貫水路は地下にあるのでしょう、近くに水路は見えません。

円筒分水工

2号分水

もう一つは2号以上に円形から離れています。ほかならぬ同土地改良区事務所前の記念碑(竜西農業水利事業完成記念)脇で見ることができる12号分水です。

円筒分水工

竜西土地改良区事務所前の竜西農業水利事業完成記念碑脇にあるひしゃげた形の12号分水

深い沢を横断する秀麗な水路橋

というわけで、竜西一貫水路にある4つの「円筒分水工」を紹介しました。同水路としては地味な施設でしたが、もちろんほかにも同水路の見所はたくさんあります。
今回、訪ね歩いた範囲でも胡麻目沢水路橋のような、天竜川に注ぐ支流(胡麻目川)の深い沢を横断するための大掛かりな施設を見ることができます。

円筒分水工

胡麻目川をまたぐ胡麻目沢水路橋

完成から半世紀。同水路は現在、国や県の事業で補修、補強工事が進められています。2022年ころ終わる見込みです。この機会に、普段はほとんど姿を見せない水路に思いをはせてみてはいかがでしょう。

この記事を書いた人

昭和人Ⅱ

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