資生堂パーラーのアイスクリーム
ある程度年配の方なら同感していただけると思いますが、初めてアイスクリームを食べたときの感動ほど、食べ物の印象が強かったことはないのではないでしょうか。
私の場合は長野市内のお寿司屋さんで(!)食べたのが最初の記憶です。4、5歳のころだったでしょうか。
なんで寿司屋でアイスクリームなんだ、とのツッコミはさておき、あの味は今でも忘れられません。もちろん、当時の味は忘れてますけど、その後アイスクリームを食べるたびに新たな記憶に上書きされるということです。
かつて長野市の昭和通りにあった丸光百貨店の食堂でも、同じようなアイスクリームを何度か食べた思い出があります。
アイスクリームという名の食べ物は無数に食べましたが、あのシャンパンタワー用のグラスみたいな形の銀色の器に麗しく盛られたアイスクリームは別格です。小さな角スコのような上品なスプーンが添えられ、「さあ、これから特別な時間が始まりますよ」と言われているようなワクワク感がたまりません。
あのワクワク感は、かき氷では味わえませんね。かき氷が聞いたら怒るかもしれませんが、オヤジがランニングにステテコ姿でうちわ片手に掻っ込むのもアリというか・・・。いや、かき氷も大好きですけど、ちょっと違う雰囲気があのアイスクリームにはあります。
食べる前に柏手(かしわで)、こそ打ちませんが「いただかせていただきますです」と、日頃言いつけないあいさつを心の中で述べ、おもむろに端の方にスプーンを入れる。なぜ最初にてっぺんからすくわないかというと、上が広がり、細長い首の器の安定性がそれをさせない、これも上品な食べ方を客に強いる一方法であると私は睨んでいます。
さて、そのアイスクリームですが、単体で食べるほかに、デザートとして選ぶ場合もあります。
何かを食べた後に・・・。ラーメンでもカツ丼でも構わないのですが、ふつうは「従」であるデザートも、銀の器のアイスクリームだけは「先に食べるものは私に選ばせて」と、特権を主張します。
フレンチやイタリアンでなくても、せめてパンケーキかサンドイッチ・・・。カツ丼のどこが悪い、とのお怒りの声が聞こえるようですが、私が申しているのでなく、アイスクリーム様がおっしゃっていることなので、なんともはや・・・。(昭和人)