信州も梅雨に入って、田んぼの稲や畑の農作物が急に背を伸ばしています。気温も高くなってきて、じめじめしてきました。こんな季節になったら、ホタルです。ゲンジボタルで有名な辰野町のホタル祭りに行ってきました。
町が提供する「平成23年度 ホタル発生表」をチェックすると、6月21日火曜日の夜20時から1時間に目視したホタルの数が6404で今年のピークのようです。以後は5000代で推移していますから、まさに今がホタルを見に行く絶好の機会のようです。
ホタルたちには公演時間があります
町内にあるたつのパークホテルから送迎バスでホタルが群生する松尾峡(ほたる童謡公園)に到着したのは19:30頃。車内ではホテルの関係者からホタルについて解説を聞きました。例年幼虫が1万匹くらい確認できますが、今年は8千匹程度ということで少し少ない状況。ホタルが光るのは20時から21時と22時から23時頃の2回程度で、湿気を十分に吸って蒸し蒸しとした日が特によく見れるとか。しばらく公園を歩いていると大量に光っている場所があり、時計を見ると20時を過ぎ。ホテルの方はこの時間を公演時間だとも言っていました。
公園内はどこに行っても幻想的にホタルが光っています。まるで呼吸をしているかのように光っては消え、消えては光りを繰り返しています。場所によっては、目の前の木にとまっているところもあり、手を伸ばせば捕まえられそうな感じもします。昔は長ネギの頭にある葱坊主などと呼ばれる部分をとって、その中にホタルを入れて遊んだという方もいらっしゃいましたが、今では当然ながら見るだけ、ホタルを捕まえることは禁止されています。しかしときどき光りながら宙を舞うホタルには人生を感じますね。
辰野町がホタルの名所になるまで
長野県南部に位置する上伊那郡辰野町は、塩尻市と伊那市を結ぶ国道153号沿いに位置します。しだれ栗や福寿草などでも知られる町ですが、昔からここにはゲンジボタルの発生に適した自然がありましたが、昭和の高度経済発展期に工場廃水や家庭雑廃水や農薬の使用等がふえるにしたがって、ホタルの数もしだいに少なくなってきました。
町ではホタルを守ろうと水のよごれを防ぐため、沢のきれいな水を加える工事を行い、結果を確認した後、休耕田にホタルのすめる小川をつくったのです。それからさらにふたつの水路を造り、昔からの水路の改修にあたって、コンクリートのほか木くぎを使ったり、川幅を広くして、ホタルのすみやすいような工事をし、小川にホタルの幼虫や、カワニナを放したのです。いごずっと小川のまわりの草をかったり、泥上げをしたり、いつもホタルやカワニナのすみやすいように、手入れを続けています。そこが松尾峡・ほたる童謡公園です。今も諏訪湖から流れる天竜川の水が、ホタルを育てています。ホタルは昔は県内のあちらこちらで見ることができましたが、現在では小諸市御牧ヶ原笹沢川、木島平村南鴨地区大塚周辺、志賀高原石の湯、塩尻市のみどり湖、北安曇郡池田町の花見ほたるの里、大町市木崎湖、上高地など10ヶ所ほどになってしまいました。そして今、信州のホタルの名所の筆頭にしばしばあげられるのが松尾峡(ほたる童謡公園)なのです。
祭りが終わってもホタルがいなくなったわけではありません
松尾峡は大正時代に県の天然記念物の指定を受けました。平成になるとすぐ、飯田市ギフチョウ公園や木曽郡南木曽の大妻籠花菖蒲園などとともに「ふるさといきものの里100選」にも指定されました。辰野町では、美しい自然を守ろうという町民の気持ちを後世に伝えていくために、ホタルを特別シンボルとして制定もしています。毎年6月中下旬の最盛期には、町をあげて盛大なほたる祭りが行われ、美しく幻想的なホタルの乱舞を楽しむ人々が、遠く県外からも訪れます。今年のホタル祭りは26日に終わりましたが、ほたる祭り終了後でも発生数が5000を数えるほどのほたる観賞期間は今週いっぱいは続きます。
ホタルとつきあうためのルール
松尾峡(ほたる童謡公園)ではホタルを捕まえたり、持って帰ったりしてはいけません。捕まえて帰ると条例違反になりますからご注意ください。今年も条例違反で捕まって新聞のニュースになった方がいました。写真を撮りたくなる光景ですが、フラッシュは厳禁されています。フラッシュを焚いてはホタルの光は撮影できませんし、ホタルが強い光を嫌うそうです。また他のお客さんにも迷惑になります。フラッシュ発光をしない設定にして撮影するようにしましょう。ルールを守ることで、自然も守られるのです。
ホタルは清流に棲む日本固有の昆虫だそうですが、自然に恵まれた信州には辰野町の松尾峡のほかにもホタルの名所があります。大町市の青木湖や上高地、志賀高原などでは7月から8月にかけてピークを迎えます。これらホタルの名所では、いずこも辰野町と同じく、自然を守ろうという取り組みが行われています。ホタルを見て「きれいだな」と思うだけではなく、今という特別な時代のかわりめに、人生を感じたり、自然を守る取り組みについても考えて、便利になりすぎたかもしれない私たちの生活や生き方を見直してみる機会にしてみてはいかがでしょうか。ホタルたちも懸命に生きていました。