しみじみと滋味を味わう寒干し大根

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冬ともなれば足が遠のきがちの直売所。けれどこの寒い今だからこそ直売所で手に入るのが、寒中の頃の寒さを利用して作られる乾物、"寒干し"の野菜です。 山国・信州に暮らす遠い祖先が、食べ物が乏しくなる時期の保存食として生んだ、1年で最も厳しい"寒"を利用して作った寒干しもの。それはカビも吹きにくく良質な仕上がりになるのです。
そんな先人の知恵は現在までも脈々と引き継がれ、長野市と白馬村とを結ぶオリンピック道路沿いの「道の駅中条」にある「わんさか市」には、カボチャや大根、リンゴの干したものが所狭しと並んでいました。今回は、そんな寒干しづくりを行う農家のお母さんを訪ねました。

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養蚕業を陰で支えたお茶請け
04-R0020901.jpg長野市中条(旧中条村)の山道を分け入ったところに広がる桑畑。当時盛んだった養蚕業の面影が偲ばれるこの集落で、大きな屋根の軒下に、たくさんの干された大根が並ぶ風景がありました。
雪もひと段落し、サンサンと日差しが降り注ぐなか、ご主人と一緒に作業をしていたのは堀内公江さん。畑での作業がほとんどなくなる12月から2月まで、寒干し大根は作られるといいますが...。
「もう昔っから保存食としてずっと作られているもので、養蚕が盛んだった時期は蚕の作業の手伝いに来てくれた人たちのお茶請けに出したもんだわ」と、懐かしそうな眼差しで堀内さんは話します。

この時期の寒さとお天道様の恵みを利用することで、「凍みては融けて」を繰り返し、また甘味も強くなるという寒干し大根。輪切りにした大根は重ならないようにして並べ、乾燥が始まったら水分がつかないよう、およそ1ヶ月かけてひっくり返しながらゆっくりと乾燥させるそうです。切った大根を並べたものは、なんと昔養蚕の時に使っていた蚕を飼う籠(トレーのようなもの)。なんとも上手く役立っているのです。

お天道様と土の恵みをぎゅぎゅっと凝縮

ちなみにその寒干しに使われる大根は、秋に収穫して土の中に入れておいたもので、作業に合わせて順次土から掘り出すのですが、その大根のなんともみずみずしいこと。
「生で食べてもおいしいんだけど、またそれとは違って、この寒干しの大根は味が格別で甘味も凝縮されているんだわ」という堀内さんの言葉に、寒干し大根の味への期待も高まります。

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ひとくちに寒干し大根といっても作り方は人それぞれ。周りの皮を剥いただけの大根に紐を通して干して作る人もいますが、よくご存知なのは細かく切ってある切り干し大根でしょう。堀内さんの作る寒干し大根の特徴は、大根の皮を剥いて0.5センチほどの輪切りにしたものを、一度さっと湯がくこと。湯がくことで調理の際に味がしみ込み易くなり、また旨みも強くなっているように感じられるとのことです。

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戻した汁は美味しいだしに
06-R0020936.jpgとはいえ調理には一見手間が掛かるように思える寒干し大根。その調理法を堀内さんに伺いました。
まず軽く大根を洗って汚れや埃を落としてから、水かぬるま湯に浸してふやかせます。そうしてふやけたものを軽く水気を絞ってから調理に使うそうですが、その大根をふやかせた汁にはいいダシが出ているため、その汁を捨てることなく調理に使うのが料理を美味しくするポイント。実は精進料理にもこのようなだし汁が使われているのだそうです。それを山菜やニンジン、コンニャク、ちくわなどと一緒に煮て味を付けたらできあがり。一度茹でてある大根は、味の浸透も早く調理時間も短縮できるそうです。

「湿気に注意すれば、半年は保存できる」という寒干し大根。素朴ながらも野菜本来の味を堪能できる、中条地区の寒干し大根は、また格別の美味しさでファンが多いというのも納得です。もちろん、太陽の恵みをたっぷりと浴びているから栄養も満点。外へ出るのが億劫な冬でも、手間をかけて作られた寒干し野菜を使って作った温かい手料理が一品あれば、心も体もきっとホカホカとしてくることでしょう。

07-R0020953.jpg「わんさか市」
長野市中条住良木1704
道の駅「中条」内
電話:026ー267ー2232

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