初夏の美しい村でわたしたちを待っていたもの 上編
長野県下伊那郡大鹿村(おおしかむら)。移ろいゆく季節を五感で感じ、四季の景色や色とりどりの花々、大気、雨、など自然と一体となれる場所。大鹿村は、自然の中に人がみごとに溶け込み、どこか懐かしく、また美しくて、時がゆったりと流れて、人々がそこで日本列島の原風景と呼べるものと出会うところ。そこは長野県のみならず、日本を代表する風景として、季節ごとに表情を豊にかえる、世界に誇れる村。大自然の真ん中にあるこの大鹿村の初夏の旬の魅力を、これから3回にわたって紹介します。まずは村役場の近くにあって、観光協会が運営する「ビガーハウス」という大鹿村の観光案内所で、最新の情報をたっぷり収集の後、今回は村を代表する花となったヒマラヤの青いケシの花(ブルー・ポピー)と、大鹿そばのふたつをピックアップしてみました。
神々の時代から知られていた土地
大鹿村は、長野県の南に位置し、最高峰の北岳(3193m)をはじめとする南アルプスのふもとにある人口1200人程度の山村で、中央自動車道松川ICから車で約40分。村は、ともにかつての徳川家の天領である大河原(おおかわら)地区と鹿塩(かしお)地区のふたつの村から成り立ち、合わせて「大鹿村」。南アルプスからくだり落ちる天竜川の支流の小渋川(こしぶがわ)がの清らかな水が、そこではいのちの水として生命を育んでいます。小さいながらも歴史は古く、すでに西暦800年頃には上下諏訪社の領地として管理されていました。同様に昔から、鹿塩地区では塩泉(しおせん)が湧き出し、海から遠く離れた標高750mの山奥にありながら、製塩事業が行なわれてきました。一説には神代の昔、諏訪大社で権力闘争に敗れてこの地へ落ち着いた建御名方命(たてみなかたのみこと)が、大好きな鹿狩りをしていた際に、鹿が好んでなめる水を調べたところ強い塩分を含んでいることがわかったとか。で、この山の塩の不思議については2回目で詳しく。
日本でもっとも美しい村のひとつ
さて、今から4年前の2005年に、大鹿村など全国の7町村が発起人となり、将来にわたって美しい地域づくりを住民により進めようと「NPO法人『日本で最も美しい村』連合(事務局・北海道上川郡美瑛町)」が設立されました。この美しい村連合は現在では参加する村が全国18町村に増えています。
美しさをさらに引き立てる青い花
本格的な夏を直前にひかえた日本でも有数の美しい村、初夏の大鹿村で、その美しさをいっそう引き立てているものは、村の中村農園に咲く「幻の花」ヒマラヤの青いケシの花です。この神秘的な美しさの花を見る人たちの車で時には渋滞が起きるほどだとか。大鹿村中心地から車で山道を登ること40分。ありました。ブルー・ポピーの庭です。日本で、これだけ見事な青いケシを見ることができるのは、ここだけ。原産地は、ヒマラヤ山脈やチベット、ミャンマーで、標高5000メートル級の高地に生息する高原植物です。ヒマラヤの山の中にある平和な小国ブータンの国の花。品種名は、メコノプシス・多年草――。
この土地だけ、彼だけが可能にした
花を育てている中村農園は、標高1500メートルの大池高原(おおいけこうげん)にありますが、それでも原産地よりも標高が3000メートル以上も低いのです。切り花作りのエキスパートであり園主である中村元夫(なかむら もとお)さん66歳は、13年前の平成6年に、村の観光になるめずらしい花をと、不可能と言われていた青いケシの種を蒔き、最初は200株から育成をはじめました。種子や苗は、一般の苗業者から取り寄せることができるのですが、プロの花屋さんでも「幻の花」と呼ぶほど、これは栽培・管理が難しい品種です。もちろん切り花として販売はしておりません。村のホームページの注意事項にはこう書かれています。「写真撮影をする際に、花を踏んだり、さわったり、地面から抜いて持ち去る方がいますが、そのような行為は絶対におやめください。ご自宅へ持ち帰ってもすぐに枯れてしまいます。」
「株が非常に脆弱で、根が付かずやめようと思ったが、村のためになれば」と続けてきた理由を中村さん(写真上)は語ってくれました。種まきから、見事な花を咲かすまでに、順調に育っても3年ほど年月がかかるそうです。現在では、中村さんの努力が実り、花は5000株まで増えました。
今年は昨年より青が鮮やか
「栽培には、気温が25度を超えず、適度な雨が降り、夜に気温が下がること。乾燥にも弱いため、日本には向いていないよな」と中村さんは苦笑いしました。自生するヒマラヤでさえ、雨季の一定の時期にしか咲かないそうです。今年は、昨年より鮮やかで、神秘的な青い色が出ています。中村さんは「多くの人に楽しんでもらい。また、小さな株が一生懸命、来年花をつける。楽しみでしょうがないよ」と眼を細めました。青いケシの花は、現在、見ごろを向かえ、7月はじめまで楽しめます。
山菜と食べる大鹿のソバ
この青いケシの中村農園手前にあって、大池高原のランドマークともなり、しかも名物の大鹿ソバが楽しめるのは、大鹿そば店「おい菜」というお店。お店の名前である「おい菜」の由来は、南信地方の方言で「おいな=おいで」で、これには「こっちへいらっしゃい」という意味があります。大鹿のそばは江戸時代から伝わる皿ソバで、ツユと絡めていただきます。おい菜特製麺に、風味豊かなツユがよくあうのです。
今の季節は、ソバにはもちろん山の恵である山菜。店主の蛯澤義昭さん(えびさわよしあき)さん58歳が、毎朝5時に山へ取り出掛けます。旬の山菜であるワラビ、山うど、ふき、山三葉、モチ菜、ハンゴン草、やぶれがさ、こしあぶらなどが、ふんだんに入っています。素揚げされた山菜の天ぷらのサクサク感とソバの愛称が良く、クセになりそう。蛯澤さんは「リピーターの方がほとんどですね。大鹿ソバならではの、山菜と一緒に絡めて食べる幸せを、多くの方に堪能してもらいたい」と話してくれました。
お楽しみはまだまだあります
ここではまた、近ごろでは脂肪の少ないヘルシーミートとして注目される鹿肉のタタキや生ハムも堪能できます。大鹿村の鹿肉などジビエ(野生鳥獣肉)については3回目に詳しく紹介お伝えします。
初夏にはヒマラヤの青いケシ、天然の九輪草など、珍しくキレイな花々を鑑賞できる大池高原、夏から秋にかけては、森のなかのキャンプ場もありますから、南信州大鹿村の大池高原へ、おいな、おいな。
ということでまた来週。
アクセス
標高1500メートルにある切花専門農園 中村農園
入園料:500円
開園時間:AM8:00〜PM5:00
住所:長野県下伊那郡大鹿村2153
電話:0265−39−2372
案内サイト
道案内図
大鹿そばの店 おい菜
住所:大鹿村鹿塩2459-1
電話:0265−39−2860
大鹿そば ¥1000
営業:4月29日〜11月3日
定休日:火・水・木(祭日は除く)
ビガーハウス
住所:長野県下伊那郡大鹿村大河原389
電話:0265−39−2929
営業:通年、9:00〜17:00、休業日(毎週水曜日)
*大鹿村のことを知りたい、大鹿村の今の情報を教えてほしい、そんな時、観光協会が運営する「ビガーハウス」がおすすめ。村内の宿や食、旬の農産物、お土産などの情報からアクセス方法まで、なんでもを教えてくれます。
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